<あたし>と<あなた>

身体を存続させるためには
食物だけでは困難だ。身体を支えている骨や筋肉が頑丈であれば健康とはいかない。
精神が呼吸している必要がある。

あなたに降り注ぐ雨を払うことで、自分の精神に注意を払わなくていい快感。
<あたし>の愛は「あたしの身体維持装置」なのだ。
<あたし>の精神はどこに行くのか?
雨の中に消えていくのだろうか?

<あなた>であるキミは、どう受け止めればいいのか?
雨と共に流れ去って行く精神を見過ごすのか?

愛しい<あたし>よ、
身体維持装置にふさわしい<あなた>を求めよう。
依存し、嗜癖する<あたしの愛>をぶつけても、壊れない<あなた>を求めよう。
雨に消えていく精神を雨の中から捜し出し
<あたし>が存続させたいと願う身体に戻してくれる<あなた>を、

どこにでもあるような「あたしの身体維持装置」の愛を、
どこにもないような「ふたりの身体と精神の活性化装置」に、
すなわち至上の愛と呼ばれても似合いそうな愛に高めることができるのも
<あなた>であるキミの精神の高貴さによる。

雨が止み、土筆が土から芽を出す時に
向日葵の花粉が風に舞う時に
風も土も太陽も、土筆や向日葵を応援する

雨が止み、降り注ぐ雨を払うことにない朝に、
ふと、ひとりの<あたし>が泥濘の道を歩こうとする時に
<あなた>は風や土や太陽と一緒になって<あたし>を応援することができる。
<あたし>を側に置くことで。
それを選ぶ時に、愛しい<あたし>を「あたしの身体維持装置」から自由にしてやれる。
そして「あたしの身体維持装置」は解体され、
<あたし>と<あなた>の別々の身体と精神はひとつの身体と精神になる。

愛しい<あたし>よ、
身体維持装置にふさわしい<あなた>を求めよう。
依存し、嗜癖する<あたしの愛>をぶつけても、壊れない<あなた>を求めよう。
雨に消えていく精神を雨の中から捜し出し
<あたし>が存続させたいと願う身体に戻してくれる<あなた>を?.

どうか、あなたに降り注ぐ雨を払うことに朽ちていく<あたし>にしておかないで。
<あたし>に降り注ぐ雨を払うことを教わらなかっただけなのだから。
<あたし>に降り注ぐ雨を払うことを許されていると知らなかっただけなのだから。

 

林檎の樽に隠された謎

椎名