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Blue Suede Shoes

ブルー・スエード・シューズ

エルヴィス・プレスリーは生前、「自分はどこから来て、どこへ行くのか。自分は何者なのか」とよく語っていたらしい。内省的なエルヴィスを象徴するような言葉だ。
アイデンティティとは自己規定である。 ALL YOU CAN EAT とはビュッフェ・スタイルのレストランに掲げられた言葉だが、いくら食べてもいいと言われても、すべてを食べれば腹痛を起こす。暮らしも同じで、やろうと思えば何でもできる。しかし何でもやるのは大変だ。才能がないというのではなく、時間が足りない。結局、何か選び、多くを捨てることになる。それがアイデンティティだ。
捨て去ることこそ、自分への出会いの第一歩と言える。
エルヴィスは70年代の日々を多忙に過ごしながら、その視線の向こうに何を見ていたのだろうか。

<ブルー・スエード・シューズ>は青春の歌だ。しかも、あのアメリカにあって、ダックテイルと呼ばれたエルヴィスの髪型を真似た高校生が退学処分になった時代の楽曲である。
スピーディーな展開だが、とても切なく、痛みすら覚えるけれど、感傷的でなく、挑戦的だ。ロックンロールの精神性は反抗、反逆、抗議によって形作られている。その意味でこの<ブルー・スエード・シューズ>は自分への挑戦に満ちている。大人たちの既成の価値観に縛られることなく、自分の価値観で突進していきたい自尊心に溢れている。自尊心といっても自分の価値観すら、それほどしっかり確立されているわけでもなく、揺れ動いていて危ういものだが、頑に自分にこだわることで、誰のコピーでもない、自分を発見したいという思いに満ちている。
これほどはっきりと「アイデンティティ」を持てる幸福の確かさは、それを持てない空白を埋めるための代理を務める様々な一瞬の嗜癖とは比較にならないのだ。

たいていのことはどうでもいい。でもこれだけは大事にしたい、という思い、「自分」を「ブルー・スエード・シューズ」に比喩したこの曲は、ロックンロール黎明期早々に音楽的にも、精神的にも、最高峰に到達していたバイブルだ。

くだらない、ほとんど意味がない歌詞ゆえに、かえってダイナミックなアプローチをしているロックンロールの大傑作、例えば<監獄ロック><ビー・バップ・ア・ルーラ>あるいは<スメルズ・ライク・ティーン・スピリット>などもひとつのあり方である。それらとはまた違ったもうひとつのあり方であるこの大傑作は、こんにちのロックの礎になっていると言っても過言ではない。”ロックしな!よし、いけ、よし、いけ、ゴー、ゴー!”とシャウトしていても、曲の本質が覚醒していて理知的であることは、聴く者が奥底で理解していることだ。なにより”一つめは金のため”という出だしのフレーズが現実感をきっちりとらえている。資本主義社会との折り合い、身の回りとの折り合い、場合によれば覚醒していないものにさえ、折り合いをつけなければ自分に正直になれない怒りを奥底に鎮めながら、エネルギーに転換させて突き進む姿は、どんな環境にあっても、自分を失いたくない者にとって、このオタマジャクジの爆弾は世に放たれて50年近くを経過しても未だにテーマソングになりえる代物なのだ。

エルヴィスの<ブルー・スエード・シューズ>は公式にはふたつのバージョンがある。『エルヴィス・プレスリー登場!』と『G.I.ブルース』に、それぞれが収録されているが、空気が全く違う。それぞれいい味であることは違いないが、曲の本質からすれば『エルヴィス・プレスリー登場!』に収録されたものに尽きる。さらに疑似ステレオ盤であれば、深いエコーと楽器のザラつきが本物の大人には遠い空気とサッカリンのような甘味を漂わせて、青春の甘い香りがより鮮烈なのだ。
ひとつ文句を言うなら、この日本盤のシングルとEP盤のジャケットだけはなんとかならなかったのかと首を45回ぐらいひねってしまう。シングルは映画『キッスン・カズン』のスチールだし、EP盤はなんだか妙におとなしい表情でパスポートかライセンスなんかみたいで、両方ともハートに響かない。内容を無視した感覚はマーケティングからしても全然ダメ!もっと曲にふさわしいワイルドな写真があったはずなのに!!

腕と前髪をダランと落とし、暗闇から表れた男は、ニヒルに笑うより先に、全身を震わせ、いきなり突進する。一、ニを手早く片付けて一刻も早く三に辿りつくかのようにだ。暗闇を金色に照らすパワーは金色よりも金色に光りながら青い靴に光りを当てる。繰り返されるなにをしたっていいけれど、ブルー・スエード・シューズだけは踏まないで/Well you can do anything
But stay of my blue suede shoes
は真実へ向かう曇りのない信。エルヴィスがどこから来てどこへ行こうとしていたのか、はっきり聴こえてくる声だ!さあ、やってくれ!これぞ、ピュア・ロックンロール!何度聴いてもゴールド・スタンダードだ。

*一つめは金のため
二つめはショーのため
三で用意ができたなら、さあ行くぜ
でも俺のブルー・スエード・シューズを踏まないで
なにをしたっていいけれど
ブルー・スエード・シューズだけは踏まないで

俺のことを突き倒し
顔を踏んづけたって構わない
町中に悪口を言いふらしてもいいさ
でもどんなことをしようとも
俺の靴だけには近寄るな
俺のブルー・スエードシューズを踏まないで
なにをしたていいけれど
ブルースエード・シューズだけは踏まないで
(よし、行ぐせ!)
(一発キメてやれ!)

俺の家を燃やそうが
大事な車を盗もうが
酒を飲んじまっても構わない
どんなことをしようとも
俺の靴だけには近寄るな
俺のブルー・スエード・シューズを踏まないで
なにをしたていいけれど
ブルー・スエード・シューズだけは踏まないで

(ロックしな!)

*アドリブでくり返し

ブルー、ブルー、ブルー・スエード・シューズ
ブルー、ブルー、ブルー・スエード・シューズ
ブルー、ブルー、ブルー・スエード・シューズ
ブルー、ブルー、ブルー・スエード・シューズ
なにをしたっていいけれど
ブルー・スエード・シューズだけは踏まないで

1955年12月、カール・パーキンズが録音、翌年3月エルヴィスより先にR&Bチャートに白人初のチャート・インとなった。そのせいか、一部にはエルヴィスよりカール・パーキンズの方が才能があったとか、エルヴィスはカールのコピーだとか、ワケの分からない流説もあるが、キングの真実は55年のサンでの震え上がるような名曲の成功、10月の全米ツアー『エルヴィス・プレスリー・ジャンボリー』、56年1月のTV出演、2月<ハートブレイク・ホテル>の全米チャート・イン、その後の実績が物語っている。でもこのすてきな曲が、そんなふうに扱われるのは、とても悲しいことだ。きれいなブルーの靴を汚す戯言でしかない。ロックンロールがLPに閉じ込められたのと同じようにつまらない話だ。ロックンロールは下劣だ、エルヴィスは猥褻だとレコードを焼き払われ、コンサートが禁止になっても、エルヴィスもカールも、夢に向かって突進していたのだ。
挑戦するハートに優劣なんてありはしない。

これは45回転のドーナツで作られた教科書だ。
あるいはお守りかも知れない。ティーンエージャーたちの熱狂によって、アルバムから救出されたのだ。1956年8月、RCAは最高に粋なことをした。RCAにとってはビジネスだったのだが、それは前代未聞のことだった。群がるティーンエージャーの手におさまるようにアルバム全曲をドーナツにしてしまったのだ。おかげでティーンエージャーは自分のバッグに自尊心を忍ばせて、突進することを可能にしたのだ。
時は過ぎたが、状況が変わったわけではない。新しい突進者は大人たちの既成の価値観と一線を画す。アップル・コンピュータの青いパソコンのCMに使用されたのも、ついこの前のことだ。「何をしてもいいけど、オレの青いコンピュータには触るな」ということか。嬉しいことに、エルヴィスはいまでも新しい突進者を作り続けているのだ。

あの時ティーンエージャーだった者のバックにいまもドーナツは入っているだろうか?
あるいはブルーのスエード・シューズをはき続けているのだろうか?70才のバッグだったら、カッコいい。1956年からずっと使い続けたバックだったら、もう最高にクールで素敵。ブルー・スエード・シューズのはき心地を新しい突進者に聞かせてやろう。ジイ、ロックしょうぜ!なんだか、今夜は泣けるよネ。

新品の運動靴が嬉しくて枕元に置いて寝た経験ありませんか?どしゃぶりの雨降りでもブルーのスエード・シューズなら決してへこたれないことは覚えておこう。

* Well it,s one for the money
Two for the show
Three to get ready now go cat go
But don't you step on my blue suede shoes
Well you can do anything
But stay off my blue suede shoes

Well you can knock me down
Step on my face
Slander my name all over the place
Well do anything that you want to do
But ah, ah honey. Iay off them shoes
And don't you step on my blue suede shoes
Well you can do anything
But stay of my blue suede shoes
(Let's go cat!)
(Ah, walk the dog!)

You can burn my house
Steal my car
Drink my liquor from an ol' fruit jar
And do anything that you want to do
But ah, ah honey, Iay off my shoes
And don't you step on my blue suede shoes
Well you can do anything
But stay off my blue suede shoes

(Rock it!)

* Repeat with adlib

Well it,s blue blue blue suede shoes
Blue blue blue suede shoes, yeah
Blue blue blue suede shoes, baby
Blue blue blue suede shoes
Well you can do anything
But stay off of my blue suede shoes

70年代ステージでの”Blue blue blue suede shoes, yeah-------”のアクションもよかった。

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