モチベーションを高めるには、目標の難易度と達成感の強さのバランスが良くないと、魅力的な目標も意欲も作れません。
やる気が起こる目標を作る上で欠かすことのできない4つの効果について説明しましょう。
「仕事だからがんばるのは当り前」はそうかも知れないが、やる気になれない状態でいくら筋論を押し通しても成果があがるわけではありません。仕事をしていれば良いってものではなく、結果を出すのが目的だから、効率良く求める結果を出すことが大切です。
つまり私たちは「生産性」という課題と向き合っていて、生産性がなぜ重要かというと、数値だけの問題ではなく、仕事を進める上での因果関係が生産性に凝縮されているからです。
そこでどうすればモチベーションがあがるかという問題が浮上するわけで、真剣に取り組んでいると、必然からマネジャー(管理者)として進化していきます。
モチベーションを高めるには、目標の難易度と達成感の強さのバランスが良くないと、魅力的な目標も意欲も作れない。そこで、やる気が起こる目標を作る上で欠かすことのできない
ラダー効果、 オプション効果、スポットライト効果、サンクス効果について説明していきます。
■ラダー効果
ラダー効果は、人を育成する上で、とても重要なひとつで、私は日頃から、これなしに人は育たないと思っています。実際、過去に私は1000人以上の人と直接関わり、多くのマネジャーを育ててきたが、彼ら自身がそれを懐かしみ口を揃えて話題にします。それだけ心に入ったということだと思います。「それ」とは日頃追いかけている目標より「上位に位置する目標」のこと、つまり「理念」です。
それはもっともなことで、販売に携わる者には、プロスポーツ選手なみに考えながら行動すること、そして緊張が要求される。しかしプロスポーツ選手のように、「ストーブリーグ」というものがありません。ずっと緊張が連続する。やってもやっても、これで良いということがない。終わりのないレースをやっているようなものです。それで疲弊しないというのは日頃から真摯に取り組んでいない証しでしかない。
真剣に取り組んでいれば、成績があがると、次の月には落ちてしまうちうようなことが起こります。緊張が続かず自分で休憩してしまうのだ。目標に届いていなくても、前年比をカバーしていると、「まあいいか」というように妥協をすることになる。そこで上位管理者が同じように休憩を認めているようだと、屋台骨が崩れてしまうことになります。
プロ野球の名監督と言われる人にもそういう人物がいて、前年よりいいポジションで終わったかと思うと翌年には、前年より落とす。その翌年には、戻して返り咲く。これを繰り返していると、うまくしのげるのだそうだ。それもひとつの処世術だが、伸び盛りのマネジャーがこんなことをしていると、覇気がなくなってしまい40代にもなると使いモノにならなくなります。
こうしたことを防ぐには、数値目標だけでなく、より上位の目標、つまり抽象的な目標が効果を発揮します。抽象的な目標はその名の通りとらえどころなく、その効果を頭から考えない人が少なくないが、それは間違いです。先に述べたように、それなしに人は育たないと断言できるのです。
考えないと説明する力もつかないので、いつまで経っても、抽象的な目標はないままになるので、やがてモチベーションは息切れして、最後にはやる気がありそうなことを言ってその場をしのぐごまかす技術だけが身につく。しかし数字は状態を示す。
たとえば販売とは、売ることだ。ずっと同じことを繰り返していると、「自分はなんのためにこんなつらいことをしているのか」と疑問が湧いてくる。真面目に目標に取り組んでいる者ほどそう思うようになる。つらいことは誰にもつらい。なにも感じない者は普段から緊張感のない者だ。頑張っている者ほど、耐えているのだ。その忍耐に一刻も早くサポートの手を差しのべることが必要だ。
しかし、抽象化つまり「理念」が機能すると、売る仕事は、お客さまに喜んでもらう仕事で、人を助ける仕事だというように誇りが持てるようになってくる。さらには仕事を通して幸福な社会を作るというような使命感が体験を通して育ってくるようになる。使命感が苦しい局面を乗り越え自分と部下を育てる原動力になる。この循環が正常に行われるようになると会社の風土もそのようになり、風土が個人を励ますようになる。
マネジャーが部下が感じる範囲の仕事の捉え方を変えるアプローチを繰り返すことで、仕事への取り組み方も変わり、その結果、成果も格段に変わって来る。
いまの世は離職率が高いと言われるが、目先の目標をただ追わせるようなことをしていると、いくら採用してもすぐに辞めてしまう。うるさいからがんばっているという自分にも周囲にも嘘をついた状態では、それだけで疲れてしまい、モチベーションが高くなることもなく、「うつ」の原因にもなり、いい仕事はできません。
■ラダー効果の実際
数値目標より上位に位置する抽象的な目標、つまり「なんのために働くのか」は「なんのために生きるのか」という課題と直結しています。
ともすれば「仕事をするのにそこまで問題にする必要があるのか」という疑問を持つ人がいると思います。頭でっかちになりすぎていて、そんなことを考えるくらいなら他にすることがあるだろうと思う方もいる。
しかし、本当のところ、売ることに苦労していないから、そんな思いがするのであって、最も重要なことを抜きにして売ろうとしているとしか思えないのです。
売れない状態に向き合って、放り出すわけにもいかない。なんとしても当初、予定した分を売らないといけない状況にあり、売りたいと思うとき、お客さまを抜きにして考えることはできない。買う、買わないの判断をするのは、お客さまだからです。
そこでどうすれば買ってもらえるか考える。「お客さまの満足を高める」ことに向き合うか、あるいは、「だまして売れ」に走るかは、モラル、生き様の問題であり、「なんのために働くのか」「なんのために生きるのか」によるところが大なのです。
「お客さま第一主義」と言葉を使うのか簡単だが、どうすれば売れるのかをやっていたら、きれいごとではない、本気の「お客さま第一主義」に必ずなるものである。それでも本気にならないというのなら、根本から間違っているとしか言いようがない。
技術的に言うなら、ストレッチターゲットのレベルにある目標があり、達成至上命令を出し、プロセスに誤りがないか管理することだ。そうすれば、本物の「お客さま第一主義」に矛先を向けざるを得なくなる。
さて、問題はここから起こる。「お客さま第一主義」をやり遂げるとは、「お客さまは神様」の世界を実践することになる。それは自らを蔑む意味ではない。しかしそれが理解できて主体的に取り組んでいく人は少ない。やればやるほど「なぜそこまでするのか」「やってられない」と不満が浮上することになります。
あるいは、その様を観ていて、「なんという奴らだ。これはおもしろい。ひとつ加わってみょう」と主体的に参加してくれるものも、少ないがいるがそれは稀であってほとんどは不満を持つ。本当の「お客さま第一主義」はここから始まるといって過言ではないのです。
管理者として、この不満を吸い上げて、沈静化して、さらに意欲に発展させていくとき、「話し合い」なしにはできない。そのときの柱になるのが、「なんのために働くのか」であり、「なんのために生きるのか」という課題である。これなしに進むことはできない。
考えてみるとすぐに分かることです。「金のために働いている」「生きているから生きているだけ」「遊びたいから生きている」という人に「お客さま第一主義」をやり遂げる理由もなく、彼らにとっては狂気の沙汰としか映らない。それほど「お客さま第一主義」は大変である。大変だからほとんどが体裁を繕っただけのきれいごとで終わり、実践しない。つまり本気にならないのだ。だから本気で実践したものが勝てるのです。
ここでの価値観への共感が、不満を持っていた部下が成長する動機づけになる。
「お客さま第一主義」をやり遂げたいと思う同志が増えていくことで「お客さま第一主義」は可能性の扉が開く。そして仲間と踏み込むことで「苦難」のプロセスが始まる。その苦難を苦難と思わずやり遂げる支えになるのが、数値目標より上位に位置する抽象的な目標、つまり「なんのために働くのか」さらに「なんのために生きるのか」という使命感です。
誰に言われたわけではない。でもそれをやるのが自分の使命なのだと言えるものを持ったとき、人は強い。強い人が集まった組織は強い。お客さまの心を動かすエネルギーはこの使命感から生まれる。
数値目標より上位に位置する抽象的な目標、すなわち「理念」がいかに重要かを知っている人は、実践のなかで、それによって救われたことを体験した人である。体験していない人が、その重要を知らないままでいる。抽象的な目標も「お客さま第一主義」も理屈ではない。困難に直面したとき、本気で克服しようとするとき、神の手のように機能するのです。
■オプション効果
魅力のない目標にはモチベーションも下がってしまいます。まず人心をひきつける目標設定が重要。魅力ある目標を作るうえで活用したいオプション効果があります。
オプション効果とは、自分で「選ぶ」ことで、モチベーションを高める要因として働きます。うまく機能させると思わぬ力を発揮することにもなります。
クルマを購入するときに、「この色しかありません」と言われるのと、「この中から選んでください」と言われるのでは愛着も随分違います。
押し付けられて従属的にやるのと、主体的にやるのではモチベーションが違うのは当然です。事前に自分の考えが反映されると主体性が変わります。責任感も変わります。そこで問題になるのが「本人の能力」・・・・ふさわしい能力があれば、マネジャーも主張を聞こうとしますが、能力不足の場合には意見を出せる場も与えないことが多い。しかし、これでは主体的に取り組む機会が先送りになり気味で成長を遅らせます。
頼りないと思っても、選択する場を与えて、本人に主体性を発揮させるようにして成長速度を速めるようにしてはいかがでしょうか?まだまだ未熟なメンバーであっても自分で考え、行動を重ねると仕事への意識も変わり問題意識も持つようになります。そうは言っても、現実はそれほど甘くない。
「本人任せにしたらよくなる」というのならマネジャーは不要です。「自分で選択したから、やる気になっていい結果を出すだろう」といった安易な判断は禁物。
気をつけたいのは成功させるように仕向けることです。やる気になったからできるものではなく、正しい行動をもれなく実行するからできるもの。つまり正しいプロセスを辿っているか、マネジャーが注目して早め早めの軌道修正をサポートしてあげるようにします。もちろん余計な口出しはしないこと。後述するマイルストーン効果を上手に使ってオプション効果を高めるのが、他ならぬマネジャーの腕なのです。
普段からあらゆる機会を通して「道理」「原理原則」を徹底して教えておくことが正しい選択ができる基礎になります。
■サンクス効果
貢献度を評価して意欲を引き出すのが、サンクス効果です。結果だけを評価するのではなく、結果に到達したプロセスの「どの部分」が、結果に「どのように」反映したか、因果関係を分析して、正しく評価することで、自己効力感を育むようにします。
因果関係を理解して、プロセスの「どの部分がどのように」貢献したのかを知ると、良い行動をさらに続けたくなります。必然で良い結果が出ます。
■スポットライト効果
スポットライト効果はサンクス効果に似ていますが、サンクス効果が「仕事の内容」そのものを具体的に評価するのに対して、スポットライト効果はその名の通り、「本人」にスポットライトをあてて、称賛する行動です。
たとえば「今月の最優秀メンバー」というように、名前と写真を貼り出すというのもそのひとつです。いろんなアイディアで盛り上げることは可能なので、わくわくする様な企画で、他の参加者が「あんなふうになりたいな」と思うようにすることで効果を拡大したいものです。それにしても、サンクス効果あってのスポットライト効果であることを忘れないようにしたいものです。
■自己効力感
サンクス、スポットライト効果は、ともに自己効力感にプラスの影響があります。自己効力感とは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した心理学用語で、目標に到達する能力に対する自分の感覚を表現したものです。
「自己遂行可能感」・・・つまり自分の目標達成能力についての有能感を表しています。
これに似たものに自己肯定感があります。自己肯定感は自尊心のことで、セルフエスティーム(self-esteem)です。こちらは自分自身の価値に対する感覚を表現しています。
人がある行動を起こそうとする時、自分がどの程度うまく行動出来そうか、その程度の予測によって、その後の行動が予想に適応した形で起こります。そのときに働く力が「自己効力感」です。
ある課題と向かい合った場合、自己効力感の高い人は、「自分にはここまでできる」と予測することで、「よし、やってみよう」とモチベーションが高まり、その後の行動に発展的につながり、その連鎖によって自己効力感が維持あるいは高まりが続きます。
その点からもプロセスの効果的な行動を評価するサンクス効果は自己効力感にプラスの作用を発揮します。 一方、自己効力感の低い人は「その課題は自分にはできない可能性が高い」と予測するために尻込みする傾向にあり、課題と行動の間に断絶が起こり、その後の行動にはつながらなくなります。消え入るようだったモチベーションがさらに下がり成果も出ません。
つまり人がポジティブな行動を起こすには、自己効力感を通り抜けなくては始まらないと言えます。この傾向を日常的に、楽観的、悲観的と呼んでいますが、楽観とは、物事について気にしない性格を言うのでなく、むしろ逆で、細心の注意によって必要なことを正しく計画、準備して、合理的な行動を重ねて行くという確かな裏付けに支えられた態度と言えます。
自己効力感は、主に次の4つの源泉によって形成されるといわれています。
1.達成体験
自分自身の行動によって、達成した体験のことです。自己効力感を定着させるうえで、最も効果的といわれています。先に説明したオプション効果が寄与します。
2.代理経験
他者が達成するプロセスを観察して、想像をかきたて「自分にもできそうだ」と予測すること。自分自身が直接、体験できる範囲は限られていますが、代理経験を使うことで仮想体験が可能になります。代理経験で得られる自己効力感の影響は大きいと考えられています。プロセスを評価したサンクス効果が他者によい影響を与えます。
3.言語的説得
達成の可能性を、言語で繰り返し説得すること。しかし、言語的説得のみによる自己効力感は、容易に消失しやすいといわれています。言語的説得はきっかけでしかないと割り切って、早期に達成体験によって自己効力感を定着させるのが効果的です。マネジヤーの手腕が問われるテーマです。
4.生理的情緒的高揚 (エモーショナル効果)
苦手だと感じていた場面で、動揺することなく落ち着いていたり、身体的な変化が起こらずにすることで、自己効力感が強められることを言います。
つまり緊張から自然に生じるストレスの洪水に流されないように感情の流れを整え、洪水を清流に変えます。
以上から言えることは、自己効力感は、小さな成功体験を繰り返して、蓄積することで高める一方、目標とするモデルを心理的に身近なところに見つけて成功を発見することで仮想体験的に、自己効力感を育てていくことができます。たとえばチームワークに潜在するポジティブな因果関係と物理的な因果関係を組み合わせて使うと相乗効果を発揮します。
自分自身にできるのは概ねここまでですが、代理経験を通じて、さらに自分の自己効力感を高めることができます。この能力がリーダーシップに発展していきます。
同僚、後輩、部下など周囲の誰かの自己効力感を高めたいと思い、言語的説得を根気よく続けることによって相手だけでなく、自分の自己効力感が高まります。さらに相手がチャレンジする代理経験を通じて、自分のスキルが高まると言うわけです。
自己効力感が高まると、自分から課題に取り組む意欲がみられるようになります。学習への意欲が高まるようになり、自律的な行動の変化が起こるようになります。すると慣れたこと、得意なことに飽き足らず、新たな業務、異なる分野など、いままでと違った行動が求められる時に意欲的になります。(ライフスキル講座)
自己効力感の増大に伴って、内発的な興味も育っていくようになります。新しいことに前向きに挑戦していくためには、スキルの根本に自己効力感の存在が必要だといえます。ライフスキルは自分と周囲の人との関係を自律的、発展的にコミュニケーションする力です。
ここまで説明してきた、目標の価値を高めてモチベーションを高める4つの効果、すなわち、ラダー効果、オプション効果、サンクス効果、スポットライト効果は、いずれも目標を魅力的にするだけでなく、自己効力感を高める働きをします。
つまり目標で惹きつけてモチベーションを高めて成功させ、その結果自己効力感がアップするという循環が人を育てる仕組みとして不可欠なのです。
併せて、達成の難易度のバランスをとり最適の可能性を作り出すメカニズムを機能させること、同時に顧客の購買モチベーションをアップすると、より速く確かに人が育つ仕組みを作ることができます。
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