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イッツ・ナウ・オア・ネバー、エルビス・プレスリー、エルヴィス・プレスリー
l IT'S NOW OR NEVER
イッツ・ナウ・オア・ネバー

RCA100年記念アルバムの一環としてリリースされたアルバムに収録された曲の数々。しかし当然の選曲もあるものの、なぜこの選曲なのかと考えると、理由が分からなくなる。しかし、余計なことは考えない。美しいジャケットを可能にした清廉な表情の若いエルヴィスのモノクロ写真、右上には『青春カーニバル』のスティールが施されている。それだけで十分に魅力的なアルバムなのだ。

考えてみれば、パソコンが普及し、CDに保存できる環境が広がり、MP3で保存すれば、いくらでも『私の好きなエルヴィス』は製作出来る。並のエルヴィス・ファンなら買う必要はジャケットしかないのだ。勿体無いと思っても購入させる威力を持ったジャケットだ。ところがジャケットだって自分の好みで制作できる。いよいよ買う必要などないのだ。しかしそうはいかない。やはり公式にリリースされているというのが嬉しいのだ。それが立派であればあるほど嬉しいのだ。エルヴィスが好きだからだ。

さて、曲はというとーーーーー。やはりRCAの大看板として大活躍したエルヴィスの1曲を選ぶなら文句無し、絶対にはずせない<ハートブレイク・ホテル>に尽きるだろう。7週連続ナンバーワン、27週チャート・インという実績でメジャー・デビューを果たした作品だ。実際にフロリダに存在した「ハートブレイク・ホテル」と一通の遺書を題材にしたこの衝撃の名曲に触れようとしたのだがーーーーー書けないのである。あまりにも偉大な一曲を前にして、遅々として進まない。この世界を変えた一曲と言って過言でない名作について触れるには度胸不足と畏敬の念がこみあげて、「今週ノおススめ」はタジタジになってしまった。

何も進まぬままに、カレンダーだけが変わるだけ。そこで急遽、方針転換して、この中からリニューアル・デビュー(この言葉に全く意味はない。こじつけです)の要素がある、大ヒット曲をピックアップ。チャチャチャのリズムに乗って見事な歌唱力の<イッツ・ナウ・オア・ネバー>です。

イッツ・ナウ・オア・ネバー、エルビス・プレスリー、エルヴィス・プレスリー

除隊後60年3月のメガ・ヒット<本命はお前だ>に続く第2弾シングルとして60年7月にリリース。8月1日から9月18日まで連続5週ヒットチャート・トップになったこの曲は、成長著しいパフォーマンスを披露。華麗なる変身をリアルタイムで聴いた人には相当な衝撃だったと想像するのは容易だ。すでに駐屯中の西ドイツで、レコード化を希望していたエルヴィスの望みが叶ったものだけに、気合い十分、ニュー・エルヴィスをアピールする野心も十分だっただろう。

除隊したエルヴィスはこの曲をグラディス・ママに聴かせたかっただろう。おそらく地上で一番喜んだと思われるグラディス・ママ。元気でいたなら、いや例え病気で床に臥していても飛び上がった喜んだろうと想像するのは容易だ。一方エルヴィスはグラディス・ママがRCAビクターのワンちゃんのように、レコードに耳を傾ける幻影を何度となく想像しただろう。

そういう意味で、エルヴィスがこの後歌った民族音楽をベースにした名曲やバラードの数々はグラディス・ママへの思いがファンに投影されていたような思いもするのだ。エルヴィスが愛されるのは、やはりその人間性によるのだろう。
時代が変わり、急にシンガーソング・ライターの時代が訪れ、作品イコール自己主張というロジックの中で、そのような意味での自己主張のなさと作品の質の低下というダブル・パンチによって急速にエルヴィスの音楽が色褪せたように見えた。しかし人に世にあって変わらないのは人間の心である。
いまなお愛され、RCAといえばエルヴィスというほどのブランドを、トラウマに苦悩しながらも、たったひとりの人間の心に宿った思いが守り続けたというのは芸術そのものである。まさしくArtist of the centuryと呼ぶにふさわしいことだ。

エルヴィスはこの曲が余程気に入っていたのか、あるいは心の中に深く浸透していたのか、70年代のコンサートでも熱の入った歌唱を披露している。サウスダコタでのコンサートで演奏されたシェリー・ニールソンの歌う原曲<オー・ソレ・ミオ>とリレーで歌っている模様は『エルヴィス・イン・コンサート'77』に収録されている。おそらく西ドイツでこの曲を歌いたいと思った時の気持ちが忘れられなかったのではないかと推測する。除隊後のカムバックへの不安、ヒットチャートに蠢くポップスーーーエルヴィスは新たな挑戦として、この曲を受け止め、そして成功が嬉しかったのだろう。

世界にはいろんなレーベルが存在する。しかし、例えばだが、デッカとエルヴィスというのは、ピッタシこない、それがCBSでも同じだ。

犬のマークとエルヴィス。粋な似合いのカップルだった。

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