映画『ELVIS/エルヴィス』では、1950年代のメンフィスのビールストリートの様子が描かれています。この場面を見るだけでも映画『ELVIS/エルヴィス』を鑑賞する価値があります。
併せて、エルヴィスが黒人の熱気でむせかえるテントの教会に忍び込み、狂ったように歌い踊るシーンは鳥肌です。さらにエルヴィスのコンパスになる、アーサー・クルーダップを思わせるブルースマンの<ザッツ・オールライト>のパフォーマンスからは卑猥さがこぼれおちるようでドッキリです。
これらのシーンには、エルヴィス・プレスリーとロックンロールがの真実があります。
映画『ELVIS/エルヴィス』を鑑賞する<いまを生きるヒト>には、本で知るしかない「必然」が映像で届けられるのです。実にありがたいことです。
エルヴィスのロックンロールがどのようにして生まれて育っていったのか、エルヴィスにしかわからないプロセスがありました、
『アーサー・クルーダップをなぜ知っているんだ』と問われる場面がありますが、エルヴィスの世界には、ビー玉のように目の前に転がっていたのです。
わが愛のちから/Power of My Love
映画『ELVIS/エルヴィス』では、テントの教会で狂ったように踊る人々の輪から逃げ出そうとするエルヴィス少年を神父が「動くな!聖霊が降りてきている!!」と制止します。
のちの<エルヴィス降臨>を連想させる重要なシーンは、ど迫力で描かれています。
エルヴィス・プレスリーはクリスマス特番1968年<TVスペシャル>でハリウッドの別れを告げて、歌の世界にカムバックしています。観客を前にして立った姿は感動的で、放送されると、メディアはこぞって「これぞ、エルヴィス!」「これぞ、ロックンロール!」と称賛の声をあげました。
全米視聴率70.2%、驚異のクリスマス特番
映画『ELVIS/エルヴィス』でも、全米視聴率70.2%を叩き出したELVIS: NBC-TV Specialは、大きな山場として描かれています。
その日1968年12月3日と、生まれ故郷から夜逃げして移り住んだメンフィスを結びます。
そしてTV番組プロデユーサー、スティーブ・バインダーがエルヴィスと組んで、本来のマネジャー、トム・パーカー大佐から本物のエルヴィスを奪還する様子が描かれています。
クリスマスに自殺の歌<ハートブレイクホテル>を歌う!何事だとパーカー大佐もシンガーミシンも騒然とします。
しかし事実は、TVスペシャル以前にエルヴィスにはエルヴィスに帰る準備できていました。
誰がなんと言っても、エルヴィスはR&Bとカントリーで育った子でした。
家路を急ぐ子どものように
家路を急ぐ子どものように、その象徴的な曲が<わが愛のちから/Power of My Love>です。
特に家庭向け商品を販売したいシンガーミシン提供番組に「売春宿」を登場させるのは禁じ手です。エルヴィスとプロデユーサー、スティーブ・バインダーは平気でやってのけます。
「弁護士を呼ぶ」とシンガーミシンの担当者の怒りは当然です。
しかし、怒りの対象となった猥褻さもエルヴィスが歩んだ世界にはビー玉や日光写真でした。
エルヴィスのライブではエルヴィスめがけて、ファンが下着を投げ込むのは日常です。
その開放感もエルヴィスの世界から発信されたものでした。
国が隠しておきたいことが、エルヴィスのパフォーマンスを通じて無言の発露になる。
「エルヴィスは危険」のレッテルが貼られます。
金の卵を手放すまいとするトム・パーカー大佐を詐欺師に走らせます。
<好青年エルヴィス>のイメージ作りに懸命なトム・パーカー大佐。
非言語コミュニケーションにコミュニケーションの真実があることを体感で知っているエルヴィス。
生きる糧である音楽を体感で知っているエルヴィス。
本当の自分を体感したくて、解放を求める平均的な女の子の欲望。
映画『ELVIS/エルヴィス』は古くて新しい未解決のテーマを私たちに突きつけて、あとは自分で始末しろと迫ります。
エルヴィスには特番前に準備ができていた
<わが愛のちから/Power of My Love>はサウンドトラック用の作品を作っていたチームが提供した作品で、サウンドトラックから遠く離れたエルヴィス・オリジナルの本格的なR&Bでした。
禅の教科書「十牛図」のように、エルヴィスは逃げ出した牛の背に乗って、家にたどり着いたのです。
エルヴィスにとって、血反吐を吐くように白熱したライブ・パフォーマンスも、実際のところ、月を見てうたた寝してしまうようなパフォーマンスでしかなかったのです。エルヴィスにとっては、すぐに吸収できてしまい、すべてを支配下に置くことができたのです。
ラスベガス、ヒルトンのこけら落としのステージでさえ、初日は緊張しても、すぐに支配下になってしまう。ハワイからの人類初の衛星中継も<スチーム・ローラー・ブルース/Steamroller Blues>あたりになるとすべてを支配している。そうエルヴィス・プレスリーは、自らの熱気で地面を蒸気で慣らすスチーム・ローラー(Steamroller Baby)なのです。
エルヴィス、それはスチーム・ローラー
エルヴィスは殺したのは誰だ。
トム・パーカー大佐は言います。「俺じゃない、エルヴィスを殺したのはファンへの愛だ。」
スチームローラーのような愛が、エルヴィスを轢き殺した?
エルヴィスにとってファンへの愛も日常にあるビー玉だったのでは。
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