A BIG HUNK O’ LOVE/恋の大穴
切なくなるほどカッコいい女がいる。抱きしめたいとは思わない。
ただそこにいればいい。追うとなにもかもが野暮になる。
でも、そのままというわけにも行かなくなったとき、風景は動き出す。
ピアノが逃げる。Hey baby エルヴィスが追う。
恋のかけひきの幕が切って落とされる。エルヴィスは追う、
愛しのベイビーは逃げる、追って追って、かくれんぼ。
激情がブレイクする。そして最後に愛しのベイビーはエルヴィスの腕の中。
循環するアドレナリンの激流。
同じことが繰り返し全身を駆け巡る。
叩きのめされそうな時にすらエルヴィスは明るさを失わない。
タフで透明で突き抜けている声。
エルヴィスは転覆しそうなボートの上で立ち上がってはしゃぐ。
危険を覚悟して突き進む。永遠の若さと愚かさに満ちている。
ピアノとギターが絡むように炸裂する。
エルヴィスはそれ以上に自分の声を楽器のように扱う。
オレの声。唯一の声、芸術する声。
”これがオレだ!””オレの愛だ!”エルヴィスは声を支配する。
支配できる喜びと支配しなければならない悲しみの交叉するところから爆発する声の音楽。
生きるために幼くしてコントロールすることを覚えてしまった男の感情を爆発させた音楽。
太古からの感情に向きって自分を開放する快感、抑圧された不安が生きる力に昇華して発射される瞬間の”Hey baby ”ロックンロール。誰もこんなふうには歌えない。
意味のない言葉で世界を変える、それがロックンロールだ。
電気式ギターがロックの中心の時代に声がロックそのものだった素敵が響くだろうか?
独善的で無邪気な確信”a-will do, that,s right ”自分を信じる力が怒りを砕き不安を挑戦に変換して突進する素敵が聴こえるだろうか。
「恋の大穴」は意志が精霊となってマシンガンのように飛んでいく素敵に満ちている。 “No, no. no. no. no. no, no. baby.”
愛するベイビーに向かって何が起こっているかを率直に伝える勇気がこの上なく元気だ。
丁寧にデジタル処理がほどこされたCDアルバムにシングルレコードの真髄が30個集められた。
ひとつひとつのどの曲のどの声にも自分を肯定していることが感じとれるはずだ。
”Hey baby ”「世界に自分はたったひとりだよ、自分のままに、自分のオリジナリティを生きろ」多くを望むな、すべてを望め。——-”a-will do, that,s right ”——-エルヴィス・プレスリーがいる。
ヘイ、ベイビー、
俺は多くを望んでるわけじゃない
No,no,no,no,no,no,baby、
多くを望んでるわけじゃない
でっかい、でっかい、でっかい恋の切り身が欲しいだけ
けちけちするなよ俺は飢え死に寸前さ
キスの一つや二ついいだろ
減るものでもなかろうに
そうさベイビー、多くを望んでるわけじゃない
でっかい、でっかい、でっかい恋の切り身が欲しいだけ
おまえは生まれつきのいい女
かわいくてたまらない
俺は欲張りなんかじゃないぜ、
おまえのすべてが欲しいのさ
そうさベイビー、多くを望んでるわけじゃない
でっかい、でっかい、でっかい恋の切り身が欲しいだけ
ポケットの中にはウィッシュ・ボーン(お守り)
手首にゃおまもりのうさぎの足までつけている
でもどんなおまじないつけたって比べものにもならないぜ
おまえに甘いキスさえできれば
そうさベイビー、多くを望んでるわけじゃない
でっかい、でっかい、でっかい恋の切り身が欲しいだけ
*でっかい、でっかい、でっかい恋の切り身が欲しいだけ・
2回くり返してフェード・アウト
1958年、当時すでに兵役に就いていた休暇中の6 月10日に録音、
1年寝かせて1959年7月12日にリリース、兵役中の1959年8月に全米ヒットチャート第1位になった。グラミー賞ノミネート。エルヴィス屈指の名作のひとつ。
恋の切り身の隣にありのままの自分を肯定した自分がいる。
『ワークス・オブ・エルヴィス』では次のように紹介されています。
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