エルヴィス・プレスリーの
楽しい映画
『ラスべガス万才』
公開当時の映画評論家、双葉十三郎氏のご意見(『映画の友』1964.6月号)
エルヴィス・プレスリーの数ある映画のなかでも人気の高い『ラスベガス万才』。
64年公開映画の映画評論家が選んだベスト10にもランキングされるだけあって楽しさは太鼓判!
これは公開当時の熱気がダイレクトに伝わる『ラスベガス万才』への大喝采のお言葉。
好調プレスリイと
すばらしきアン・マーグレットの「ラスベガス万才」
魅力倍増のプレスリイ映画
これは『アン・マークレット万本!』と改題したほうがよろしい。まだ半年あるから断定することはできないが、目下の状勢では、このアン・マークレットが、本年度の売出しトップ・スタアになりそうである。
彼女は「ステート・フェア」につづく「バイ・バイ・バーディー」で大いに活躍したが、あの作品ではパースナリティの点でまだ未熟なものが感じられた。ところが今回は、おなじジョージ・シドニイの監督なのに、まるで見違えるようにすばらしくなっている。じつにいいフィーリングで、唄と踊りにハッスルしている。
こういきなり彼女のことばかり賞めちまうと、プレスリイ・ファンの皆さんにドヤされるおそれがある。が、御心配なく、プレスリイ映画としても上出来である。いままでのプレスリイ映画は、パラマウント発売のものが優秀で、他社のものはダメ。とハッキリ区別できた。
そのジンクスが破られたばかりか魅力倍増である。これはアンが加入したおかげだけではない。プレスリイの諸作中、最もミュージカル的で展開に非常なスピードがあり、まったく<イイ調子>からである。
この<イイ調子>はサリイ・ベンスンの要領いい脚本と、『バイ・パイ・ハーディー』と見違えるようなジョージ・シドニイの流暢で活気ある演出にもとづく。
舞台はもちろんラス・ベガス。が、おなじみの賭博場はあらわれず、自動車競走が主題なのがミソである。プレスリイ扮するラッキイは、グラン・プリ・レースに出場するために、新しいエンジンを買おうと苦労している。国際的選手のマンチー二伯爵(チェザーレ・ダノーバ)が、自分と組まないかと提案するが、ラッキイはことわる。
この御両人の眼の前に、車の故障をなおしてくれとあらわれたのがラスティすなわちアン・マークレットだが、名前も住所もきかかぬうちに消えてしまう。すてきなアンヨだったからコーラス・ガールにちがいないと、ラッキイとマンチー二は、ラスベガスじゅうのナイト・クラブをまわって探す。
ここで当地一流のクラブのショウが、つぎつぎに紹介されるという仕組みだが、ラッキイとマンチー二が愉快な友情に結ばれ、お互いにダシ抜こうと策略を弄し、そのたびに失敗するのが笑いの主流。
ショウ場面はいろいろギャグを加えて転換していくのが楽しい。
ラステーは、友人とホテルのプ一ルにいた。水泳のコーチだったのである。大喜びで彼女を追っかけてプールに墜落したラッキイは、エンジンを買うお金をなくす。排水口に吸いこまれてしまったのだが、彼女がちょろまかしたにちがいないと誤解する。
とにかくお金がなくてはホテルにも住めない。相棒の自動車整備員ショーティ(ニッキイ・ベレア)と給仕になりさがる。大富豪のマンチー二は同情していろいろ便宜をはかってくれるが、ラッキイとしては、テキに恩を着せらるのを潔しとしない。そしてホテルの従業員タレント・コンブストに出場することになる。
かくてお待ち兼ねの唄の洪水がはじまるが、それはあとまわしにして、ラスティはラッキイの誤解に憤慨するが、彼女の父(ウィリアム・デマレスト)のはからいで仲直りする。そしてラス・ベガス附近の名所を見物したり、射撃をしたり、水上スキーをしたり、楽しい日々をすごす。お客様にとっても楽しい場面の数々で、御両人と一緒に観光旅行したり、のんびり遊んだりしている気分。
ヘリコプターに乗って見物という至れりつくせりのサーヴィスもあり、色彩ロケの効果は十分、これを一見すれば、わざわざ大枚の旅費を工面して、あちらへ出かける必要はないようなもんである。しかもこれらの場面はそれぞれギャグで処理してあるので、ますます楽しい、プレスリイとアンと唄と踊りだけでなく、このデイトのシークェンスが、作品の重要な因子になりているわけで、「ラスベガス万本」という日本題名も、ここに至ってうなづけることになる。
すばらしきアン・マークレット
さて、いよいよお待ちかねのプレスリイとアンのミュージカル場面である。たっぷり盛られた曲目はプレスリイがステイジで派手に唄いまくる主題歌格の"Viva Las Vegas"をはじめ" The Lady Love Me"" Come On, Every body""Today, Tomorrow and Forever""If you Think l Don't Need You"" A Shoulder to Lean On""You're the Boss"" My Rival""Do the Vega"など。どれがいいかの品定めは、実際に耳できき眼で見ていただいて、皆さんにお任せしたほうがいいだろうが、ここで言っておきたいのは、各ナンバアのはめこみ方が非常にスムーズでツボにはまっていることである。はめるべきところに定石的にはめてあるのだが、その定石が非常にぴったりと間合いがいいので、ミュージカルらしいムードがぐんと盛り上がり=テンポも快適になるのである。
プレスリイはいよいよ好調で、一種の厚味とユトリが出てきたせいか、唄のこなし方に軽い味のよさが感じられ、たいへん楽しい。それにいままでの作品では、ソロか或いはせいぜいコープスをバックにつける場合がほとんどで、相手女優とのデュエットは、あっても申訳け程度だったが、今回はアン・マークレットが堂々と唄のお相手もつとめる。彼女が登場したからこそ、デュエットも可能になったのであろうが、これまた新しい魅力になっている。
アン・マークレットが実力を発揮するのは、ボーイズとガールスをあしらってリハーサルをする場面である。「バイ・バイ・バーディー」にも若い群舞があったが、今回のほうがはるかにスッキリしですぐれている。デヴィッド・ウィンダースの振付が小イキで、シドニイの演出感覚が冴えているからである。アンはその中心になって踊りまくるのだが、すこぶる活き活きとしてペップがあり、おまけに芸人根性をぶちこんだような気合のかかった熱演で、ちよっとコーワンさせられる。
このアンのハッスルぶりに、プレスリイが押され気味なのは、これまたいままでの彼の作品に見られなかった現象である。タレント・コンテストでは二人がそれぞれ別なナンバアに出演する。プレスリイもなかなかの熱演であるが、アンの一景の魅力にはかなわない。ぼくが審査員なら、彼女を優勝にしたいところである。が、ブレスリイの作品ともなれば、そうはいかず、かといって彼を優勝させては承知しないファン多しとみてか、仲よく引分け、一等はトスで決めるという無難な方法をとっていたのは苦笑させられた。とにかく、プレスリイはもう何回も見て聞いているからいいよ、というひとでも、このアン・マークレットだけは見逃すべからず、といいたいところである。
かくていよいよグラン・プリ・レース。ここまでにラッキイのライヴァルとして、なかなかいいところをみせ、ラスティを自室の食事に招き、給仕のラッキイに邪魔.されて大いにクサるなど、ユーモアたっぷりだったマンチー二も、ストレイトな敵手と化し、壮烈なレース場面が展開する。自動車レースは久しぶりだから、どうせプレスリイが勝つと判っていても、すこぶる痛快である。というところで、全巻のオワリ。ああ面白かった。(『映画の友』1964.6月号より)
愛ピのブツブツ。
プレスリイという表現は、いくら40年前でも、この方くらいでないだろうか?当時の文章を他に探しても、プレスリイはない。1956年制作の『やさしく愛して』のポスターがプレスリイになっているが、それを続けておられるようだ。
『映画の友』64年6月号の表紙はミレーヌ・ドモンジョというきれいなフランスの女優さん。完全にブレイクモードになったアン・マーグレットの3つ折のピンアップがついている。
裏表紙の広告になった『マンハッタン物語』は『ウェストサイド物語』のナタリー・ウッドと、『大脱走』の大ヒットで当時飛ぶ鳥を落とす勢いのスティ−ブ・マックィーンが共演したラブ・ロマンス。アカデミー最優秀作品賞『アラバマ物語』のロバート・マリガン監督作品。
それぞれ大ヒットを放ったばかりのホットな顔合わせでモノクロ・スタンダードサイズの地味は意外な感じだが、恋愛、結婚、暮らし。下町に生きる人々の等身大、リアルな内容を描く上でかなりのすごさでいい味を出している。地味ゆえに人気の点ではいまひとつの印象だが、はっきり言ってこれは大傑作です。
愛ピが選ぶラブ・ロマンス映画のナンバーワン!
いきいきした登場人物が主演の2人以外はいい奴ばかりで泣かせる。マックィーンはこの映画が最高と言い切ってしまうほど素敵だし、ナタリー・ウッドも知る限りこれが最高!
エルヴィス・マニアならみんな知ってることだが、ナタリー・ウッドはエルヴィスの”おともだち”だったことで有名。ラストシーンは見事!映画っていいなあ、人間っていいなあと思わずにいられない映画。
『ラスベガス万才』のジャケットにも飛ぶ鳥を落とす勢いのエルヴィス・プレスリーとあるが、『マンハッタン物語』と共に、それぞれのコンビ、好対照の内容、それぞれの感動、まさに映画のマジック。
そして音楽の使い方でさらに世界が立体的にひろがるマジック。『マンハッタン物語』も主題歌の使い方が見事。いずれも人間の仕業と思うと楽しくなる。『マンハッタン物語』の音楽は有名なエルマー・バーンステイン。
『ラスベガス万才』『マンハッタン物語』・・・こんな映画が映ってるモニターのある部屋はとてもいい場所だ。
その部屋にいる人の気持ちと40年前のフイルムの中にいる人の気持ちが、「人間」に向いていて、モニターを挟んで向き合ってるということでもある。どんなに素敵な空間でもそこにいる人たちの思いが「人間」に向いていないのは淋しい。
人間は傷つきやすく壊れやすい宝物・・・・2つの映画はそれを伝えてくれる。
マックィーンの弾くバンジョーのエイ!ヤー!の響き、エルヴィスとアンのデュエット<The Lady Loves Me>のコケティシュなほほえみ、それらが無性に愛しい夜だ。戦争もテロもなく、女が幸福な世界は男も幸福だ。
P.S.
エルヴィス・プレスリーの『燃える平原児』を撮ったドン・シーゲル監督作品『突撃隊』にもスティ−ブ・マックィーンは主演している。『燃える平原児』と併せて鑑賞してみるとドン・シーゲルのおとこ論のようなものが聞こえてきて楽しい。
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