マニュアルと接客の関係に見る成功要因
ブランド力は
アサーティブによって育まれる
自分の判断でなく、マニュアルに定めてあることをただそのまま接客するのと比べて、ひとが自分で判断して接客していると自然な印象を受けるものです。
「挨拶をして普通に会話したらできるはず。」・・・経営者なら誰でもそう思います。しかしそれを励行しようとしたら、できないので、マニュアル通りにやるしかないと判断してマニュアル全盛になりました。
マニュアルやルールにがんじがらめにされて働いている人には、任されることをうらやましく思う人がいたりします。
一方、お客さまはマニュアル通りにする姿を見て侘しさを覚えながらも、マニュアル通りに実行できている姿に畏敬の念を覚えたことも事実です。
マニュアルと接客の関係は大別すると以下の4通りになります。
【パターン1】マニュアルレスで最高の接客ができる
【パターン2】マニュアルの範囲で最高の接客ができる
【パターン3】マニュアルの範囲のことが実行できない
【パターン4】マニュアルレスで各自これが仕事だと思うことをやっている
マニュアルレスで自分の裁量で判断できることの喜びとやりがいは大きいのですが、そこには責任が必ずついて回ります。
そこを自覚できない限り、マニュアルをなくすことはできません。
マニュアルを使っても、その通りできないというのは、マネジメントが機能していないことを意味しています。
他に理由はありません。
「こうしてください」と決められたマニュァルがないということは、自由ということではなく、最良の方法を考えて実行しなさいという権限委譲の精神が実行されている証明です。そこには、任せる側と任される側の信頼関係が大切ですし、何がベストであるかを判断する良心と良識が求められます。良心と良識なくして自由はありません。
マニュアルがなく、各自これが仕事だと思うことをしているので、マネジャーは苛立ち、個別に攻撃をするというのは、マネジメントを間違えています。
【パターン1】と【パターン4】の間では、結果に辿り着く道筋があるのと、ないのとの違いがあります。努力していたらどうにかなるという話ではありません。
いくら努力しても、方法が間違っていたらなりません。
だからマニュアルを作って導入しても、思うようになるところとならないところが出てきます。
【パターン1】マニュアルレスで最高の接客ができる
【パターン2】マニュアルの範囲で最高の接客ができる
両者には共通する点がありますが、以下のパターンには共通する点がありません。
【パターン3】マニュアルの範囲のことが実行できない
【パターン4】マニュアルレスで各自これが仕事だと思うことをやっている
この両者には、マネジメントできない点で、共通するものがあります。
マネジメントとは決めたことを決めた通りに実行することです。
マニュアルレスで最高の接客を実行すると決めたら、そうするように持って行くのがマネジメントです。
マニュアルがないからマネジメントがないわけではない。
ですから、マネジメントする立場、される立場共にマニュアルがあり、ルールがはっきりしている方が、仕事はやりやすく楽な場合が多いのが実態です。
10円のものを売っていてもブランドは作れます。1000万円のものを売っていても作れない者には作れません。
ブランドとは生き様、仕事の仕方が商品に与えている影響の大きさと品質の確かさです。
多様な価値観が混在する集団が、そこにひとを介在させてブランドを築くとは、仕事の仕方の標準化なしに実現できません。つまり働き方の共感よ共有です。
それをマニュアルなしに実現するには、ひとり残らず個人のパフォーマンスを最高レベルに引き上げることでしか標準化できません。
「こんなものでしょう」と途中でお茶を濁すことを認めない文化と仕組みがないとできません。
だから「ブランド」になる。
これが仕事だろうと各自が勝手に判断する世界とは対極にあります。
これはアメリカのデパート、ノードストロームの精神に通じるものがあります。
ノードストローム(Nordstrom)は、アメリカ28州で160店舗を展開する創業1901年の老舗デパート。「ノー」と言わない顧客サービスで有名です。
ノードストロームの就業規則には「どんな状況においても自分自身の良心と良識に従って判断すること。それ以外のルールはありません」としています。
そこから見えてくることは、良心と良識への認識のバラツキの範囲が最小であることが実行力に影響していることです。
個々の作業の仕方は個人の良心と良識に任せるが、良心と良識では一致していることが絶対条件になる世界。
マニュアルの世界はここが反対なのです。
作業の仕方は絶対に遵守だが、個人の良心と良識は問わない。
分りやすくするために、極端な言い方をすると、もともと個人の良心と良識をあてにしていないのが、マニュアルの世界です。
人を信用できない、そんなことに時間を費やすのは効率的ではないとして、作業さえ間違いがなければクレームは出ないという世界です。
マニュアルレスのマネジメントは、もっとポジティブです。
クレーム防止ではなく、感動を起こす最高のものを届ける。その態度がお客さまに伝わっている限り、クレームが出る確率は低く、称賛を獲得できるという英断を背景にしています。全員が自分でよしと思うことを自分で考え行動することでチームワークを実現する仕組みです。
ファストフード、コンビニエンスストァ、スーパーマーケットの膨大なマニュアルに比べるとすごく少ない世界でありながら、逆にそれを越えるものを提供する野心に満ちた世界です。
それは野球とサッカーの違いといえます。
野球は一球一打について指示を出しマネジメントするのに対し、サッカーは一度ピッチに入ってしまうとベンチからのマネジメントはほとんどできません。
サッカーは、野球以上に動きの中で連携と役割分担が要求されます。
サッカーは、チームメイトとの信頼関係のみならず、サポーターとの信頼関係も大事で、サポーターもチームメイトの部分のようなスポーツです。
では信頼関係を強固にしていくうえで欠かせないスキルとは、どういうものでしょうか。
たとえば スターバックスが目線にしているスキルはどうでしょう。
1)自分への信頼感を高める率直であるスキル
2)すべての他者の話を傾聴する誠実であるスキル
3)サポートを求め、求められる対等であるスキル
率直、誠実、対等、これらはサーティブの4つの柱に通じるスキルです。
この三つを実現する原動力となっているのが自己責任です。
自己責任への高まりが自律できる心を創造します。
自分への信頼感を高める。これは自己肯定するスキルです。その延長に自他肯定があります。
自尊感情を高めることは一般には楽なことではありませんが、ライフスキルすべてに影響する最も重要なスキルで、他の2つのスキルを高める上でもどうしても必要なスキルです。
自他肯定によって、他の2つを実現する力になっています。
聞く(hear)と聴く(listen)は違います。聴くとは、コーチングでいうところの"アクティブ・リスニング(積極的傾聴)"です。
聴くという字を分解すると、耳と目と心があることが分ります。
ひとには、雑談など、ただ話を聞いてほしい場合があります。その場合は聞くようにしてあげます。
しかし、大切なこと、心を伝えたい場合には、聴いてほしいと思います。
人の話を傾聴するとは、ただ話を聴くではなく、こころを感じ取るスキルが問われています。
コーチングでも重要なスキルである 相手に話しやすいようにしてあげることが、結果的に聴きやすい状態を作りますので、自分の聴く態度が問われます。
積極的な傾聴は相手の気持ちを理解するスキル、相手の立場になって物事を考えるスキルにつながります。
これによって、仕事で重要なホスピタリティのスキルを身につけることになります。
さらに言葉の向こうにある相手の心を感じ取るには、自意識が高くては聴き取れません。自意識が高くなるのは自尊感情が低いからです。そこで自己肯定するスキルが必要になります。
アクティブ・リスニングを習慣として身に付けることで、一人ひとりのパートナーが常に相手の立場で考えるようになり、互いに支え合い助け合うと同時にパートナー同士の絆を強め、働きやすい環境をつくります。
サポートを求めるスキルは、互いに支え合うという互助の精神を含んでいますが、これが甘えでなく自立心になるのは、自分への信頼感を高める意志が機能しているからです。
裏返すと、自立しようとしないから、サポートを求める必要がなく、誰の役にも立たない自意識だけが強化され続け、自分への信頼感を弱めます。
結局、日頃から、なにを問題にしているかの違いから、どんどん自分が成長する職場と、逆に全く成長しない職場ができあがるということです。
自分の人生は自分の選択と行動で変化します。
世の中や環境のせいにして、自分にできることをしないでいたら、できることも、やがては大きな変化を起こせる可能性も全部閉じてしまうしかないのです。
自分の人生は自分の選択と行動で変化します。
世の中や環境のせいにして、自分にできることをしないでいたら、できることも、やがては大きな変化を起こせる可能性も全部閉じてしまうしかないのです。
スターバックスにしてもノードストロームにしても、店というチームは自分でよしと思うことを自分で考え行動する自律型マネジメントによって顧客を惹き付けているのです。
他社との差別化要因の切り札になっているのは、いくつかの信頼関係に他なりません。
・ 仲間との信頼関係
・ お客さまとの信頼関係
それを実現しているのが
・ 自分の信頼関係
なのです。
つまり、それは個人の問題として切り捨てるか、共同体の問題として向かい合い考えるか、ひとへのまなざしのあり方が最終的に利益のもっとも大きな要因になっているのです。
そして、7つのゴールデンルールは、自分との信頼関係、つまり自尊感情を高めるためのものです。
●理想と現実の差をうめる目標を選ぶ
●感情的な行動をしない
●自分と周囲の人を尊重し励ます
●プロセスに注目する
●決めたことは責任をとる
●できるまでやる
●いまこの瞬間に集中する
混迷の時代にあって、良心と良識が問われています。