こんな気持ちがわかるかい/How do you think I feel?:1956

エルヴィスがいた。

エルヴィス・プレスリーの声って、ロック・バラード・カントリー、何を歌っても、どうしてこんなに重くて他の白人ミューシシャンと違うのか?
たとえば海外TVドラマ、洋画から聞こえてくるリッキー・ネルソンやエディ・コクラン、ニール・セダカら全く違う疑問を持ったことがありました。その違和感はアメリカ人ならみんな知っていて、それがそれが最大の魅力だったのだろうと、気づいたのは随分後になってからでした。

<こんな気持ちがわかるかい/How do you think I feel?>の録音はハリウッドラジオレコーダーズで行われ、エルヴィス・プレスリーのセカンドアルバム『エルヴィス』に収録、同アルバムは56 .12 .8 から57.1 .5 まで5週連続でアルバムチャート1 位になっています。

<こんな気持ちがわかるかい>ウェイン・P ・ウォーカーとカントリーチャートに100曲ほど送り込んだウェッブ・ピアスが共作したカントリー・チューンでジミー・ロジャース(30年代初頭)ハンク・スノウ(50年代初頭)、スコティ・ムーアらがカヴァー、エルヴィスはスコティ・ムーアの選曲でカヴァーしたようです。

こんな気持ちがわかるかい/How do you think I feel?

How do you think I feel?
Well, I know your love’s not real
The girl I’m mad about is just a gadabout

How do you think I feel?

How do you think we stand?
Well, I know you’ve made your plan

But you’ve included three
And that’s too much for me

How do you think I feel?
I won’t be true again,
I know that I can’t win
So why should I pretend
That you still love me?

How do you think I feel?
Well, I know your love’s not real
The girl I’m mad about is just a gadabout
How do you think I feel?

How do you think I feel?
Well, I know your love’s not real
The girl I’m mad about is just a gadabout
How do you think I feel?

How do you think we stand?
Well, I know you’ve made your plan
Another’s pretty face
Has put me out of place

How do you think I feel?
I won’t be true again,
I know that I can’t win
So why should I pretend
That you still love me?

How do you think I feel?
Well, I know your love’s not real
But you’ve included three
And that’s too much for me
How do you think I feel?

僕の気持ち、どう思ってるの?
分ってるよ、君は本気じゃないって
僕が夢中の女の娘が 遊び人て・・・
僕の気持ち、どう思ってるの?

僕たちの関係って、どうなのよ?
分ってるよ、君は計画を立てたって
でも、それが3人って、多すぎるだろ
僕の気持ち、どう思ってるの?

もう、よりを戻さないよ、
勝てっこないからね
フリすることもないよ、
愛されてるってね
僕の気持ち、どう思ってるの?

分ってるよ、君は本気じゃないって
僕が夢中の娘は 遊び人て・・・
僕の気持ち、どう思ってるの?

僕の気持ち、どう思ってるの?
分ってるよ、君は本気じゃないって
僕が夢中の娘は 遊び人て・・・
僕の気持ち、どう思ってるの?

僕たちの関係って、どうなのよ?
分ってるよ、君は計画を立てたって
別の可愛い娘に、僕は目移りした
僕の気持ち、どう思ってるの?

もう、よりを戻さないよ、
勝てっこないからね
フリすることもないよ、
愛されてるってね
僕の気持ち、どう思ってるの?

こんな気持ちがわかるかい?
分ってるよ、君は本気じゃないって
でも、3人て、多すぎないかい
こんな気持ちがわかるかい?

エルヴィス・プレスリーとは、何者だったのか。

日本でどのようにエルヴィス・プレスリーが伝わったか、日本のエルヴィス・プレスリー事情を探ります。なにしろ古いことなので、正確にはわからない。湯川れい子さんはかなり早くから認知して虜になったのは有名だが、当時多感だった彼女が自発的に情報を集めたことは知られています。でも本当のところ、現在と環境が違うことを前提に、アクティブに活動したことがどこまで理解されているのだろう。

日本でもテレビは全国的に普及が進む頃、アメリカでは90%を超えていて、大統領選もテレビ討論会が行われるご時世だ、ケネディ大統領は人種差別を解決するために弟ロバート・ケネディと力を合わせて、公民権法を成立させていた。そこにイギリスからビートルズが登場した。エルヴィスが超絶大ブレイクしたアイゼンハワー大統領の時代と状況はまるで変わっていた。

エルヴィス登場期。当時ニュース映像は映画館のニュースで見るのが当たり前だった。動いているエルヴィスを見たヒトは映画館で見たニュースに登場したエルヴィスだったでしょう。だからちゃんと見ようとしたら、劇映画しかなかったが、「色モノ」を見ようとしたヒトがどれだけいたか、かなり疑問です。色モノとは、とは寄席でいう落語や講談以外の芸のこと、主に漫才、漫談、手品、大神楽や曲芸など、つまり主力番組以外のものをさします。

日本でエルヴィスというとロカビリーで熱狂した『日劇ウェスタンカーニバル』が引き合いにだされるますが、その代表が54年12月にコロムビアレコードからデビューした小坂一也氏(小坂一也とワゴンマスターズ)ですが、彼はC&Wのシンガーでその延長戦に<ハートブレイク・ホテル>があり、エルヴィス節とはほど遠い自分のスタイルで紹介しただけでした。

その後、エルヴィスの物真似は、1958年2月8日に開演した『日劇ウェスタンカーニバル』まで待たなくてはなりませんでした。しかしこのこの時期エルヴィスは徴兵されています。すでにアメリカと2年のタイムラグがあるのです。歌っているパフォーマーたちは1930年代生まれです。この世代のヒトはエルヴィスを日本ではプレスリーと呼びます。エルヴィスと呼ぶ世代は『エルヴィス・オン・ステージ』でエルヴィスを知った世代です、

「色モノ」と受け取る傾向・感覚は日本だけでなく、アメリカも同じだったようです。フランク・シナトラは「あんなチンピラすぐに終わる」といい、パラマウント映画の大物映画プロデューサー、ハル・ウオリスは契約はしたけど、どんな映画を作ればいいのかわからず20世紀フォクスに貸し出し、フォクスは西部劇『優しく愛して/LoveMeTender』に起用します。やはりウェスタンが下地の作品でした。

宇宙船エルヴィス号

つまりエルヴィスが何者だったのか。知っていたのはファンだけだったのです。
エルヴィスの宇宙規模的成功をすでに見たビートルズのマネジャーだったブライアン・エプスタインとハンク・スノウの限界しか見ていなかった強欲マネジャー、トム・パーカーの先見性の違いは明らかです。その違いがエルヴィスのキャリアを著しく傷つけました。

結局、なにもかも先駆者であるエルヴィスは明日はどうなるかわからず、すべてをひとりで学ぶしかなかったのです。ファンを宇宙船エルヴィス号に搭乗させて限りなく遠くへ飛ぶようなモノです。しかしどこをめざしていいのか、母なきあとのエルヴィスには地図さえなかった。

68年のカムバックスペシャルは、NBCのプロデューサーのスティーブ・バインダーが、宇宙船エルヴィス号は、ラスベガスではなく、メンフィスのビールストリートから飛び立つようにしょうと提案したことで、俄然、エルヴィスはやる気になった。

世界ははじめて、『やさしく愛して/LoveMeTender』公開の2年後に、「危険」というレッテルを貼られて陸軍に追いやられたひとりのアーティストがその才能で宇宙の涯てまで行ったことを我々はメン・イン・ブラックで知ったのです。

知ったことと、知っていないことの違いはとてもなく大きい。こうしてエルヴィスによって、ロックの旅ははじまったのです。

エルヴィスを演じるのは名優ハーヴェイ・カイテル。謎めいているがたまらなく愛らしい、新しいエルヴィス像をつくりだしている。「人生はやり直せる…」そんなエルヴィスのメッセージが見るものの胸を熱くする、愛と希望の感動作『グレイスランド』は、『エルヴィス(2022)』に通じている点が見逃せない。

ロックンロールは複雑系/complexity

複雑系(性)とは、相互に関連する複数の要因が合わさって全体としてなんらかの性質(あるいはそういった性質から導かれる振る舞い)を見せる系(性)であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなものをいいます。

ロックという音楽は、シンプルに表現するなら黒人のR&B白人化です。その処方箋はエルヴィスの軌跡をなぞってR&BとC&Wの掛け合わせというのが一般的な表現です。しかし1954年のビル・ヘイリーと彼のコメッツによる<ロック・アラウンド・ザ・クロック>と1954年のエルヴィスの<ザッツ・オールライト>とはスタジオの規模の違いからサウンド的にもずいぶん違います。

なにより<ロック・アラウンド・ザ・クロック>と<ザッツ・オールライト>に至った歴史が違います。<ロック・アラウンド・ザ・クロック>は聞けばわかるようにダンス音楽であり、当初のタイトルも<ダンス・アラウンド・ザ・クロック>だったこともあり、ジャズ感が抜けきっていないのも特徴です。

一方、<ザッツ・オールライト>は、エルヴィスの成功によってロックンロールの父 (The Father of Rock and Roll)」という謳い文句がついたアーサークルーダップの<ザッツ・オールライト(1948)>を、エルヴィスは忠実にカヴァーしながら白人らしいアップビートな曲にしたもので、歌っているのが黒人か白人かわからないというものです。B面の<ブルームーン・オブ・ケンタッキー>は、行き詰まりの状態から誕生したもので両面ともエルヴィスでなければ歌えない唯一無二の出来栄えになっていました。これこそがエルヴィス・プレスリーの真髄です。

<ザッツ・オール・ライト>のカップリング曲を検討するなかで、ベースのビル・ブラックを介してビル・モンローが1947年にリリースした<ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー>にたどり着いたのは1954年7月のことだった。「ブルーグラス・ワルツ」と称されるこの曲は、ブルーグラスであり、C&Wに似ていますが、アメリカのアパラチア南部に入植したスコッチ・アイリッシュ(アイルランド)の伝承音楽をベースにしてビル・モンローが作り上げたものです。貧しい白人労働者のフォーク・ソングの源流的要素を残すカントリーとは一線を画します。

スコティ・ムーアは語ります。「ビルが<ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー>を思いついたんだ。俺たちはちょっと休憩を入れて、ビルがベースを弾きながら<ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー>を歌ったんだ、ビル・モンローの高いファルセットの声を真似をしながらね。エルヴィスがこれに加わり、一緒に歌い始めて」・・・・スコティ・ムーア自身も一緒に歌ったのだという。エルヴィス、ムーア、ブラックの3人は、サン・レコードのオーナーのサム・フィリップスに激励されながら、モンローの3/4拍子のゆっくりしたワルツを、アップビートな、ブルース風の、4/4拍子の曲に作り替えた。ロックンロール誕生の瞬間だった。サム・フィリップスは、「こりゃいいぞ、いいぞ。これでポップな曲になった!」と叫んだ。
両面ヒットとなった<ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー>をカヴァーする者が増え、ビル・モンロー自身、最初はオリジナルで歌い、途中から4/4拍子の曲に変調するスタイルをとるようになった。

ロックンロール誕生の場合も、ジャズ、ダンス音楽、R&B、C&Wさらに枝分かれしたカテゴリーがそれぞれ相互依存の関係のなかで進化し、さらにカウンターカルチャーが乗り出して、まさにこうした相互作用の豊鏡さが、システム全体の自発的な自己組織化を可能にしたのです。たとえば、物質的欲求を満たそうとしている人々は、個人間の無数の行為をとおして、無意識のうちに一つの経済活動に自己組織化していく。責任を有する者も、意識的にそれを計画する者もいないのに、そうしたことが起こる。これが「複雑系」であり、ロックンロール誕生もその最たるものなのです。

エルヴィスが登場した時、エルヴィスはダイレクトに公民権運動を訴えませんでした。しかし白人優越感に浸っていたヒトにとっては脅威であり、公民権運動を後押しする存在になるのは明らかでした。映画『エルヴィス』でもB.Bキングに言わせています。B.Bキングの目には、エルヴィスは人種など超越した存在、公民権運動の先に立っている存在として映っていたのです。キング牧師のような立場にあるヒトはリトル・リチャードが57年に突然引退したようにロックンロールは有害な音楽だと信じていたようです。

エルヴィスにはどんなに辛い時も支えだった音楽がヒトをダメにすることはあり得ないと信念がありました。ロックを聞きながらドラッグに若者が手を出すのがいたたまれないのでした。それが1970年12月21日、ニクソン大統領と会見するためホワイトハウスに出向いたモチベーションになりました。そこでエルヴィスにとって音楽はカウンターカルチャーでもサブカルチャーでもなく生きる糧だったのです。「こんな気持ちがわかるかい?」エルヴィスの真実です。

空を飛ぶ鳥は周囲の鳥の動きに適応し、無意識のうちに一つの群れに自己組織化していく。生物は進化過程をとおしてつねに相互に適応し合い、相互に化学結合し、それにより分子という構造に自己組織化する。どの場合も、相互調整と一貫性を求めるエージェント群が個を超越し、ばらばらではけっしてもちえない生命、思考、目的といった集合的特質を獲得していくのです。

エルヴィス登場までは、売れなかった黒人ロッカーのレコードが急に売れ出し、白人ロッカーが次々に誕生した。支配的文化に対抗するカウンターカルチャーもその一つの現象です。第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカは1950代前半、空前の好景気にあり、映画『シザーハンズ』に描かれるような郊外にできたホームタウンに暮らすことがブームになる一方、それをよしとしない層が黒人の奔放さに憧れを持つというような現象が起こります。

映画『エルヴィス』

 

 

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