【 3】自己効力感
ライフスキルがなぜ必要なのか、なにが問題でライフスキルなのでしょうか。
自分自身の内側に骨格のような自己肯定感を貫く上で大いに貢献します。
自己肯定感は自尊心のことで、セルフエスティーム(self-esteem)です。
これに似た言葉に心理学用語「自己効力感」があります。
自己肯定感(セルフエスティーム)は、自分自身の価値に対する感覚を表現していますが、心理学者アルバート・バンデューラ(カナダ)が提唱した自己効力感は、目標に到達する能力に対する自分の感覚を表現したものです。
「自己遂行可能感」・・・つまり自分の目標達成能力についての有能感を表しています。
人がある行動を起こそうとする時、自分がどの程度うまく行動出来そうか、その程度の予測によって、その後の行動が予想に適応した形で起こります。
ある課題と向かい合った場合、自己効力感の高い人は、「自分にはここまでできる」と予測することで、「よし、やってみよう」とモチベーションが高まり、その後の行動に発展的につながり、その連鎖によって自己効力感が維持あるいは高まりが続きます。
一方、自己効力感の低い人は「その課題は自分にはできない可能性が高い」と予測するために尻込みする傾向にあり、課題と行動の間に断絶が起こり、その後の行動にはつながらなくなります。消え入るようにモチベーションも下がり成果も出ません。
つまり人が行動を起こすには、自己効力感を通り抜けなくては始まらないと言えます。
この傾向を日常的に、楽観的、悲観的と呼んでいますが、楽観とは、物事について気にしない性格を言うのでなく、むしろ逆で、細心の注意によって必要なことを正しく計画、準備して、合理的な行動を重ねて行くという確かな裏付けに支えられた態度と言えます。
自己効力感は、主に次の4つの源泉によって形成されるといわれています。
1.達成体験
自分自身で行動によって、達成した体験のことです。
自己効力感を定着させるうえで、最も効果的といわれています。
2.代理経験
他者が達成している様子を観察して、想像をかきたて「自分にもできそうだ」と予測すること。
自分自身が直接、体験できる範囲は限られていますが、代理経験を使うことで仮想体験が可能になります。代理経験で得られる自己効力感の影響は大きいと考えられています。
3.言語的説得
達成の可能性を、言語で繰り返し説得すること。
しかし、言語的説得のみによる自己効力感は、容易に消失しやすいといわれています。言語的説得はきっかけでしかないと割り切って、早期に達成体験によって自己効力感を定着させるのが効果的です。
4.生理的情緒的高揚
苦手だと感じていた場面で、動揺することなく落ち着いていたり、身体的な変化が起こらずにすることで、自己効力感が強められることを言います。
以上から言えることは、自己効力感は、小さな成功体験を繰り返して、蓄積することで高める一方、目標とするモデルを心理的に身近なところに見つけて成功を発見することで仮想体験的に、自己効力感を育てていくことができます。
自分自身にできるのは概ねここまでですが、代理経験を通じて、さらに自分の自己効力感を高めることができます。この能力がリーダーシップに発展していきます。
周囲の誰かの自己効力感を高めたいと思い、言語的説得を根気よく続けることによって相手だけでなく、自分の自己効力感が高まります。
さらに相手がチャレンジする代理経験を通じて、自分のスキルが高まると言うわけです。
自己効力感が高まると、自分から課題に取り組む意欲がみられるようになります。
学習への意欲が高まるようになり、自律的な行動の変化が起こるようになります。
すると新たな業務、異なる分野など、いままでと違った行動が求められる時に意欲的になります。
自己効力感が増大するに伴い、内発的な興味も育っていくようになります。
新しいことに前向きに挑戦していくためには、スキルの根本に自己効力感の存在が必要だといえます。
ライフスキルは自分と周囲の人との関係を自律的、発展的にコミュニケーションする力といえます。
人生は選択の連続です。ただ選択するのではなく、いつも可能性が問題になります。
その大半は自分の能力によって可能性を開きます。
自己効力感の高いひとにとってはこの上ない楽しみになりますが、自己効力感の低いひとにとっては、この「可能性」こそ頭痛の種なのです。
・衝動と抑制
・欲望と自制
・欲求の充足と不足
これらの差異から生じる葛藤の処理能力は、自己効力感とダイレクトに結びついています。葛藤の処理の仕方で、その人の一生の未来が容易に見えてしまうのも、自己効力感が繰り返しによって培われているためです。
処理の仕方は、個人特有のもので、繰り返し行われる事で、その特性が強化されるからです。
衝動は感情とリンクしていて、不安をコントロールできる力は、精神活動のすべてに影響し、 あらゆる場面で集中する意欲に影響を与えます。
コントロールできない者にとっても同じで、他のことに集中する意欲を妨げ、不安は知性を破壊します。
不安の強い人は作業にかかった途端に「その課題は自分にはできない可能性が高い」と予測するために、作業が進む前にギブアップしていることが多いので、真剣になれない、モチベーションが高くならない、継続出来ないといった負の連鎖が瞬く間に動き出します。
葛藤に向かい合ったときの処理の繰り返しがどのようにして起こっているのか、理解するうえで、とても分かりやすい事例をご紹介します。
4歳児を相手に、「すぐに帰ってくるからお留守番お願いね。」とケーキを1つ置いて説明します。
「帰ってくるまで待っていてくれたら、もうひとつあげるから、2つ食べることができるよ。でも帰ってくるまで待てなかったら、このひとつでおしまいよ。いいわね。」
そう言い残して離れます。その結果は明白です。
ほとんどのこどもは待つ事なく、目の前に置かれた1個のケーキを食べてしまいます。だからこそ、こどもという見方が出来ます。
しかし、一部のこどもは辛抱して待ちます。
「衝動と抑制」と向かい合って待っている間の、その10分は大人の3時間に値するかも知れません。
「ボク、食べたかったけれど。食べなかったよ。だから2個食べる事ができるんだよね。もうひとつは早くちょうだい。ねえ、はやく!」
この無邪気な笑顔と要求から、将来の生き方を予測することも可能です。
我慢したおかげで2個のケーキを食べることができたこどもたちは、自分の感情を認識していたうえで、ストレスを処理しています。
つまりライフスキルの重要なスキルである自己認識スキル、ストレスマネジメントスキルを体験した上で、意志決定スキル、目標設定スキルを自分のものにしているのです。
その結果、自分の考えと行動を報告することで、保護者との間で効果的な.コミュニケーションを体験して、コミュニケーションスキルの心地よさを体験します。
ここで獲得した心地よい体験は、何度も繰り返されることになります。
幼いときの持続性を繰り返し体験することで、その特質は強化されます。
我慢できるタイプは成人すると社会性の高いグループに入ります。
一方、我慢できないタイプは、社会性が弱く、目標から後退することが多く、ストレスに弱く、小さい挫折に心が動揺、感情の起伏が激しく、その反動もあって強情だが優柔不断、自分をダメと決めつける傾向が強化されてしまいます。
幼いときの持続性を繰り返しの結果として、ストレスをバネにして、計画を立てて実行する力が強い楽観的なグループと、目標を持つことが苦手で、不安につぶれやすい悲観的なグループに大別できるようになります。
ストレスをバネにできる人とは希望を持てる人です。
希望とは楽観のことで、楽観とは計画を立てて達成のために気力を使える人、必要なら他者の援助やアドバイスを積極的に求めることができる人と定義出来ます。
ストレスにつぶれる人は、この反対で悲観的です。
悲観とは、一度挫折したらあきらめてしまうことが多いタイプ、自分をダメだと決めつけて、挫折しやすい。そのため逃げ腰になり、他者の援助やアドバイスを嫌います。
楽観的な人と悲観的な人では、ノーに対する感情処理能力に決定的な違いがあります。
楽観的な人は受け止め方が合理的で、ノーと言われても相手の虫の居所が悪いのか、あるいは自分のアプローチの仕方が悪るかったのか。やり直せばいいと考える事ができるので、PDCAのマネジメントサイクルをどんどんフル回転できる力につながります。
これが問題解決に拍車がかかる要因になり、解決が早まります。
悲観的なひとは自分のせいだと決めつけ、思い込みが強く、この反対が起こります。
効率的なマネジメントが苦手で、特にセルフマネジメントに顕著な傾向があります。
自己効力感の違いは、集中力の違いになります。
たとえば、いままで取り組んだことのない講座に参加したとします。
聞いたことのない言葉、いままで知り合った人たちと違うタイプの人たち、このような雰囲気に呑み込まれ、「自分には出来そうにないかも」と気になりだしたら、そればかり考えてしまい、講座は上の空。
隣の人は真剣に傾聴していて受講中は「できるか、できないか」について考えもせずに、ひたすら学んでいる。両者の結果は明白です。
能力の違いではないのですが、片方は上の空だったために頭に入らない。片方は傾聴した分、頭に入っている。
結局、自己効力感が自己効力感を育む。楽観が楽観を育み、悲観が悲観を育む。
幼いときの体験が繰り返し続いているのです。
ライフスキルの効用の意味は、なによりライフスキルの存在を認識することにあるといえます。そしてマスターすることが可能であること。
その始まりは、時間を自分の意欲で塗りつぶすことです。
次の図をご覧ください。(ここには記載していません。悪しからずご了承ください)
人はみんな24時間を授かっていますが、自分の持ち時間の使い方がそれぞれ違います。
図は起きている間の1日の12時間を表現していたとします。
黒が、集中した時間だとします。白は、その反対です。たとえばアルコールを飲んだせいで記憶にありませんという状態だとします。依存による時間の消費は、自分を忘れるための行為なので、ほとんどこれと同じです。
さて問題は、人は自分の行動パターンを毎日繰り返しているということです。
つまり黒の人は毎日黒、白の人は毎日白。これを両極端にしていろいろありますが、問題は毎日自分の行動パターンを繰り返していることです。
これが人生の差になります。まさしく人生の縮図です。あなたはどれですか?