<That's The Way It Is>を4週にわたって聴き続けた。しかしその間中、<ポークサラダ・アニー>を聴けば聴く程、<ミルクカウ・ブルース・ブギ>が耳の裏側では鳴り続け、<ミステリー・トレイン>や<ただひとりの男>を聴けば聴く程50年代のエルヴィスに逢いたくなっていた。70年代エルヴィスとはまた違う、胸をかきむしるエルヴィス。
その集大成がCD5枚で構成されたボックス『THE COMPLETE 50'S MASTERS』であることに誰も異議を唱えないだろう。
ただしこのような集大成ものや、ベストものを好むかどうかは別にしてだが。
ここには正気のエルヴィスがいる。
自分の外側にあるものに関心を持つ必要もなく、背負うものもなく、好きに仕事ができる。オープンな文明の中に潜んでいる自分たちを疎外するアメリカ文化の狂気に向かって、茶化すかのように、腰をふり、脚をくねらせ、小指でダンスをして、大胆に挑発するエルヴィスがいる。このパフォーマンスのおよそ20年後にロンドンではセックス・ピストルズは巻舌で叫び飛び跳ねた。このエルヴィス以来の挑戦だと言える。
だがそれ以上にこのヒーカップ&マンブリング唱法は攻撃的で凄い!(万国のパンクスたちよ、聴け!この歌声に宿る若い熱血を!)
それでは「世界遺産」にふさわしい『ELVIS/THE KING OF ROCK'N'ROLL:THE
COMPLETE 50'S MASTERS』------今週は5枚の内の【CD-1】の曲目をご紹介。
CD-1収録曲
1. My Happiness
2. That's All Right
3. I Love You Because
4. Harbor Lights
5. Blue Moon Of Kentucky
6. Blue Moon
7. Tomorrow Night
8. I'll Never Let You Go (Little Darlin')
9. I Don't Care If The Sun Don't Shine
10. Just Because
11. Good Rockin' Tonight
12. Milkcow Blues Boogie
13. You're A Heartbreaker
14. Baby, Let's Play House
15. I'm Left, You're Right, She's Gone
16. Mystery Train
17. I Forgot To Remember To Forget
18. Trying To Get To You
19. When It Rains, It Really Pours
20. I Got A Woman
21. Heartbreak Hotel
22. Money Honey
23. I'm Counting On You
24. I Was The One
25. Blue Suede Shoes
26. My Baby Left Me
27. One-Sided Love Affair
28. So Glad You're Mine
29. I'm Gonna Sit Right Down And Cry (Over You)
30. Tutti Frutti
このCDの大まかな構成は記念すべき<1.My
Happiness/マイ・ハッピネス>のような最初はバラード、スローテンポのもので始まり、次第にロカビリーと進んでいく。正直言っていかにエルヴィス大好きであっても、聞き込んだ(はず)の曲ばかり聴くのは抵抗がある。
お馴染みの感覚が全身に流れ「やれやれ」と一瞬想うことがある。
が、しかし、キングのキングたる由縁はそこから実証されることになる。
聴けば聴く程、のめりこんでいく。そしてこの50年代特有のエルヴィス・コースターのスリルは何度味わっても「改めて、すごい!」のだ。このCDで言うなら<10.
Just Because>あたりからロッカー、エルヴィスが火の玉になって飛び回る。最初この曲に触れたのは『のっぽのサリー』という4曲収録のEP盤だった。丁度ビートルズの「のっぽのサリー」がヒットチャートに名を列ねていた直後くらいのリリースだったと記録する。ビートルズ盤が登場したことで日本ビクターがリリースしたのかどうか定かでないが、よく聴き比べた。その中に収録されていた<Just
Because>はなんとなく控え目な感じの曲だが、どうしてどうして以後記憶から離れない曲となった。
その後に「♪ウェ〜〜〜ル!」の宣戦布告と共に始まる<11. Good
Rockin' Tonight/今夜は快調!>から急激なアップダウンに突入することになる。
やはりこの曲はすごいのだ。シャウトする声が抜群だ。オリジナルのものとは全く違うアレンジに仕上げて、なりふり構わずひたむきに驀進する姿勢がたまらない。「♪ウェ〜〜〜ル!」はエルヴィス印のスーパー良品だ。
<12. Milkcow Blues Boogie/ミルクカウ・ブルース・ブギ>と繋がっていく。思わず「欲望という名の電車」のマーロン・ブランドを思い起してしまう。54年に収録されたこの大傑作はゆっくりとはじまり、俺はここに生きてるぞという挑戦的な自分の存在を示すかのように一気に急転回する。この斬新な導入部分とその後に続くヒーカップ&マンブリング唱法の雨、荒し。どんな気象もぶっ飛ばす勢い。ミルクなんか絞り出す気などさらさらない。重いレコード盤の溝から溢れ出るのはアメリカ南部の妖しい酸素をたっぷり吸い込んだ熱い血だ。飲み屋でいちごミルク酒などで奇声を挙げている方、是非お聴きください。
<14. Baby,
Let's Play House>はどうだ?凄いではないか!常識を嘲笑うかのように「こもって、しゃくる!」声が楽器を超越する楽器だ。増幅された音は転げ回って社会の秩序を組み直す無言のメッセージとなって人々の心を打つ。それは45年たった今も直撃してくる。
いまでも高校生にカルト的な人気がある男優、スティーブ・マックイーンの主演映画で売れないロカビリーの夢と挫折をシリアスの描いた「ハイウェイ(邦題)』の中で<19.
When It Rains, It Really Pours>を頻りに歌っていたのではないかとかねてからの疑問があるのだが、ビデオもなく確認する術がない。
(御存じの方あれば掲示板にカキコして下さい。)
55年にレイ・チャールズが発表した名曲<20. I Got A Woman>あたりからRCAで録音したものが続く。サウンドも重く速いビートが刻まれてよりパワフルなエルヴィスが聴けるのだが、このCD
の音は非常にいい状態なので、一層パワフルに感じる。エルヴィスは終生この曲を歌い続けた。
いいサウンドの<20. I Got A Woman>に酔っていると<21.
Heartbreak Hotel>が続いて、この音も素晴らしいので、あらためてエルヴィスの凄さを感じて聴き込んでしまう。エルヴィスの声もすごくクリアだ。そもそもこの曲は『ゴールデンレコード』のモノラル音源か疑似ステレオで聴いたりしてきた。その後いくつかのCDでも聴いたが、このCDのサウンドはいい。
<22. Money
Honey><25. Blue
Suede Shoes>は驚異だ!今さらながら凄いと実感する。それは次々と登場する曲目の良さなのか、それとも曲順なのか。相乗効果もあって抜群の空気が漂う。
<26. My Baby Left Me><27. One-Sided
Love Affair>からラストの<29. I'm Gonna Sit Right Down And Cry (Over You)><30. Tutti Frutti>までここで聴くロッカー、エルヴィスは『エルヴィス・プレスリー登場!』で聴くのとはまた違う趣きがあり、54〜55年のヤング・エルヴィスの非凡さに敬服するばかりだ。
ただ<That's The Way It Is>でも歌われていた初期の傑作バラード<24.
I Was The One/ただひとりの男>は疑似ステレオで聴く安っぽいセンチメンタルのほうがいかしてると思うのは私だけだろうか。
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