わたしは、多くの起業、特に中小零細企業に「目的」がないことを懸念します。
「金儲けのために商売をしているのであって、それが目的だ」と言われるトップが多い。
なにもないよりマシだけど、それでは本当の力がわいてこない。
金も権力も握ったトップなら、目的は金儲けでモチベーションもアップするのだろうが、その下の管理職はそうはいかない。実は「目的」は管理者にこそ必要なのです。
管理者が部下のモチベーションをあげるには「目的」なしには、コミュニケーションもできない。だから「飲み会でコミュニケーションを」という間違った案が浮上する。、
目的を媒体にしたコミュニケーションが日常的にあってこそ、「飲み会でコミュニケーションを」も活きてくるのです。なのにモチベーションをあげるために飲み会って、酒飲んでモチベーションがあがるならアルコール依存者はモチベーションがバリバリのはず。現実は反対でしょう。
さて、とってもすてきな話がありますので、ご紹介します。
今年の春。福井県立福井商業高校のチアリーダー部「JETS(ジェッツ)」が全
米チアダンス選手権大会の「チームパフォーマンス部門」で優勝。併せて「コリオ
グラフィー賞」も受賞しました。
設立からわずか3年、2009年03月の快挙でした。
凱旋報告会では、全校生徒約580人を前に、リーダーの3年生(17)が「全米
制覇の夢がかなった。感謝の気持ちと夢は願い続ければかなう」と報告。
顧問の五十嵐裕子教諭も「みんなで力を合わせることの大切さと夢を信じる力の大きさを実感した」と話されました。
五十嵐教諭は、入部したら、まず夢ノートを持たせ「どんな自分になりたいのか?」を自由に書かせます。
自分の才能を自分で歯止めをさせない、自分はどこまでも伸びる存在と生徒に思わせることが出発点。
さらに、髪型をルール化して、羞恥心を払いのけさせる。自分の殻を打ち破ることから「チアダンス」にコミットメントします。
そして、ひとりひとりの部員に、見た目のダンスより気持ちが大事と「何のためにダンスしているのか、誰に見せているのか」を考えさせて、目的を浸透させる。
おしゃれしたい、化粧したい、恋に憧れる年頃の女の子が誘惑に負けない自主性とモチベーションを「目的」から引き出して、連日連夜の練習に向かう。
「こんなものでしょう」の態度の奥に潜む自分勝手な「我」は、自分の値引きでしかなく、同時にチームに対する値引きでしかありません。
目的も本人もチームも破壊する「我」は、練習で取り除いて、モチベーションに替えていく。
大会では、プロセスを反映したように、「ひとりひとりの表情の豊かさ」が勝利の要因になりました。人を励ます気持ちの美しさを全員で形に仕上げたのです。
全米制覇を実現した裏には、本質を見抜いたこだわりのコーチングにあります。
勝つことだけを目標にせず、プロセスのすべてを通じて、自分はどうなりたいのか、自分という人間をどう育てるのか、イメージを作らせて、勝利すること以上の大きな課題、生涯の力となる課題に取り組ませたのです。
厳しい練習や自分との葛藤を乗り越えるタフな力を、ひとりひとりの部員の内側から引き出し、個人の脱落を防ぐことでチームワーク力にする。
目標の達成には「やる気」が絶対条件です。
やる気は気ですから、一時の感情で意欲を引き出すことはできます。
それはそれで尊いことで、ある時期はそれでもいいのです。
しかし難点は、「ムリしている」の域を出ないので、継続できないことです。
目標の達成には「やる気」だけでなく、「続ける」ことが絶対条件です。
特にビジネスの世界、プロの世界では、数値目標(目標はほとんどの場合、数値目標だ)はエンドレス。疲れるのは目に見えています。
優秀なトップセールスマンでも、必ず心が折れる日がやってきます。
懸命であるほど負荷も強いので、「何のためにやっているのか」と強く葛藤します。
その自問に答えれないと続かなくなります。
スランプから抜け出すのに何ヶ月、何年と時間がかかることも少なくない。時には折れたまま去っていくことも少なくありません。教育とは、自主的な「学びたい」意識なしに成功しないものです。
だから、優れた教師は、その条件は、教師自身に優れた学力があることではなく、生徒に本人がめざす場所を示せる力であることだと、その大事さを知っています。
つまり、学ぶ必要性を意欲的に感じさせるには、教師自らをメンター(師)にさせない。教師自身がメンターを示せることが重要なのです。動機づけの本質です。
メンターは人間でなくてもいいのです。石でも猫でもかまわない。
ですから必然で、めざす方向性を組織の外に置くことになります。個人の殻を破る基本です。
ひとりひとりが殻を破るから、組織として殻を破ることができます。
「JETS(ジェッツ)」は、わずか3年で到達したといいますが、殻を破らなければ、10年、20年かけてもできないのだから、3年は十分すぎる時間だったとも言えます。
「目的」は果たすべき”こと”だけではありません。目的は力になります。
時にはメンター(師)にもなります。
夢ノートに書いた未来の自分が、いまの自分を夢実現の瞬間に連れて行く。
そこに案内するのがコーチです。
「JETS(ジェッツ)」のみなさんが教えてくれたことです。