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FOOL
フール

”エルヴィス・プレスリーの聴き方”は大体こんな形だ。
聴きこんだCDを引っ張り出して来てラジカセに乗せて回す。当たり前の様に音が出てくる。いくつかの曲が流れる内に「スゴイなあ」と驚くものに出会す。聴く度に新しいナニかを送り込んでくれる。感動が溢れて、数日、あるいは数週間聴き続ける。流石に飽きて来る。2〜3日、"PUNKGIRL"だけを聴いたりする。で、またCDジャケットを眺めながら、選択する。「またか」と思い、少しため息が出る。最初の手続きに近い。で、また聴きこんだCDを引っ張り出して来てラジカセに乗せて回す。当たり前の様に音が出てくる。やはりいくつかの曲が流れる内に「スゴイなあ」と驚く。で、また聴く度に新しいナニかを送り込んでくれる。ほぼ同じことを繰り返している。同じ曲に数えきれない驚きを繰り返しながらCDが増えていく。

CDショップではエルヴィス・コーナーへ行く。自分の行くショップはかなりの量のエルヴィスの在庫が日本盤(ほぼ完璧と思われる在庫)と輸入盤ともに常時ある。しかも日本盤と輸入盤が店の左右の壁際にあるので、毎回その間を脇目もふらず往復する。正真正銘の右往左往なのだが、眺めているだけで、大抵は買わずに帰る。すでに持っている曲を集めて編集した新譜は悩みのタネだ。自制する力がなんとか機能している点で、自分を信用することが少しは残っている。しかし手に入れなかったCDのジャケットが頭から消えてなくなるわけでなく、ひっかかっている。そういえばエルヴィスは「フック(ひっかかり)が大事なんだ」と言ってた。しみったれたことだが、眺めて安心しているのだ。多分。それはエルヴィスに会いに行くような気分に近いのかも知れない。ストックがあることで安心する。一番嬉しいのは、減っていたアルバムが大量に増えている時だ。先日は『バラード2』が大量に増えていた。
しかし時々、同じことを繰り返している自分に気がつき落ち込む。始末に悪いことに他のショップでも同じことを繰り返している。時間にゆとりがある暮らしをしているわけではないのだが、それが気分転換になっているのなら安いレクレーションと割り切っているのがいいのだろう。

それにしても、長きにわたってエルヴィスの創造したものが、飽きさせないのは、聴くたびに新しいナニかを送りこんでくれるからだ。
きっと、その最大の原因はエルヴィスの芸術が、すべて相反する二面性によって創造されているからだ。
それはいかなることにも束縛されたりしないんだと言ってるように思える。白か黒か、○か×か、いいか悪いか、好きか嫌いか、右か左か、怒りか許容か、悲しみか喜びか、ぼくたちの人生はその間を右往左往しているにすぎないと思えることさえあるほど選択に悩まされる。エルヴィスを想うにしてもサンのエルヴィス、入隊までのエルヴィス、60年代のエルヴィス、70年代のエルヴィス、選択することが日常的に慣れっこになってしまったせいか、ぼくたちはそんな風に分けたりして評価もする。多分意味のないことだ。

エルヴィスはどんなにベストを尽くしてそんなことをしても、自分の中から湧き出る喜びを誰も凹ませたりできないんだよ。と唇をゆがめて笑っていたのかも知れない。最終的に世俗的な意味で悲劇の内に自らのドラマを閉じたが、二面性を考えると本人は悲劇を楽しんでいたのではないのかという気さえしてくるのだ。「この世界は決して白でも黒でもない、レインボーカラーなんだ。だけど、みんなが白か黒かに決めたいのなら、決めてあげよう。どうだい、悲劇色にしておこうか、そう、僕は感傷的になるのが好きなんだ。ただ、好きなだけなんだ。」
それはエルヴィスの数多くの芸術がエルヴィス自身を超越して実証しているような気がするし、だからこそエルヴィスの音楽が芸術と呼べる理由のひとつなのだ。

ジョン・トラヴォルタが主演した映画『マイケル』は天使と雑誌記者と犬のロードムービー。トラヴォルタが演じた、上半身裸、白い羽根を出したまま、パンツひとつで日常を暮らしているなまけものの自堕落な天使は母親と二人暮し。雑誌社の取材中に母親天使は死んでしまう。自堕落な天使は雑誌記者と犬と旅に出る。道中では出会う人(女性)に続々とやすらぎを与えてしまう不思議なキャラクター。最後に旅の途中、犬を助けるために自らの命を絶ち、みんなの前から姿を消す。しかし実際は死んでいなくて、死んだはずの母親天使と町で楽しくダンスしているシーンで映画は終わる。
なぜか、ピエロにはこの天使とエルヴィスがダブる。その理由のひとつは<ほっとするほどの自堕落>(エルヴィスがこんなに自堕落だったとは思わないが)であること、<人を受け入れる許容度の大きさ><他人の痛みに敏感>おまけに<とてもセクシー>等等である。

人には苦悩や罪がつきまとうが、それらに束縛されることなどナニもない。
ましてや知らない間に背負っている大抵の罪はいわれのない罪だ。人は自由であり、完全でない罪に対して支払うべきものなどナニもない。
悲しみの最中にあっても本当の意味で生きる喜びを誰も凹ませたりできない。
「生きる」前には悲しみだって調味料でしかないという強靱さと優しさを表現しているのがエルヴィスの音楽だ。それはあの<ザッツ・オールライト、ママ>から、一貫してエルヴィスの全音楽を貫いている『骨太の芸術』だ。
悲劇の歌の中を悲しみを突き抜けた偉大な明るさが佇んでいるのは、ほとんどの曲に発見できる。エルヴィス自身、自分のことを「風変わりな人間」と称していたが、その体裁の向こうにはとても複雑なものが存在している。

歩けば転ぶ、また立ち上がればいいーーーー
だけど真実の愛なら失わないで、六月の花嫁に幸せを。

バカだね、彼女を傷つけずに済んだのに
バカだね、彼女を失うことはなかったのに
バカだね、愛すればよかっただけなのに
だけどもう、愛は去ってしまった

バカだよ、彼女は求めていたのに
バカだよ、彼女からも愛されたのに
バカだよ、愛すればよかっただけなのに
だけどもう、愛は去ってしまった
消えてしまった、愛と笑い

朝からのことを思い起こす
気づくことはできなかったのか、彼女の瞳が痛々しく
もう、終わりねと言っていたのを

バカだね、彼女を傷つけずに済んだのに
バカだね、彼女を失うことはなかったのに
バカだね、愛すればよかっただけなのに
だけどもう、愛は去ってしまった

バカだよ、愛すればよかっただけなのに
あの,恋はもう消えてしまった

バカだよ、彼女は求めていたのに
バカだよ、彼女からも愛されたのに
バカだよ、愛すればよかっただけなのに
だけどもう、愛は去ってしまった

バカだね、彼女を傷つけずに済んだのに
バカだね、彼女を失うことはなかったのに
バカだね、愛すればよかっただけなのに
だけどもう、愛は去ってしまった

ELVIS(1973)

盲目の人が杖を奪われた頼りなさを、嘆くこともせずに、これまで歩んだまっすぐな道を黙してまっすぐに進みながら歌っているような気がして、聴く者を圧倒する孤高の美しさを感じてしまうこの曲<フール>はプリシラと別れた直後、72年3月28日の録音。<別離の歌>も同日の録音。ともにエルヴィスの心情をそのまま歌ったような楽曲は何度聴いても胸を打つ。

映画『エルビス・オン・ツアー』の中では<別離の歌>を演奏しているシーンが挿入されている。映画では<別離の歌>が流れる中、演奏シーンから早朝の寒々しい空港をエルヴィスとバンドのメンバーが乗り込んでツアーに出発するシーンに変わっていくが、いいようのない哀感が漂う印象深い場面になっている。

* Fool, you didn't have to hurt her 
Fool, you didn't have to lose her 
Fool, you only had to love her
But now the love is gone

* *Fool, you could have made her want you
Fool, you could have made her love you
Fool, you only had to love here
But now the love is gone

Gone now, the love and laughter
See yourself the mornin' after
Can't you see her eyes all misty
As she said goodbye

* Repeat

Fool, you only had to love here
But now the love is gone

* * Repeat

* Repeat

バカだねが響く。
響くほどにバカが痛い。
バカ痛いぞ!
でも
泣いていいんだ
歌ってくれた。

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こんな内容のアルバムです。