■エルヴィス・アット・サン
● ミステリー・トレインを塗りつぶせ
▼この列車は、何色に聴こえますか?
「エルヴィス・オン・ステージ」のオープニングを飾るのが、 <ミステリー・トレイン>です。
<ミステリー・トレイン>は、エルヴィスがRCAからデビューする前に、テネシー州メンフィスのローカル会社「サンレコード」で録音したものが、エルヴィス・バージョンのオリジナルです。
<タイガー・マン>とメドレー仕立てにした「エルヴィス・オン・ステージ」のものとは、雰囲気が違いますが、両方ともにカッコいい仕上りです。
ライブ盤では、16両編成の鉄の塊が爆走します。
聴く者の感情をきしますような疾走感が、聴き手を歓喜の極みまで、一気に牽引します。
観客の口笛がしきりに聞こえることに嫉妬するパフォーマンスです。
エルヴィスと一体感のあるバックの演奏も、いかにも汽車が走っている様子が表現されていて楽しいものです。
<ミステリー・トレイン>は愛ピのエルヴィス・ベスト10として欠かせない名曲。
サン・レコード盤の<ミステリー・トレイン>は、エルヴィスの哀愁のある高音が、同じ歌詞の繰り返し、汽車が走るようなサウンドとひとつになって奇妙な空間を作り出します。
繰り返される、トレイン〜、トレイン〜のフレーズに16両編成の列車に彼女を乗せて去った悪霊の不気味さを感じます。
エルヴィスの声から、にらめつける視線で悪霊を手なずけてしまう勢いです。
聴けば聴くほど、聴いているこちらの脳がねじれるような快感に、覆われて、おかしくなりそうです。
サン・レコードで録音したサウンドは、いまのような電気仕掛け隆盛の時代にあっては、馴染みづらいものがあり、エルヴィス・ファンでも馴染めない方も少なくない。
気合の入ったロック・ファンなら、この時代のエルヴィスこそ最高であって、この時代のエルヴィスなしにビートルズの登場もローリング・ストーンズのいまもないと考えている方が多いのも事実です。
古い伝説ですが、昔の阪神ファンには、敵であっても長島・王だけは別、
逆に巨人ファンでも、村山・江夏だけは別という方がたくさんいた時代がありました。
ファンの垣根を越えて、ぞの実力、努力、意欲に「敵ながらあっぱれ」と称賛したものですが、サン時代のエルヴィスは、文句なしにそういう存在です。
サンの録音のなかでも、世界有数のロック・ミュージシャン自身がベスト100に名を連ねる名曲とあげているのが<ミステリー・トレイン>です。
それにしても、ブルースでも、カントリーでも、「トレイン」という単語は頻繁に出てきます。たいてい別れが絡んでいます。
日本の歌謡曲でも昔は列車という言葉が頻繁に使われていたように思いますが、いまでは少なくなったのも交通機関の発展のおかげですね。
さて、<ミステリー・トレイン>も別れが絡んでいますが、この曲は別れでお終いではないところが素敵です。
エルヴィス以前の1953年に、やはりサン・レコードで黒人のリトル・ジュニアズ・ブルー・フレイムズ(ジュニア・パーカー)が録音していますが、エルヴィスとこの曲の出会いによって化学反応を起こしたようにエルヴィスによってこの楽曲はまったく違う性格を帯びました。
そこが信じられないほど素晴らしい変化なのです。
ミステリー・トレイン・・・
あなたならこの列車は、どんな色に聴こえますか?
▼ロックンロール史上、もっとも意味のある奇声
先週号でも書いたことですが、女性には3つのタイプがあり、一番複雑なのが人間を信じられないタイプがあります。
以前「おかあさんに甘えることができなかった人はそうなってしまうんですよ。私もそうです。」と語ってくれた女性がいました。
夜遅くまで、漫画喫茶で漫画読んだり、読書したり、ひとりが好きな専門学校生です。
「東京には兄さんがいるし、親戚もいるので、知り合いのいない大阪より、東京が自然だと思うので、引っ越します。東京に来たら連絡くださいね」と、春に引っ越しました。
で、先日「東京に行くけど、飯でも食べようか」とメールをしたら、
返信メールを見て、どっきり、びっくり仰天。
「いま吉原のソープで働いています。
ネットに写真出ているので、来て下さいね」
・・・「ドタッ!バタ〜ン」です。
あまりにもドラマチックというか、なんというか。
なんで素朴なあの娘が・・・。しかしそんなものなんですよね。現実です。
あまり親しい関係でないからこそ、告白?してしまえるのか?
寂しさのせいなのか?そこまで知らせなくてもと、思いながらも、ネットで微笑んでいる姿に愕然としながらも、事態に驚くしかない愛ピです。
こういう内容のメールが、自分の携帯電話の中におさまっていること事態が、衝撃ですが、これが現実の社会と思うほど、逆に、なぜかリアリティーに欠けてしまう自分の感覚。
しかし、それとても、あまりにも容易にハードルを越えてしまう現実に、また触れただけなのです。
人に対する不信ゆえに、親密な関係を作ることができず、本当の意味での親密を拒否しながら、かりそめの親密で自分を癒して暮らす。
とてもミステリーな世界ですが、本人しか分かりえない感情があるのでしょう。
それを本人にしか分かりえないことで、すますのか、すませないのか、複雑な気分。
ただ言える事は「行ったらメールするから、メシ食べよう」
<ミステリー・トレイン>が鳴り響きます。
エルヴィスの<ミステリー・トレイン>は、ボーカルとギターのエルヴィスは仲間のギターのスコティ、ベースのビルと一緒になって、悪魔に連れ去られた恋人の奪還を企みます。
彼女をもとの場所に連れ戻すために疾走します。
トレイン〜、トレイン〜、爆走する黒い鉄の列車より前に出ようとします。
ビルが弾みをつけ、スコティは激しくギターをかきならし エルヴィスは自らのギターで突進し、
カーブの曲がり角の向こうに消えた列車の前に出ます。
ついに追いつき、エルヴィスは列車に飛び乗り、黒い列車を方向転換させて、彼女を奪い返します。
エルヴィスが好きな色に塗りつぶした列車は彼女のふるさとへ凱旋してきます。
もう二度と彼女を奪われたりしないと決意します。
トレイン〜、トレイン〜の哀愁のある声が、胸にひっかかりますが、痛みを超えて
ボクは列車の色を想像して楽しみます。
エルヴィスは何色に染めて凱旋したのだろう?
多分ピンク色?もしかしたブルーとイエローのツートンカラー?
彼女とエルヴィスと仲間たちは、
悪霊のブルースの彼方まで行きながら、ブルースの魔の手に染まらなかった。
なんとも素晴らしいことに、
<ミステリー・トレイン>にはエルヴィスの喜びが永遠に封印されています。
聴くたびにエルヴィスとバンド仲間の歓喜がこだまします。
曲の最後を飾るエルヴィスの奇声。
深い孤独と歓びがひとつになった奇声は彼女誘拐事件に決着をつけます。
騒々しく意味のない奇声ではない。
ロックンロール史上、
もっとも
悲しくうれしく
美しい奇声です。
喪失の彼方にある再生ロックンロール全部を聴いたわけではないが、
これを超える奇声はないと言い切ってしまう。
1954年。
まだ誕生したばかりのロックンロールは、
未熟でも、たくましくて
「負けずにいることができるのだよ」ということを
たったひとことの奇声で語り尽くしたのです。
<ミステリー・トレイン>
♪ 列車だ、列車が来るよ、線路を走って
あの娘を乗せて戻ってくる
俺のあの娘を、あの娘は俺だけのものさ
俺のあの娘を、あの娘は俺だけのものさ ♪
これはもう、めちゃくちゃにカッコいい”ロックンロール”です。
そうだよ、あの娘は君だけのものさ。
エルヴィス・プレスリーの音楽が他のものと決定的に違うことを語るものです。
ロックは街に溢れています。
だけどこんなに素敵なロックンロールは、どこを探しても見当たらない。
早々に、あきらめて、ごまかすのが得意になった時代に、いまが旬の曲です。
勝つことができなくても、負けずにいることができるのだ。
<ミステリー・トレイン>は
ジム・ジャームッシュ 監督によって、映画にもなりました。
ジャームッシュ監督通算4作目にして、初めてのカラー作品。
人間のもつユーモアとやさしさをほのぼのと描き、
89年のカンヌ映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しています。
永瀬正敏と工藤夕貴も出演。
■ミステリートレイン
/ ナイト・オン・ザ・プラネット : 2 in Pack