BOSA NOVA BABY
ボサ・ノヴァ・ベビー エルヴィス・プレスリー13作目の劇映画『アカプルコの海』公開に先立ってサウンドトラックからシングル・リリースされたのが<ボサ・ノヴァ・ベイビー>。エルヴィスの楽曲ではお馴染みのジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの強力コンビの作品だ。
この映画『アカプルコの海』と同時期に当時のハリウッド若手総出演の映画『パームスプリングスの週末』が公開されている。パームスプリングスはアメリカ有数の別荘地だった。エルヴィスも所有していたし、マリリン・モンローをはじめハリウッドのスターの多くが息抜の場にしていた。主演のトロイ・ドナヒューが主題歌<恋のパームスプリングス/Live Young>をヒットさせ、<アカプルコの海>と日本のヒットチャートで競い合っている。ノビノビとした曲はそのタイトルのままだ。<ヤングワン>のクリフ・リチャードや、ビーチ・ボーイズ、ジャンとディーンらサーフィン・ミュージックも太陽をいっぱいに浴びていた時代だった。
映画『アカプルコの海』が全米で公開されたのは、1963年11月27日だった。11月12日、ケネディ大統領がシカゴにて暗殺されてから、わずか5日後だった。 『アカプルコの海』全米公開の翌1964年に東京オリンピック開催。同年ビートルズがアメリカを席巻する。すでに62年にヨーロッパでは人気を獲得していたが、アメリカでの評価は低く、アメリカで本格的に販売されたのは64年だった。64年にはエルヴィスの<青春カーニバル>はアルバム・チャート第1位になっている。映画は『ラスベガス万才』『キッスン・カズン』『青春カーニバル』に出演。長寿シリーズの代表作『007ロシアより愛をこめて』が公開された年でもある。 それにしてもメキシコの光をいっぱいに浴びた『アカプルコの海』でのエルヴィスは健在で、特に日本のファンはこの時期のエルヴィス大好き層だ。ロカビリーのエルヴィスでも、ジャンプスーツのエルヴィスでもなく、<ロカ・フラ・ベビー><心の届かぬラヴ・レター><ボサ・ノヴァ・ベビー><好きだよ、ベビー>の軽快な身のこなしはロカビリー・エルヴィスの洗練バージョンだ。多分それは『無条件幸福』なのだ。歌の中味が何であれ、ヒットチャートのランキングがどうであれ関係ない。社会へのメッセージなんて関係ない。しかしこれだけ多くの人を幸福にしてくれる楽曲、パフォーマンスはそれだけで十分優れた社会性のあるものだ。エルヴィスのように動きたかった人がたくさんいたはずだ。多分オルガンの代わりにミシンをなぞっていた少年やニキビ顔のワルガキも多いはず。 白いジャケットのエルヴィスがカッコよかった時代。アロハシャツのエルヴィスがヒーローだった時代。指を鳴らしながら笑っていたエルヴィスにのめり込んでいられた時代、エルヴィスが一番愛された時代はアメリカも日本も陽射しを浴びて輝いていた。 「ロールはどこに行ったんだ。」キース・リチャーズ エルヴィス・プレスリー 今週ノおススめ |
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