CRYING
IN THE CHAPEL
クライング・イン・ザ・チャペル
ELVIS 30#1 HITS(エルヴィス・サーティ・ナンバーワン・ヒッツ)を聴いているとサビ抜きの寿司、香辛料不足のカレーのような感じは拭えない。
妙にあっさりしているなと思ってしまう。
表面をなぞるだけにしても100曲でも語れないエルヴィス・プレスリーの音楽をわずか30曲で語ろうというのだから無理もない。
一方かって2枚組でリリースされていた『50 Worldwide Gold Award Hits』に収録されていた曲はこの内容だ(赤文字はELVIS
30#1 HITS収録曲)
。
【DISK1】1.Heartbreak
Hotel /2. I Was The One /3. I Want You, I Need You,
I Love You /4. Hound Dog /5.
Don't Be Cruel /6. Any Way You Want Me /7.
Love Me Tender /8. Playing For Keeps /9.
Too Much /10. All Shook Up
/11. That's When Your Heartaches Begin /12. I Beg Of You /13.
Loving You /14. Teddy Bear, (Let Me Be Your)
/15. Jailhouse
Rock /16. Treat Me Nice /17.
Don't /18. Hard Headed Woman /19.
Wear My Ring Around Your Neck /20. Big Hunk
O' Love, A /21. Ain't That Loving You Baby /22.
Fool Such As I, (Now And Then There's) A /23. I Got
Stung /24. Interviews - (from "Elvis Sails") /25.
Crying In The Chapel /26. Viva Las Vegas/
【DISK2】1.Stuck on You/2.
Mess Of Blues/3.It's Now or Never/4.I
Gotta Know /5..Are You Lonesome Tonight
/6.Wooden Heart /7.Surrender/8.I
Feel So Bad /9...Little Sister /10.Can't
Help Falling In Love
/11.Rock-A-Hula Baby /12.Good
Luck Charm /13.Anything That's Part
Of You /14.She's Not You /15..Where
Do You Come From /16.Return To Sender /17.One
Broken Heart For Sale /18.Bossa Nova Baby /19.(You're
The)Devil in Disguise/20.Kissin' Cousins /21.If I Can
Dream /22..Don't Cry Daddy/23..In The
Ghetto /24..Kentucky Rain /25.Suspicious
Minds
これでどうだ?まだまだ不足すぎる。
この程度ではどうにもならないものの、これならエルヴィスの実態に迫ることがかなりできる。
しかし今回の『ELVIS 30#1 HITS』は名前は知っているが、
まだ聴いたことがないという方に入門書としてうってつけである。
それにしてもエルヴィスはこんなものじゃない。
いまで言うならメジャー・デビュー前のいわゆるインディーズのような作品がゴソッと省かれているし、エルヴィスの魂の歌として、またロックンロールのルーツとして、現在大きく見直されているゴスペルもない。
スピリチュアルなものとしてはわずかに<クライング・イン・ザ・チャペル>が収録されているだけだ。
つまりエルヴィス・プレスリーは、ギネス認定されているヒット曲保持者でありながら、ヒット曲で語れるようなアーティストではないということを意味する。
リバプールサウンドが全盛の1965年。
ビートルズの<涙の乗車券>、ローリング・ストーンズの<サティスファクション>連続ナンバーワンをかっとばしたスプリームス<ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ>そして歴史に残る名作、ボブ・ディランの<ライク・ア・ローリングストーンズ>、等永遠の名曲が登場した年だ。
静かな<クライング・イン・ザ・チャペル>はサントラを除くと<悲しき悪魔>以来の勢いでヒットチャートを駆けのぼった。
リリースは65年4月だが、レコーディングは60年10月30日、31日にかけて行われた。
61年2月の大ヒット曲<サレンダー>を収録するためのセッションといって過言のないものだが、エルヴィスは<主の御手を我が胸に/HIS
HAND IN MINE>など大好きなゴスペルを歌いまくってゴスペル・セッションと化してしまった。
除隊後、新たな局面への不安と野心がみなぎった緊張の再活動へ自分を投げ込んだ様子が伺える。
この時のゴスペルは主に『心のふるさと/HIS HAND IN MINE』に収録された。
シングル<クライング・イン・ザ・チャペル>裏面の<天の主を信じて>は収録されている『心のふるさと』からのカット。こちらもうっとりするほど柔らかなエルヴィスが聴ける。
まだロックンロールが一過性のものであるという印象が巷にも業界にもあったにしても、エルヴィスもそれに留まる気持ちはなかった。
カンツォーネ<イッツ・ナウ・オア・ネヴァー>での驚くようなパフォーマンスに続いて、<クライング・イン・ザ・チャペル>はエルヴィス・プレスリーがどんなアーティストであるのか、そのロックンローラーとしての激しいパフォーマンスの向こうにある等身大の心情をさらけだしたセッションから生まれた。
チャペルで祈る私の姿をあなたは見ましたね
そこで流した私の涙は喜びの涙だったのです
私は満足の意味を知っています
今私は主にあって幸せです
そこは素朴で簡素なチャペルです
謙虚な人々がお祈りにやってきます
私は日々をしっかり生きぬくために
主がもっと私を強めて下さるよう祈ります
私はひたすら探し求めつづけました
けれどもここのほかには心の平和を得られる場所は
世界のどこにもなかったのです
今私はこのチャペルで幸福です
ここでは人々の心は一つです
私たちはこのチャペルに集い
ただ主の誉め歌を歌い主を讃えるのです
あなたはひたすら探し求めつづけるでしょう
けれども、ここのほかには心の平和を得られる場所は
世界のどこにも見つからないはずです
あなたの悩みをチャペルに持っていらっしゃい
そしてひざまづいて祈って下さい
するとあなたの重荷は軽くなり
きっと新しい道が見つかるでしょう
エルヴィス得意のイントロなしのスタート、ピアノとコーラスが追いかけるような展開は歌一本、歌だけで音楽の頂点にたったエルヴィスならではのティストと心意気が伺える。
ひとりの人間の人生の一場面を歌ったものだが、イントロなしのスタートによって、そこに至るまでのドラマが匂いたつ短編小説の香りのするような曲。孤独な青年をそれ以上に孤独な表現者が描いた世界を呼吸とともに聴かせる。
”Get down on your knees and pray”神の前にはちっぽけな存在でしかなく、”
l'll grow stronger ”神なしでは強くなれないことを心こめて歌っている。
ナマなエルヴィスが敬虔な気持ちをより一層身を正して立っているので、信仰心のないピエロも思わず教会の窓からのぞき見してしまう。愛ピエロに一歩近付く楽曲だ。
エルヴィス67年リリースの<青い涙>の作者グレン・グレンの親アーティ・グレンが1953年に息子のために作った楽曲。
すでに多くのミュージシャンが取り組んでいたので<涙のチャペル>のタイトルで国内でも知られるが、後発ながらエルヴィス盤はその最高峰といえる。”You
saw me ””Get
down "の声が離れない。
リリースされた65年はエルヴィス映画『フロリダ万才』からの<スイムでいこう!>がヒットしていたものの、活動は映画とサウンドトラックに専念、以外は過去リリースされたアルバムからシングルカットしたものしかリリースされていなかった時期だけに未発表のものは感動もインパクト。
イギリスではチャート・トップ、突如日本でもヒットチャート上位にランキングされた。
ジャケットの写真は『フロリダ万才』のイエローのジャケットを着込んだスチールをモノトーンにして使用された。
You saw me crying in the chapel
The tears I shed were tears of 'oy
l know the meaning of contentment
Now l'm happy with the load
Just a plain and simple chapel
Where humble people go to pray
l pray the Lord that l'll grow stronger
As I Iive from day to day
l've searched (I've searched)
And l've searched (I've searched)
But couldn'tfind No way on earth to gain peace of mind
Now I'm happy in the chapel
Where people are of one accord (one accord)
Yes, we gather in the chapel
Just to sing and praise the Load
You'll search (You'll search)
And you'll search (You'll search)
But you'll never find
No way an earth to gain peace of mind
Take your troubles to the chapel
Get down on your knees and pray (knees and pray)
Then your burdens will be lighter
And you'll surely find the way (And you'll surely find the way)
エルヴィスがどんなアーティストだったのか、
そしてロックンロールとは何かを知るためにエルヴィスのゴスペルとカントリーに耳を傾けなければならない。
そして再びロックンロール、できればサンから世に出されたロカビリーに耳を傾ければ、分かるはずだ。ロックンロールがゴスペルあるいはブルースとカントリーのミックスだったというようなことではない。
また意味もなくツッぱって”ロックンロール!”という代物がロックンロールのかけらもないことを知るだろう。
なぜエルヴィスがキング・オブ・ロックンロールと呼ばれるか。最も大事なことだが、いつの時代ももそうだが、先駆者としていかに勇気が必要だったか。そして再びゴスペルに戻れば勇気の本質が何であったのかも、それが見えればミステリアスなエルヴィスの世界の扉を開くことなる。
そして見ることになる---エルヴィスの涙を。それこそがロックンロールの本質であり、ロックンロールが必要とされる理由なのだ。
<クライング・イン・ザ・チャペル>のヒットを受けて、65年の母の日、エルヴィスのゴスペル・アルバム『心のふるさと』が全米ネットワークでオン・エアーされた。
1956年、アンチ・エルヴィス・キャンペーンの一環として「君は母親を虐待しているらしいが?」という馬鹿げた質問をされた日から9年目の出来事だ。
母グラディスが生きていたならどんなに喜んだろう。