DOWN IN THE ALLEY
横町を下って ニュー・アルバム『リズム&ブルース』『カントリー・ロック』『グレイテスト・ヒッツ・ライヴ』がリリースされた。
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1966年5月25日から28日の間、ナッシュヴィル・RCA・Bスタジオでアルバム『ゴールデン・ヒム/HOW GREAT THOU ART』のためのゴスペル・セッションが行われた。 ナッシュヴィル録音ではずっとプロデューサーを務めたチェット・アトキンスに代わってフェルトン・ジャーヴィスが就任。 翌年グラミー受賞となるアルバム作りにエルヴィスとともに参加したミュージシャンは以下の通りだ。 ギター/スコティ・ムーア、ハロルド・ブラッドリー、チップ・ヤング ピアノ・オルガン/フロイド・クレーマー、ヘンリー・スローター、デヴィッド・ブリッグス ベース/ヘンリー・ストレズレッキー、ボブ・ムーア、チャーリー・マッコイ ドラムス/バディ・ハーマン、D.J.フォンタナ ハーモニカ/チャーリー・マッコイ サックス/ブーツ・ランドルフ、ルーファス・ロング スティール・ギター/ビート・ドレイク トランペット/レイ・スティーヴンス コーラス/ザ・ジョーダネアーズ、リッキー・ペイジ、デロレス・エドジン、ミリー・カークハム、ジ・インペリアルズ 66年5月25日に<偉大なるかな神><高きところに>を収録したのを皮切りに28日までの間、集中的にゴスペル・セッションを行っているが、5月26日には<明日は遠く>と共に、本曲<横町を下って>を録音している。(27日には<ラヴ・レター>も録音) 本曲は当初『カリフォルニア万才』のボーナス・ソングとしてリリース。その後『明日は遠く』に収録されたが目立った扱いがされたことがなかった。 にもかかわらず数多い有名な曲を抑えて3枚組アルバム『アーティスト・オブ・ザ・センチュリー』に収録されている。その選択が納得のいくものであることは、横町を下れば分かる。 |
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ドラムが静けさを切り裂き、”ジェニー、ジェニー、ジェニー”のコーラスとともにエルヴィスが歌い、ハーモニカが後を追う。「さあ、やるぜ」と言わんばかりの出だしで始まる、この魅惑的なブルース----------チップ・ヤングのビートなギターとブーツ・ランドルフのサックスをロックさせ、エルヴィスは桃源郷へ進んで行くーーーーまるでチンピラ・グループが自分の好みの相手を探しながら、色街を練り歩くように、それぞれのパーソネルのどれもが伴奏ではなく、それぞれが自分を解放し、自分をプレイしているのだ。ーーーーでありながら、まとまっている様は完璧で凄まじいまでの魅力だ。 ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー・ジェンキンズ (訳詞:アルバム『明日は遠く』より引用) エルヴィスは、この極めて世俗的で猥褻な匂いが強く漂うブルースをゴスペルとともに意欲的にノリに乗って、録音している。白い教会を抜け出してネオン街を練り歩き、いつの間にか、教会に戻って神妙な顔つきでゴスペルを歌っているかのように。 |
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時は流れてメジャー・デビューから10年が過ぎた1966年。自分をありったけの力でロックさせ、生命の躍動をあれだけ確かに表現したエルヴィスがその後、映画に封じ込めていた力量の真価を「自由と尊厳」をコアにしたゴスペルで発揮すればするほどに、自身の生命の解放をしたくなるのも無理がないのではと察する。まさしく天使の心も、悪魔の心も、その両方がエルヴィス自身はもちろん誰にとっても命の源であると語り、それを歌で表現する瞬間、生きるエクスタシーが身も心も疾走したのではないだろうか。悪魔を受け入れる心の広さが、後年地響きがするような雄大さに発展して行った原動力であるように思えるし、<フール><心の痛手>などそこでは悪魔すらも、許されなだめられているようである。 NBCライヴの宝物、シットダウンショーで仲間から「もっとダーティにやれ!」と声が飛ぶのも、そこにエルヴィスの真髄があるからだ。エルヴィスはロックンロールによってブルース(悪魔)に勝った男だ。悪魔的にやればやるほどに自分の中での葛藤が起こり凄まじいエネルギーが噴出するのがエルヴィスなのだ。 陰のある反抗的なキャラクターを主人公にした映画、<トラブル><監獄ロック>などに代表されるように入隊以前の映画用の楽曲とくらべ、除隊後のそれらが平坦に聴こえがちなのは曲そのもの出来栄もさることながら、好青年たる主人公のキャラクターを表現する多くの楽曲には、悪魔の心を宿らせる術がなかったからではないだろうか?サントラ用の楽曲ではどちらかというと、微妙な感情の綾を表現したしっとりとしたバラードやコミカルな味わいのあるポップな曲が冴えているのも、そういうことではないのかと思うのだ。 <横町を下って>がM-G-M映画『カリフォルニア万才』のサントラ・アルバムのボーナスソングとして収録されたことは興味深い。『フロリダ万才』のシェリー・フェブレーと再度コンビを組んだ、この映画はその出来は別にして、エルヴィス映画が興行的についにトンネルに入った頃の作品だ。ゴスペルへの意欲と共に、<横町を下って>では楽しんでいる様子が活き活きと伝わるパフォーマンスを残している。 チェット・アトキンスに代わってフェルトン・ジャーヴィスが熱意をもってこのセッションに取り組み、エルヴィスも本来の力量で応えた。<恋の特効薬>の黒人R&Bグループ、クローヴァーズがヒットさせたこの曲が取り上げられるにあたって、どのような経緯があったのか分からないが、最終的にエルヴィスが選択したことは、エルヴィス自身は、本能的に自分が進むべき道がどこにあるのか、はっきりと感じていたのではないだろうか。エルヴィスは本曲やディランの曲をあっさり自分流に料理、キングらしい仕事をしながら、このセッションで1960年『ELVIS IS BACK!』のインスピレーションを取り戻し、『68年TV スペシャル』へ向かった。----------それにしてもこの曲のドライブ感には魅力が溢れている! 本曲を収録したニュー・アルバム『リズム&ブルース』は『ロックンロール』『バラード』『バラード2』に続く一連のシリーズものだが、特に『リズム&ブルース』はエルヴィスの魂に迫った魅力的なアルバムだ。 |
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