ソルト&ペッパー
シャロン・ストーン似の女性とよく遊んだ。
自転車旅行、キャンプ、ニュージーランドを1万円で旅行したり、いつもお金を使わない旅行をした。女でもなく男でもなく、彼女自身としかいいようがないのは、彼女の経歴から匂いたつものだ。
彼女は、アメリカに生まれイギリスで育ち、ニュージーランドの学校で学んだ。
ハイスクールを卒業した後、海辺にテントを張りキャンプ生活をしながら通った、郵便局で一年間働いた。
その後、友人と日本にやってきた。
父親は飛行機の整備士としてイギリスで働いていた。医師になるためにニュージーランドで苦学して、オーストラリアのパースでクリニックを開業した。その間の収入の不足を母親が支えた。
祖父は生涯をアメリカに暮らし、オークランドで、ひとりで亡くなった。
近所の人が晩年を支えたそうだ。
両親は遺骨を迎えに行き、遺骨と共に、車でアメリカを縦断した。
彼女から、いっぱいプレゼントをもらった。
トースターやミキサーをはじめとし、どれもが、キッチン用品やゲームだった。
喜んでいない素振りを怒ったけれど、彼女自身が使うためにくれたようなものばかりだった。
ソルト&ペッパーはボタンを押すと、イルカが笑い声を出すようになっている。
彼女が求めていたのは、父親と母親と弟と、そして願わくば祖父と祖母の家族の落ち着いた簡素な暮らしだったと思う。
いまもどこかで。
自分が珍しく台所で奮闘していた夏の夜。
真夏の太陽以上に赤いコートを着て、彼女は部屋のドアを開けた。
コートの下にはコートより赤いリボンと包装紙に包んだ彼女の身体があった。
自分は時に、彼女の父親にも、弟にも、祖父にもなった。
でも、自分は自分でしかないので、そのどれにもなりきれなかった。
人は決して叶わぬ代替不可能な夢を代替品で間に合わそうとするが、そのほとんどは無惨に砕け散る。
そして誰より本人が砕け散る場所を求めているものだ。どうやら旅の終わりは故郷という名の見果てぬ夢のようだ。
代替不可能な生涯叶わぬ望みを、ジグソーパズルのようにバラバラにして、バックパックに詰め込み、「ハロー」と無邪気に崩れた表情で自分の前に立っていたのが懐かしい。
★ちゃんにも代替不可能な夢があるのかもしれない。
夢が砕け散るなら、砕ける前に、砕け散るのが自分だといいと思う。
そう思う自分といつも格闘している生身の自分がいる。
経験は自分を強くしてくれたと確信している。