アイ・ビリーヴ
● クリスマスは勇気と出会う日
もう2000万枚は突破したという「エルヴィス・クリスマス・アルバム」
エルヴィス・プレスリーのクリスマス・アルバムと聞いたら、
みなさんは、どのアルバムを真っ先に思い浮かべますか?
それこそが心に一番残っているエルヴィスからのクリスマス・プレゼントということになりますね。
楽しいですね。
是非、一番心に残るアルバムを教えてください。
クリスマス・ソングの最高峰は、なんといってもビング・クロスビーの<ホワイト・クリスマス>に尽きます。
くやしいけれど、エルヴィスも、ここは謙虚に譲って<ブルー・クリスマス>
昔昔、銀河の彼方・・・
音の円盤を売るお店の内部の壁一面に、笑顔のビング・クロスビーの白いアルバムが思い切り並んでいた光景が忘れられません。
コーナーには、エルヴィスのクリスマス・アルバムが、置かれていました。
アルバムもEP盤も同じ表情のエルヴィスで、悲しそうな表情で遠くを見つめているもの。
ものの見事に両極端。表情と色彩のあまりの違いに、この2枚のアルバムは脳裏に焼きつきました。
お金もないので、当時はクリスマスのシーズンしか聴かないようなものと考えて買いませんでしたが・・・。
初めて手にしたクリスマスアルバムは、もちろんエルヴィスですが、ジャケットは、先に書いたものではなく、
「フロリダ万才」のスティール写真が使用されたものでした。
後に紙ジャケCDでリリースされたものと、エルヴィスの写真が入れ替わったものです。
もっともアルバムではなくてEP盤でしたが。「ポーラー・エクスプレス」という映画、
やはり、星印の国民的ビング・クロスビー版<ホワイト・クリスマス>が使用されています。
残念ながらエルヴィスの歌声はなし。
「フォレスト・ガンプ」「キャスト・アウェイ
」で、エルヴィスたっぷり使った監督ロバート・ゼキメス、主演トム・ハンクスのコンビの映画なので、今回もエルヴィス登場を期待したものの、今回はなし。
しかし、映画はクリスマスソングに乗って、大事なことを語ります。
「どこに行くかが問題じゃない。乗ることが大事なんだ。」
と心刻む印象的なセリフ。
あのエルヴィスの大傑作<ミステリー・トレイン>のようにポーラー・エクスプレス(北極特急号)が、雪の中を驀進するのです。
彼方に向かって走り去った<ミステリー・トレイン>は、ゴーストから彼女を奪い返したエルヴィスの奇声と共に凱旋してきますが、行き先も分からずに走るポーラー・エクスプレスの場合は、どうなるのだろう・・・・?
考える脳にいつしか勝手に鳴り響く<ミステリー・トレイン>は絶好調なのです。
サンタが存在すると信じる勇気、目に見えないものを信じる勇気、
それはなにより、自分を信じる勇気。
自分を信じるよりは、まだ他人を信じるほうが簡単かも知れない。
自分を信じることは、ほとんど人にとって、とてもハードなこと。
でも自分を信じる不安、アドレナリンの氾濫を超えて、信じたときに、すでに心に幸福は灯るのでしょう。
クリスマスは勇気と出会う日。
エルヴィスの歌声はないものの、「ポーラー・エクスプレス」のクライマックスには、ボクの頭のなかの<ミステリー・トレイン>は彼方に去り、代わりにエルヴィスの歌う<アイ・ビリーヴ>が大音量で響いていました。
劇場を出た後も・・・そしていまも、いまも。
心をもっと震わせてもらいたくて、もっともっと過激にヴィブラートしてくれとお願いしたい気分。
ゴスペルであろうが、ブルースであろうが、正直言ってどうでもいい。
聴く心はジャンルには、もともとなくて、ひとつしかないのだから、
背中押してくれる曲は、ボクには全部ロックンロールなのです。
<アイ・ビリーヴ>なんて、不信と格闘する身には、「しみるよな、ロックンロールが。。」の世界なのです。
エルヴィスは、神への敬虔な気持ちからクリスマス・アルバムの制作に乗り気でなかったと聞きます。
しかし、やると決めたら、迷いを振り切って全編エルヴィス色のロックな雪吹雪。
降り続ける歌声に漂う爽快感こそ、若いエルヴィスの身上。
最初のアルバムには4曲のスピリチュアルな楽曲が挿入されていました。
エルヴィスが真摯に歌った<アイ・ビリーヴ>はそのひとつで入魂の1曲。
堂々たるパフォーマンスは若くして貫禄。
・・・それにしても若い、ピカピカしてますよね。
声の張り、かすれ具合のかすれたところさえがキラキラ、ピカピカして、
ツリーのデコレーションさえ恥ずかしくなるような光ぶり。
一生懸命に真摯に神の心にひざまづくような真面目が切なくなるほどかわいい。
にもかかわらずロックな仕上がりのアルバムには俗に言う良識派から非難の雨嵐。
エルヴィスのロックな吹雪との格闘は、クリスマスを熱くしたでしょうね。
でも、エルヴィスはそんなことを望んでいたはずもなく、きっと寂しい思いをしたはず。
ティム・バートン監督の名作「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の刹那さが重なる。
そんなときこそ<アイ・ビリーヴ>
・・・エルヴィスは信じます。神を、そしてなにより自分を。
戦う者を笑う人が世の中にはたくさんいるけれど、
エルヴィスのクリスマス・アルバムからは、戦いの鐘が聴こえます。
クリスマス、過ごし方は人さまざまにしても、イブと朝とでワンセット。
暗闇に願い、朝の陽射しが氷の中から希望を見出す。
守るべき者のために、心という名の命を刻んで砕く者が、夜と朝の間に、人を信じる力を作って捧げる。
サンタクロースは寂しいか、サンタクロースは傷ついているか。
子供のためであれ、恋人や妻のためであれ、
”君のため”なら氷雪も走る。サンタはサンタであるために戦う。
髭で隠した素顔は決して見せないけれど、自分を信じて行動しているのだから
きっと心は白銀に似て晴れやかと信じたい。
もし、エルヴィスが生きていたら、立派な体格のサンタになっていただろうな。
どんなふうに<アイ・ビリーヴ>を歌うのだろうか。楽しいな。
「若いときは、さんざん叩かれたよ。」とつぶやきながら、遺したものより、もっと謙虚に、さらに新しく歌うのだろうなと想像する。
エルヴィスはいつだって新しいからね。
エルヴィスが遺したクリスマス・ソングの数々にあって、この曲こそが、「死ぬまでに聴きたい100曲」に、
ふさわしいかどうか異論もあるだろう。
しかし「キングはキリストだ」と言い放ったキング、半世紀の歌声の偉大。
自分を、また他人を信じることの険しさを覚悟の上で、
”降る雨のひとしずくに やがて花が咲くことを信じます”
ヒットチャートを独占した数々のロカバラードとは一線画して、見えないものを、聴こえないものを、「私は信じます」と、歌いきる「キング」に頭を垂れて、クリスマスは信じることから、始めたいと思うのです。
背中を押してくれる、エルヴィスを聴きながら。