旅から旅へのギター抱えた渡り鳥!最高に美しいエルヴィス・プレスリーの登場だ!1964年度作品『青春カーニバル』はエルヴィス・プレスリー最高傑作になり得る可能性を潜在させた映画だった。
エルヴィス・プレスリー新作クランク・イン『波止場人足』それがこの作品の第一報だった。続いてエルヴィス・プレスリー新作『雑役夫』撮影中に怪我。・・・・”『雑役夫』?”何してるの。エルヴィスというナゾと期待。まず第一報の『波止場人足』に誰しも想像したのではないかと思うマドロス姿。一転『雑役夫』に倉庫を舞台にしてるのか?う〜ん、シリアス?マーロン・ブランドの『波止場』って名作もあったようだし、今度はイメチェン?新作のニュースには毎回期待に胸も脳も膨らむ。
最後は『青春カーニバル』と、いかにもエルヴィス映画らしい邦題がついて納得。
かなりゴージャス〜う!・・・と、思ったら、いまにも潰れそうな旅芸人一団にエルヴィスがからむストーリー。でも巨大テーマパークと違うこぶりの遊園地・・・というのは妙に人間臭くて大好き。日本ではお目にかかることの少ないサイズだが、エンタメ大好きのアメリカでは結構日常的。
しかしそんなことよりなにより『青春カーニバル』は繰り返し見るほどに楽しくなってくる。
この作品はクランク・イン当初から、往年の大女優バーバラ・スタンウィック共演というニュースが話題になったが、その分、ラブ・ロマンスの相手役はかなり地味。ラクエル・ウェルチも出演していたが、当時無名につき話題になるはずもない。後2年制作が遅ければエルヴィス映画史上最高の話題になったかもしれない。
しかしこの映画ではラブ・ロマンスの相手役が、もしアン=マーグレットだったりしたら、もう洒落にもならなかったはず。女優が主役になってしまっただろう。それが防げたのは配役の妙。それほどこの作品における女優の役はいい女の典型的パターン?そう思わせてしまうのが、エルヴィス扮したチャーリーのキャラクターだ。
とにかくおもしろい人物像。さあ、さあ、みなさん、老いも若きも寄っといで。お立ち会い、お立ち会い、「人間関係をこじらせる完全マニュアル集」だよ!
まずエルヴィス登場ののっけから、気分良く楽しんでいる学生相手に、いきなりバカ扱いでケンカをふっかける。もとはエルヴィスが大人の心から相手の大人の心にビジネス・ライクな大人同士の交流を投げかけたのだが、返ってきたのは子供の心から親の心への投げかけ。
エルヴィス扮するチャーリー・ロジャースは大学生の真意を感じて、親の心から子供の心めがけて<いたずら仲間>を投げ返す。
怒り心頭の学生相手に「我こそ正義」のマジな顔して、カラテでやっつける。
人間関係がこじれるには法則があるのは有名。
人間には3つの心、親の心、大人の心、子供の心があり、相手との間で、それぞれ使い分けながらコミュニケーションを進める。冒頭の大学生のシーンでは、エルヴィスが親の心(あるいは大人の心)から、相手の子供の心に投げかける。
大学生はエルヴィスとは親密な関係でもないのに、出来の悪い子供扱いされる謂れはないので、カチンとくる。
大学生の方こそ「お前こそなんだ」と親の心(あるいは大人の心)から投げ返す。そうすると図でも分かるように投げたメッセージが交叉する。交叉した状態がこじれた状態だ。この場合、エルヴィスが悪態をついても大学生が頭でもかいて「いや〜人生の先輩、恐縮で〜す。今夜は見逃してくださいよ」子供の心から親の心に投げ返せば交叉せずに平行になるので、こじれないのだが、もともとそんなかわゆ〜い性格の連中でもないし、そこまで自分を笑い者にする必要がないので、「なんだ、この野郎」となる。
(こじれる人間関係)
この映画のエルヴィスは終始、平行になることを避け、交叉させていく。女性が甘えても(子供の心から親の心に投げかけても)親の心から返さずに大人の心から投げ返すか、子供の心から親の心に投げ返す。で、期待を裏切られ我慢できずにひっぱたくような行動に出る。ケンカによって収監されたエルヴィス扮するチャーリーを保釈するために罰金を持って警察に出向いた女性が可哀想。
このような交流は都度都度だが、実は交流パターンが、大きなトレンドとして”人生目標”になっているのが問題。こういうこじれる関係を繰り返し続けていく人は、他者を近付けずに「孤独の内に死んでいく」という大きな人生目標が隠されているということ。
つまり交流が始まった最初の頃は、自分を抑えて平行になる交流を続けるが、途中で交叉しだすのだが、このような関係のめざしているのは人間関係の破壊が目的であって、そのためのカモとして、女性が選ばれることになる。カモになり得る女性が選ばれるわけで、カモになり得ない女性は避けられる。
(楽しい人間関係)
最後に、「どうして自分の心に正直に言わないの!」とキャシーが怒る。怒る理由は、表面では常に交叉させるコミュニケーションばかりするが、裏面のコミュニケーションでは、平行なコミュニケーションをしていることを察しているからだ。
しかし、チャーリーの目的が人間関係の破壊にある以上、彼女はいつか裏切られる。しかし彼女はチャーリーの未来のような父親を通して「男とはこんなもの」という思いを培っているので、彼女の人生体験からして、もっともふさわしい男を選んだことになる。
映画は<地平線に新しい日が>で締めくくられるが、新しい日などやってこないのだ。そしてマギー(バーバラ・スタンウィック)はキャシーを慰める役を負うことになるだろう。まさしく「おたまじゃくしは蛙の子」なのだ。
それにしても、エルヴィスはチャーリーを演じるにあたってこの役柄をどう理解したのかに興味がつきない。クライマックス「どうして自分の心に正直に言わないの!」と怒るキャシーやマギーに対しても、依然として態度、表情を変えることがない。「言わなくても分かるだろう」というのがチャーリーの気持ちなのだろうが、どこまでいっても「言わなくても分かるだろう」では通用しないし、ドラマとしては難がある。
エルヴィスは大根役者かというようなことでなく、エルヴィスのチャーリーに対する理解がおもしろいのだ。チャーリーには他者との間に境界がない。
手当たり次第に他人にプレゼントしてしまう伝説とだぶって、エルヴィスにはチャーリーがどう見えたのか・・・愛すべきキャラクターと映ったような気がしてならない。
この映画で歌われる<すてきな世界>には、愛おしさがこみあげてくる。努力すれど報われることもなく、トラブっていく暮らし。その根本が自分にあることを分からずに悶々とする世界。それを素晴らしいというには遥か遠いのだが、もっとも近くて、もっとも遠くにある<すてきな世界>を素通りしてしまう人間がいかに多いか。<イカす車でぶっ飛ばす>場合ではないはずなのだが、ぶっ飛ばしていくエルヴィスを呆然と眺めている次第なのだ。相変わらず素晴らしく素敵な声で綴られていくが、素晴らしい声であるほどに、悲しくなるほどコメディな世界でもある。粗っぽいけれど、ここにはエルヴィスの歌心がある。
「キャシーとつきあったらダメよ」と釘をさすマギー。キャシーの父親を思い浮かべ「きっと、いれずみのある男と結婚させたいんだ」・・・エルヴィスがひとりぼっちで生きて来た、恋する男のいら立ちと優しさを自身のキャラクターで魅せる。
<見世物小屋>ではカメラが斜め上方の黒づくめのエルヴィスと踊子を捕らえる。カメラ・アングルもカッコいい。
<激しい恋には深い痛手><リトル・エジプト>ではステージ右から中央に歩いていくエルヴィスの線の美しさをとらえ、後年のライブ活動のオープニング、ステージ右から中央に歩く姿を連想させて楽しい。
モノラルと明記されているDVDのサウンドだが、5.1chサラウンドのサウンドがエルヴィスを見事に蘇らせてうれしい。・・・そしてエルヴィス・プレスリーは途方もなくすばらしい。
■収録曲:全12曲
Roustabout(青春カーニバル)
Poison Ivy League(いたずら仲間)
Wheels On My Heels(いかす車でぶっ飛ばせ)
It's A Wonderful World(すてきな世界)
It's Carnival Time(カーニバル・タイム)
Carny Town(見せ物小屋)
One Track Heart(ワン・トラック・ハート)
Hard Knocks(つらいパンチ)
Little Egypt(リトル・エジプト)
Big Love, Big Heartache(激しい恋には深い痛手)
There' s A Brand New Day On the Horizon(地平線に新しい日々が)
青春カーニバル
1964年
PDF-111
販売価格 2,500円(税抜)
DVD発売元 パラマウント
ホーム エンタティメント
発売中(期間限定ハッピー・プライス対象作品)
監督 : ジョン・リッチ
主演 : エルヴィス・プレスリー、バーバラ・スタンウィック
■オリジナル英語音声:5.1ch サラウンド
■復元版英語:モノラル
■字幕:日本語/英語
■スクイーズ 2.35:1(スコープ)
■カラー
■101分(本編)
■片面1層
■複製不能
オリジナル劇場予告編(3分34秒)
DVD 問い合わせ先
電話 03-3486-5885
パラマウント ホーム エンタティメント ジャパン株式会社(マーケティング部代表)