江本君の場合 仕事と収入
人生は自分の選択と行動だ。自分の力でどのようにも変えられる。自己啓発書を数冊読みさえすれば、その程度のことは誰もが知っている。よりよい人生を過ごしたいと願う人ならそうありたいとも考えている。
しかし、結局は具体的に、これといったことをするわけでなく、終わってしまうことが多い。
それも、たいていは自分の責任、一時期大流行したアダルト・チルドレン、トラウマのせいにするか、体制、環境、学歴のせいにしてしまって主体性を放棄して、無感動な不満が充満した傍観者になる。不満の矛先はどこでもよく、向けるところがない場合には、自分を対象にしてしまう。自分を弱者にさえしてしまえばいいのだ。
こうして心で望んだことを考えたり、思ったりするだけで、現実のことにならないようにしてしまう。妄想があるだけだ。
就職、入学、恋愛、結婚、人生の大事を、自分が望むように実現しようとしたら、葛藤を乗り越えないと達成できない。言い換えると創造的行為だ。自分ができることは自分がやり、どうしてもできないことは自分が助けを求めるものだ。自分が持っている力を軽く見すぎているのだ。自己効力感が脆いといえばそうかも知れないが、それでは自分に弱者のラベルを貼るだけだ。
自分にラベルを貼るように、環境や学歴、体制にも、ラベルを貼っていき、可能性を削除してしまい、限定的なものにすり替える。
「自分はダメなんだ」という人は、創造的な作業を省略する上では、自分自身に都合のいい思いこみで、まるで自分に催眠術にかけているようである。だれのせいでもなく、自分自身がそうさせているのだ。そこに気がつけぱ、しめたものなのだ。
大学を出たものの就職せずにフリーターとなった江本君の悩みは、正社員になること、安定して給料だった。
それが手にできないと結婚も危うい。一人っ子の江本君には、いまは健康な両親の将来も気になる。できるだけ早い段階で落ち着いた家庭を作っておくことも、対策のひとつだった。それには正社員として安定することが急務だった。
江本君にはコミュニケーション力をつける必要もあり、「ライフスキル講座」に参加してきました。
彼の希望のイメージはとてもわかりやすいものでしたが、それが現実のものにならないのはどうしてでしょうか?
それは彼が自分と何の約束もしていないからです。彼は自分と契約を交わしていないのです。つまり天からふって来るのを待っているような按配です。受身で望みだけがある。そんな青年をどんな企業が欲しがるでしょうか?
ライフスキル講座で、学び、自分のスキルアップのためにも、就職することを自分と約束したのです。自分が選ぶ立場にあるのではなく、選ばれる立場であると認識しました。
「99日間プロジェクト」で、まず必要なスキルを見えるようにしました。さらに自分のダメだしをして不足するスキルと必要なスキルのリストを作りました。
その上で、身についていないスキルが身につくように挑戦をはじめました。
それをどのようにして身につけるか。課題を抽出できれば、後は学ぶだけです。
成功者は自分の能力をフルに使っているようなイメージがありますが、そんな彼らさえ実際に使っている能力は氷山の一角です。
まずキャリアの棚卸、続いてスキルの棚卸。「志向」「適職」を明確化し、転職活動の進め方を一緒に考えました。
作業は簡単ではなく心理的にダメージもありました。
生活は一気に忙しくなりました。 それでは、江本君の「99日間プロジェクトレポート」のはじまりです。
正社員の座と収入はある程度比例するのだから、正社員にこだわるのは無理もない。人は安定を求めるものだから。その一方で正社員になった人があっさり辞めてしまう。これはこれで安定を求めている。安定を求めすぎて不安定になっていないか、注意したいものです。
一番の安定は、自分がなにをしたいのか、はっきりと自覚することだ。そのために必要なスキルを認識して必要なスキルを身につけていく。当然ライフスキルはすべてのスキルに影響を及ぼす土台となるひとつである。
さて江本君です。
求人倍率が低下する一方の現在も、正社員のポジションを追いかけています。なかなか獲得できないのは、職を選んでいる傾向が強いことも影響している。江本君は、過去、没頭することがなかった。いわゆるテキストにある「フロー体験」をすることはなかった。
江本君は、ライフスキル講座で送られて来るテキストを読むうちに、フロー体験をしてみたいと思い、どうすれば体験できるか、問い合わせてみた。バイト先でやってみろと言われた。ただしコツがあるので、アンケートに答えては欲しいと送られてきた。
【フロー体験】
記入して送り返すと、メールが届いた。抽象的な目標についての説明があり、その目標に同意できるか、その上で達成できるかについて、問われていた。
抽象的な目標について、簡単に説明しておこう。
朝起きて、仕事をするのが楽しいようだと、人生は楽しくなる。それほどの楽しさはどこからくるのか?「生きるために働く」「仕事だからがんばるのは当り前」はそうだとしても、やる気になれない状態でいくら筋論を押し通しても意味がない。
そこでどうすればモチベーションがあがるかという問題が浮上する。モチベーションを高めるには、目標の難易度と達成感の強さのバランスが良くないと、魅力的な目標は作れない。目標を作る上で欠かせない要因として、ラダー効果、
オプション効果、スポットライト効果、サンクス効果についての説明があった。
たとえば仕入れに携わる者には、終始、考えながら行動するプロスポーツ選手なみの緊張感が要求される。しかしプロスポーツ選手のように、ストーブリーグというものがない。ずっと緊張が連続する。やってもやっても、これで良いということがない。終わりのないレースをやっているようなものだ。やがて「自分はなんのために、これをやっているのか」という疑問が湧き、自分に説明ができずにいると、
心が折れてしまうことになる。
この問題のそもそもは、なにをしたいのか、目的が曖昧なままに仕事を選択しているからだ。目的を考えないまま、こんな仕事をしたいと、企業、職種を選ぶことに終始してしまうからだ。しかしこのやり方にはムリがある。
目的に気がつくには、いまつきたいと考えている職について、「なぜそれを選んだのか」を自問自答することだ。建て前の話ではない。出て来た答に対して「なぜ?」を3回以上繰り返すと、本当の目的にたどり着くことができる。「こういう人の役に立ちたい。」「こういう人々を助けたい。」といった目的に出会えるようになる。そうして知った本当の目的からどんな仕事に就きたたいかと問い直すと、選択肢は格段に拡大する。
「ライフスキル講座」では、飲食業でアルバイトしていた江本君に与えられた目標は、お客様が楽しく過ごせる時間を提供し、帰るときにありがとうと言ってくれる人をひとりでも多く作ることでした。江本君はこの課題を自分との約束として、取り組む意志のあることを事務局に連絡したのです。
こうして始まった江本君の取り組みは、1週間を過ぎた頃から、劇的な変化が起こったのです。
99日間プロジェクトは、ライフスキル講座のひとつです。