I WANT YOU,
I NEED YOU, I LOVE YOU
アイ・ウォント・ユー、アイ・二一ド・ユー、アイ・ラヴ・ユー
エルヴィスを聴き続けていると、いつの間にか迷路に入り込んだように、エルヴィスが見えなくなってきて、何を聴けばいいのか分からなくなる。
そんな少しばかりの憂鬱を突破し、気分を洗い直すのはサンの作品からゴールデンレコード第1集に至るまでのパフォーマンスだ。
人間もこんな風に初心に戻れたらいいのにと思わせる魔法のような数々、<I WANT YOU.I NEED YOU.I
LOVE YOU>はそのひとつだ。
人間の体温が強烈なビートを刻みながら伝わってくる傑作中の傑作。サンで録音するには若すぎた。除隊後では、こんな風なハートでは歌えなかった。キャリアの中でもっとも最適と思えるタイミングで疾走する恋心の炸裂。セカンド・ラブの香り。
Hold me close, hold me tight
Make me thrill with delight
Let me know where I stand from start
l want you, I need you, I Iove you
With all my heart
And everytime that you're near
All my cares disappear
Darling you're all that l'm living for
I want you. I need you, I Iove you
More And More
* I thought I could live without romance
Until you came to me
But now I know that I will go on
Loving you eternally
Won't you please be my own Never leave me alone
'Cause I die everytime we're apart
l want you, I need you, I Iove you
With all heart
*Repeat
僕を強く抱きしめて
喜びで震え上がらせて
初めから君の気持が知りたいよ
君がほしい、必要なんだ、愛してる
この心の底から
君が近くにいると
心配事など消えてしまう
ダーリン、君は僕の全て
君がほしい、必要なんだ、愛してる
気持ちはどんどん強くなる
*恋などしなくても生きていけると思った
君が目の前に現われるまで
でもこれからは君を永遠に愛し続ける
僕のものになってくれ
ひとりぼっちにしないで
君に会えないと生きた心地がしないから
I want you.I need you,I love you
この心の底から
*くり返し
以前、このコーナーで、エルヴィスの声は楽器だと言ったが、同じ意味のことをビデオ『ELVIS
PRESLEY』でスコティ・ムーアも語っているのを発見して嬉しい。
ここでのエルヴィスは自分が恋心に飲み込まれ溶けてしまったかのように、声が楽器になったかのように---熱い、切ない。
衝撃のRCAデビュー・シングル<ハートブレイク・ホテル>のB面<ただひとりの男>と併せてロカバラードの見本として、長く継承されるスタイルとなった。音楽を愛し、人生を愛するみずみずしさが、どうしょうもなく空間の隅々に行き渡る。
この曲から発散される熱さ、切なさは当時に於ける過去と新時代へのラブコールだったような気がする。
この曲がセカンド・シングルのA面としてリリースされたことは、バラードへの愛情とB面ながらも<ただひとりの男>の評価が高かったことをエルヴィスが自信をもって感じていたことが理由なのだろう。
1956年4月14日、ナッシュヴィルRCAスタジオ。エルヴィスのスタジオ入りを待ちながらモーリス・マイセルズ、アイアラ・コズロフのコンビがスタジオ内で書き上げた作品。
スコティ・ムーア(g)、ビル・ブラック(b)、D・J・フォンタナ(d)にチェット・アトキンスがアコースティックギターを担当。さらにピアノをマーヴィン・ヒューズ、コーラスにゴードン・ストーカーとベン&ブラックのスピア兄弟が加わった陣容でレコーディングされた熱情のロカ・バラードは、出来上がったばかりの作品を何の前触れもなく、即興に近い形で繰り返し録音された。
熱いのも当たり前、ラブ・ソングの向こうに「プロな男たちの時間」を感じる名曲なのだ。エルヴィスの熱いリードに触発されながら非凡な才能が注がれた結果の傑作は、TOP
100で3位、カントリーチャートで1位、R&Bチャートでも3位をゲットした。
人の世には、交わせども届かない想い、触れども伝わりきらぬ体温がある。
身と心を根無し草のように感じるもどかしさの恍惚と痛みをエルヴィスほどに表現できる者はいない。それは努力でも天才でもなく、ただ魂の歌。
声に、声と声の間の一瞬の静寂に、楽器と楽器の隙間に、エルヴィスの想いが駆けているだけだ。それは聴く者が言葉にできない想い、時に感知することさえ困難な想いであったりするのだが、エルヴィスの歌声はそこに柔らかく侵入し、いずれ掴むようにまさぐる。
大抵の場合、聴く者はただ震えるしかないのだが。------聴く者は時に震えながらも「自分」がそこにいることを意識し、意識は自分を愛するほうへ向かう。
--------身と心におさまらなかった自分の分身たちに向けられたエルヴィス・プレスリーの愛。それが歌になる。I WANT
YOU, I NEED YOU, I LOVE YOU 。
切ないね、痛いね、だけど熱いよね。