<素敵じゃないか>から始まる小宇宙。ロック史上、米英ポップス史上、最高傑作、至高のアルバムと称される『ペット・サウンズ』を聴いていて思うのだが、ビーチ・ボーイズとはロックンロールをやりたかったわけではなく、もちろんロックンローラーであるわけでもなく、”ロックンロールが好きな若者の音楽”と定義づけられる気がする。
ブライアン・ウィルソンもやはりエルヴィス・プレスリーの刺激的なフィーリングに興奮し夢中になったひとりだ。
エルヴィス・プレスリーの『フランキー&ジョニー』がリリースされた翌月の1966年5月16日に『ペット・サウンズ』はアメリカでリリースされた。
当時ブライアン・ウィルソンはノイローゼだったためバンドのワールド・ツアー(アジア)に参加せず、カリフォルニアにいた。出かけたバンドの留守中にビートルズが1ヶ月かけて録音した『ラバー・ソウル』に触発され、スタジオにこもって作り上げた個人的、内省的な作品が『ペット・サウンズ』である。初めて”ゴッド”という言葉がロックのタイトルに使用された。「これはチャペル・ロックだ。大衆の聖歌なんだ。」ブライアンの魂がこめられていた。
『ペット・サウンズ』リリース10日後の1966年5月25〜26日にエルヴィスはゴールデン・ヒム・セッションをナッシュビルで行う。<横町を下って><偉大なるかな神><明日は遠く>などを録音している。音楽シーンがエルヴィス登場以降、もっとも大掛かりな革新を見せ始めたその時、エルヴィスも復活への助走を始めていたのだ。
「エルヴィスの素晴らしさをホントは誰も分かっていないんだ!」と語ったフィル・スペクターがプロデュースした<ビー・マイ・ベイビー>・・・ブライアン・ウィルソンは「なんだ!コレは!」と感性を揺すられた。
さらに『ラバー・ソウル』だ。この時ブライアンの創作への情熱はあらゆるリスクを忘れるほどに、誰も止めようもなく爆発していた。スピリチュアルで繊細な音の星座のように燐とした配置、配列の創作活動中「ボクは神に捧げるティーン・エージ・シンフォニーを書いている」と語ったが、この言葉こそコンセプト・アルバムあるいはトータル・アルバムとは何かをもっとも端的に、誠実にして率直、無垢に語った言葉だろう。