「あなたはなんのために働くのか」と質問に「食うために働く」と回答する人がいます。
「食うために働く」は「生きるために働いている」という意味ですが、こんな回答が返ってきたら、その言葉の背景にある感情に注目してください。
孤独感、挫折感、自信喪失、将来への不安、人間関係の悩みが、潜んでいます。そこには積極的に自己表現を苦手とする態度があり、ライフスキルの不足が見え隠れします。
生きる目的がはっきりしない状態ですから、「食うために働いているわけではない」と正論をぶつけても、それだけでは解決しません。
目的をはっきり持って就職したわけでも、進学したわけでもない人が絶対数は多いので、そういう意味では「食うために働く」「普通でいい」「人並みでいい」という言葉は的確に自分を掌握しているとも言えます。
一方、その裏には「あきらめ」があり、もっと刺激的で豊かな体験をしたいという願望も潜んでいます。
あきらめと願望の交差点をモチベーションアップのスタートラインと考えて、そこで打つ手は・・・巻き込む事です。
つまり参画させる。「食うために働いている」でも参画するには十分です。
モチベーションアップはその先の話と考えます。
まず、次のように整理して順番にステップアップしていきます。
・巻き込む
・欠点と限界を見極める
・欠点はトレーニングで直す
・限界はカルチャーショックで突破させる動機づけになるのは、欲求、認知、情動の3つのルートと、その複合があると言われています。
一般的に欲求で多いのは、安全への欲求(マズローの欲求5段階説のひとつ)です。
俗に言う「食うために働いている」はその典型です。
孤独感、挫折感、自信喪失、将来への不安、人間関係の悩みを解消したい欲求が動機づけになります。
積極的な意欲には遠い「食うために働いている」も、参画の入口と思えば立派な動機づけです。
「異性にもてたい」「車を買いたい」などもこの範囲の動機づけです。
認知は、達成感と難易度のバランスをどう受け止めて、動機づけになるか、ならないか、「期待×価値理論」と呼ばれているアプローチです。
たとえば、ライフスキルと専門的スキルの高いイチロー、松坂投手の場合なら、WBCなら達成感と難易度のバランスがよく、やる気になっても、町内の草野球ではやる気にならないと想像出来ます。
逆に、私ならWBCは難易度が高すぎてやる気が起こらない。
もっとも高いモチベーションをもたらすのが、理屈を越えた情動による動機づけです。
感情が自分を動かします。
よりよい人生を過ごす上で感情的な行動は慎むようにするのがいいのですが、使い方を間違わなければエネルギーになります。
「やりたい」「学びたい」という思いは自分自身からしか生まれません。
周りがいくら「やりたいと思え」「学びたいと思え」と促しても、そうはなりません。
理屈を越えた情動の王道と言えるのがカルチャーショックです。
カルチャーショックとは、自分の習慣や考え方、これまで常識と思っていたことと、かけ離れている世界があることを知らせて、心理的にショックを与える事です。
カルチャーショックを受けることで、自分の世界を飛び出して、その世界に行きたいと思ったときに、学びたいと思うようになります。
学びたいと思ったときに、自分のイメージできないことでも、なんとかイメージしたいと思うようになり、知りたい、教えて欲しい、学びたいと思うようになります。
当然、能力がアップします。同時に挑戦意欲も高まります、
能力と挑戦が二人三脚で成長するので限界を突破していくようになります。
▼ ステップアップの具体的な方法は後ほどご説明します。
・巻き込む
・欠点と限界を見極める
・欠点はトレーニングで直す
・限界はカルチャーショックで突破させる
では、次に各ステップの概要を説明します。
【巻き込む】
「巻き込む」とは、まずはとにかく参画させることです。
適切な能力があるかどうかを気にせず参画させて、やらなければ仕方がない状態にすることを優先します。
能力と課題のアンバランスの問題は、適切なサポートが必要ですが、これは上司側の問題です。
「巻き込む」イメージは、アルフレッド・ヒッチコック監督による”巻き込まれ”の代表作「北北西に進路を取れ」や「シャレード」(オードリー・ヘップバーン主演)がいい例です。
前者は広告代理店経営者が、誰かと勘違いされてホテルから二人の男に連れ出され、仕事の協力を強いられる。断った途端命を狙われ続けるはめに・・・。
後者は平凡な主婦が突然夫の死をきっかけに、これまで関わったことのない怪しげな人物と次々と出会い追いかけられるというお話。
両方とも、身に覚えのないことだけれど、降りかかる火の粉は払わないといけないのが共通点。
巻き込むとは、そういう状態にしていくことです。
もっともいいのは、チームワーク(役割分担)で挑戦させることです。
チームワークは適材適所が原則ですが、なにより大事なことは自分の役割が自分が果たせること。裏を返せば任命責任が大きい。任命者が責任を果たせるようになるには、彼にこの役割が果たせるか、能力の見極め、不足する能力の発見、不足を補うトレーニングという一連の作業です。
「食うために働いています」という人には、その特徴として先にあげたように、孤独感、挫折感、自信喪失、将来への不安、人間関係の悩みがあります。これらの問題とつながっている安全への希求を連帯感による居場所の発見、成功による自信によって満たす事ができ、自尊の欲求に発展させることで、より強い参画意識につなぐことができます。
指示の仕方で結果は変わりますので、命令・指示と報告の仕方に注意します、
▼
モチベーションを高める要因
モチベーションアップ全体図
満足・不満足要因
知識・技術要因
評価・承認要因
セルフマネジメント要因
エモーショナル要因(情動要因)
適性要因
共同体・他者期待・価値要因
【欠点と限界を見極める】
欠点は、間違う、できないなど作業面での問題です。
限界は、本人が意識できないレベルの問題です。
たいていの場合、混同して使っていますが、この違いを管理者が意識して別々に対処するようにします。
欠点はトレーニングで修復出来ます。 むしろ発見が大事ですので、そのためには先にあげたようにチームワークが有効です。
【欠点はトレーニングで直す】
先の 【巻き込む】でご説明したように、不足する能力の発見、不足を補うトレーニングという一連の作業です。
OJTを使うのが効率も良く効果的です。
但しOJTとは名ばかりで、実際には計画もなにもない、実践で学べというだけのものが多いので注意が必要です。
具体的な計画を策定してOJTをマネジメントすることが必須条件。
名刺の渡し方、挨拶、椅子の座り方、書類作成などは、十分に正しく出来る、出来ない、で判定できます。目に見えて判断できる、これらはトレーニングで良い状態に直せます。一方、限界は目に見えないもの思ってください。
【限界はカルチャーショックで突破させる】
「おいおまえ、この会社になぜ入ったの?」と投げかけたら「なんとなく、いいかなと思った」「他に行くところがなかった」と返ってきました。
このような回答の背景にあるもの、それが限界です。
限界の対象は、目に見えないものがほとんどです。このような回答をする人は、自分が問題ある人間だと思っていません。だから「普通でいい」「まあ、人並みに」という表現で語られます。
つまり、自分の状況を変えたいと思っても、なにをどう変えたらいいのか、それが分からない。
「分からない事があれば聞いてください。」と問いかけても「分からないことが分からない」のが本音です。
これが「限界」の状態です。
問題の存在も分からない。だから解決の必要性も感じなし、限界があることも分からない。限界を突破する必要も感じない。
でも上司は、刻々と変わる状況と格闘しながら、問題解決、限界突破に迫られている。そこで、なんとかそちらに向かわせようとするけれど、本人は十分やっているつもりだし、なにをどうしたらいいのか分からない。
限界が分からないと、10年たってもそのままということになります。
そこで、「能力の限界」をカルチャーショックによって知らせます。
この段階で伸びる人と伸びない人の違いが出ます。
「能力の限界」を知り伸びたいと思う人は「学びたい」と感じ、その実行によって成長します。
過去の体験や履歴とは一線を画した意欲や意識が力を発揮します。
具体的に言うと、いままで自分なりに頑張って来た。しかし実態は井の中の蛙でしかない。そんな人が、より広い世界のあることを見せら知らされた。
自分は頑張って来たけど、世間は広い、上には上がいるし、もっと深い考え方もあるんだというようなことが素直に受け入れることができると、自分の能力の限界を感じて突破したいと思うようになります。
この反対の態度が「能力の限界」を認めない人です。こういう人は伸びません。
伸びないように、伸びないように自分で自分の天井を作って蓋をしています。
習慣的にこのような態度をとっているとイメージできないのでカルチャーショックを感じないことが起こってきます。あるいは受けてもその価値を値引きして自分を優位に立たせたいと思います。
自我が強すぎて事態を客観的に認められないのです。
例えば、わかりやすい事例として、コーヒーショップを例にあげます。
受注の仕方、接客態度、ホスピタリティ、クレンリネスの態度や頻度・気遣いが立派な店があったとします。
そこで見学に行って学んでこいとマネジャーに指示したとします。
マネジャーはおもしろくありません。その店のマネジャーと比較された上、劣っていると評価されたように感じます。
そこで、同じ事はしてるじゃないかと思います。「もし不足があるなら言えばいいじゃないか、そのくらいのこと、わざわざ見に行かなくてもできるんだからさ」と思います。
「能力の限界」を知らないとだいたいこんなもんです。「食うために働いています」とはそういうことです。
確かに作業の仕方ひとつひとつの問題なら不足している能力として上司が教えればいいのです。
でも(指示したひとのセンスで違いますが)見学に行けと言うには理由があります。それは作業の仕方ひとつひとつの問題ではなく、もっと深い世界、もっと大きな世界のあることを知らせたいからです。
・見学して自分は井の中の蛙だと感じてもらうこと
・その世界に行きたいと自分で思って欲しい
ここなのです。
「その世界に行きたい」というのは教えることができないことなのです。
これは思いですから、本人以外にどうにもできません。自主性に任せるしかない。
だからリーダーは出てくるもので、育てられないと言われたりします。
作業能力の不足なら、手とり足とりで教えることができます。
「こうしろ、ああしろ、そうしろ」で教えられます。
人が成長する、組織が成長するというのは、やって当たり前の作業能力を満たすだけでは不十分なのです。
違いの 差はマネのできない思いによって運ぶものです。
外の世界を観るか観ないかで結果は変わる
本人の思い込みによる自分の値打ちばかりが気になってどうにもならない自我の強すぎる人を別にしたら、「食うために働いている」と言う人にやる気を起こさせるのは、リーダー(上司)次第です。
リーダーが仲間内ばかりを観ているか、外の世界を観ているかで「食うために働いている人」へのアプローチが決まってきます。
内、つまり社内や同業者ばかり観ていて、その範囲での相対的な競争力に終始していると、カルチャーショックを与える事は不可能に近いです。
どんぐりの背比べをして勝った負けたでは、カルチャーショックなんて起こりようがないからです。
そもそも「相対的」というのがくせ者なのです。
もし「相対的」な競争に勝つことでOKなら、どんどん潰し合いすればいい。
互いの足を引っ張って相手の力を引き下げたらいい。
成長なんかさせずに伸ばさないようにしていたらいいのです。
成長するより、成長させないようにするのが簡単で楽で手っ取り早い。事実、放っておけば、そうしています。
ものさしが「相対的」な場合では合理的だからです。みんなで渡れば怖くないというのと同じ理屈です。
これは会社での能力開発、モチベーションでも、商売でも、学校の成績でも、共通した原理原則です。
出る杭は打たれると言う言葉の通りなのです。
会社でも頑張って人目に突き出すと「そんなに頑張ってナニになる」なんて横やりが入ります。そう言う本人は足を引っ張ろうと思っていません。親切心です。自分にも他人にも親切なだけです。「○×○組合」とか「談合」とか、親切心と合理性の集合体です。
自分が頑張るより相手が頑張らないようにするほうが楽なのです。
こういう調子だから内だけの競争で上位にあっても成長なんか期待できないのです。
本当に成長させるには、社外、業界外を観て、相対的な強さでなく絶対的な強さを身につけるようにしないと競争力はつかないし、成長しない。
値下げ競争の意味
業界内の値下げ競争というのもこれと同じ論理といえます。
創造的な開発に力を入れるより、値下げする方がコストがかかりません。これも「○×○組合」とか「談合」の衣替えバージョンで親切心と合理性の結果といえなくもありません。
競争力の点で、最初は値下げする方がコストも安くつくのでどんどん行きますが、やがて打つ手がなくなります。
結局下位にいる者は淘汰されてしまいますが、その原因は相対的な競争に終始するからです。
あれこれ手を出さずに集中するドライ商法であれば、相対的な競争でいいと思うかも知れませんが、ユーザはいろんな業種、業界と関わりながら仕事をして、暮らしています。多様な比較をもとに判断するしますので、相対的に一番ではいいとは言えないでしょう。
競争力で上位にある会社は下位を撃退するために活動しているけれど、同時に業界外部も観ています。
外部を向いて競争していたら相対的な競争では満足も安堵もできなくなるので、それが絶対的な強みを希求することになり、競争力、成長力、強くなる源泉になります。
下位は上位と業界内の相対的な競争に苦心します。業界内の競争だから相対的な競争で勝っていたらいいと考えてしまいます。合理的です。他から参入してこない限り、それでいいと錯覚します。
気をつけないといけないのが、 同じ発想が社内のモチベーションにも反映されることです。
日常的に内部、業界内を基準にしてして。しかも地域内限定みたいなことになるので、ますます井の中の蛙になることを”めざすレベル”にしていることに気がつかないのです、個々の競争力が不足してくるようになります。
競争力で上位にある会社は、内部だけでなく外部を観ていることが多いので、レベルの差が歴然としてくる。でも気がつかない。
会社というのは人間の集まりでしかありませんから、従業員の力の総和の違いが会社力の差になって表れます。この従業員力がコスト計算できないので無関心になりがちですが要注意です。
外部とつなぐ
人間も、会社も同じです。
クラーク博士が「少年よ、大志を抱け」と教えたように「視野」が重要な役割をしているのです。
出る杭は打たれます。それでも出る事が内から外をめざすことになります。
「食うために働いている」と言う人にやる気を起こさせるには、外の世界とつなげることが大切なのです、そのどこに到着するか、そこに進路をとるようにします。
世界の広さを教えてカルチャーショックによってめざめを期待します。
君はいまここにいる、だけど世界はこんなに広い。君にはここまで行ってほしいと願う。胸に一点、外界に一点、それをつないだ一本の線が見えたとき、どれほそ細くて切れそうでも、その一本の線がやる気の命綱なのです。
「黒船」という歴史が教えています。
めざめは学びを求めます。モチベーションと学びの二人三脚が、「食うために働いている」を「自分にはしたいことがある」に変える原動力になります。
では、どんな外部があるのでしょうか?どこから観るかで景気は変わります。
小さな丘から見える景色と富士山では違います。観るものすべてから学ぶことができるのは、それだけ高い場所から観るからです。
本人が認識しやすい広さを選んであげて、ここから観てごらん。と眺めの良いポイントと、いま君はあすこにいるんだよと本人の居場所を
教えてあげることで、全体像がつかめるようにします。
リーダーシップとチームワークと学習意欲の因果関係
カルチャーショックを与える力はリーダーシップが発揮される重要な場面ですが、リーダーシップはチームワークを創造する要です。
チームを構成する個々の力の適正を見極め、不足はトレーニングで補いますが、その判断、選択こそリーダーシップの本体といえます。
その本体をベースにして、もっとも多い層であるだろう「食うために働いている」と言う部下を巻き込んで参画させることで意識を高めていきます。
目標、フィードバックを繰り返しながら、力をつけ関心を高めながらやる気の継続をします。
さらに 外部に向かせることで、カルチャーショックを当てることで学習意欲を引き出す。
学習意欲を日常業務に落とし込んだ上で、目標、フィードバックにつなげていくのもリーダーにしかできない仕事と言えます。
人なみんな「共同体」に属しています。また属したいと願っています。コミュニケーションスキルに苦手があったにしても、「あなたは大切な存在だ」と言われたいものです。
リーダー自身がそう語るだけでなく、より多くの人から 「あなたは大切な存在だ」と言われる場所に連れていくために、リーダーシップは、原動力として機能します。
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