エルヴィス・プレスリーにとって、ゴスペルは心のふるさとである。
エルヴィスがロックンロールのルーツはゴスペルだと言い切る背景には、ゴスペルに対する畏敬の念がある。エルヴィスは黒人の音楽をカヴァーしてもわざとらしくない。映画『エルヴィス』で冒頭に描いたように、エルヴィスはエルヴィスとして幼少の頃から黒人の教会の通い、黒人と同じように歌ってきた。エルヴィスにとって日常風景だった。人種差別する人間からは「危険人物」とマークされてきたが、エルヴィスには差別もマークも、ただ不思議だった。
『ダーティ・ハリーシリーズ』で、クリント・イーストウッドをスターダムに押し上げたドン・シーゲルが監督した『燃える平原児/Flaming Star』はエルヴィス映画のなかでも「エルヴィス・プレスリーとは何者だったのか」を的確に描いた作品として傑作の呼び声が高い。原題の『Flaming Star』とは、先住民が死の間際に見る星の伝説に因んでいる。
エルヴィスが歌うゴスペル<ミルキー・ホワイト・ウェイ>と併せて見たい映画です。
ミルキー・ホワイト・ウェイ/Milky White Way
1441年。ポルトガル人が金、象牙、胡椒、ゴムの宝庫、アフリカ西海岸を調査していた折、捕らまえた12名の黒人を連れて帰ったことに黒人奴隷貿易は端を発する。
やがてポルトガル人、スペイン人が手に入れた中南米では、先住民インディアンを過酷な労働に狩出したものの、彼等は十分に土地、気候を熟知しており、また仲間もいることから、服従することもなく、思うように労働に使うことは困難であった。
そこで目をつけたのが、黒人だった。
やがて「黒い象牙」と呼ばれるまでに大きな利益と化していくにあたって、イギリス王室、スペイン王室まで巻き込んで「黒人奴隷制度」は合法化されてしまった。
イギリス王室から広まった紅茶はその産物である。
オランダ船によって北米に20名の黒人が無理矢理連れて来られたのは1619年のことだった。
食料品と交換された。やがて続々と人間の魂と身体が酒、たばこ、銃とに安直に交換された。
手足を鎖でつながれ、ムチ打たれ、蹴飛ばされ、「黒い積荷」が満員の船では身動きできないほどであったという。
親兄弟、子たちと離ればなれになり、傷を負い、病に蝕まれ、見せしめに殺され、反抗の芽をつむために殺され、絶望感から荒海に身投げする者も後を絶たなかった。
たくさんの黒人が船路の中途で亡くなったが、それでも業者は大きな利益を得た。
奴隷船を操った三角貿易はますます発展した。
無理矢理連れて来られた黒人から抵抗の心を奪うために、黒人を買った農場主たちは無知で無能、劣等であることをくり返しくり返し毎日にように疲れた心に刷り込んだ。
罰を加え、同胞から引き離し、教育は行わず、結婚はさせずに、生まれた子供は売り飛ばした。
そのようにして精神的にも、物理的に孤立させ、無力にした。
——長い間。
経済のドタバタのスキを突いて南部から大量に黒人が移り住んだ町–ケネディ大統領暗殺の翌年、1964年7月公民権成立直後の18日、15才の黒人少年が白人警官に射殺され歴史的な大規模人種暴動が発生、全米に波紋を広げた震源地の町。—-ハーレム。
ハーレムをひとりで歩いていると、1区角先とは空気が違うことに気がつく。
まるで違う国に来たようである。
メンフィスのそれとはまた違う、
ここは白人たちと共有して暮らす場所ではないと言ってるように、ファッションも匂いもみんな違う。
多店鋪展開している大型小売流通チェーンの看板が同じであることが妙に安心感を与えてくれるものの、ここは彼等が手に入れた町。
この町になびくアメリカ国旗には、また違う「尊厳」が透かし模様で入っているような気がする。
テネシー州メンフィス
エルヴィスのロックンロールによる突進は「黒人の陰謀だ」と根拠のない糾弾を受けながらも、垣根の一角を崩した。
しかし人種の隔たりは強かった。メンフィスはアメリカでも一二を競う危険な街だ、現地で暮らす人さえ身の危険を感じる場所がたくさんあるし、有名なビールストリートには、いつでもパトカーが常駐している。メンフィスに暮らすスターでエルヴィス以外に聞いたことがない。デンバーから列車でメンフィスに入ることを考えたことがありデンバーの駅でしばらく迷ったことがある。やめたほうが良いと言われた。理由はメンフィス近くになると襲われるということだった。とにかくギャングが多いという。だからひとりでビールストリートのライブハウスに出入りしていたら「日本から来てくれた」と紹介されて、拍手喝采を浴びる。
68年2月、メンフィス—-ゴミ清掃車を運転するのは白人で、一切ゴミには触れない。
雨が降れば車内で雨宿り、ゴミを扱うのは黒人。
それでもにわとりすら飼うことができない賃金しか支払われない。
作業中に荷台のスイッチの誤作動によって二名の黒人が圧死した、
雨の日の悲惨な事故が発端となってストライキが起こった。
メンフィス市長は公僕のストライキはテネシー州法違法として対立。
メンフィスに於けるデモ行進で、黒人たちは「賃金アップ」でもない、「平和」でもない、
全員が「I AM A MAN/私は人間だ」と書いたプラカードを持ち歩いた。
白人たちは黒人なら男も女も関係なく「ボーイ」と呼んでいた。
非暴力を守りながらデモ行進をする黒人を警官が挑発、
パトカーが整然とした行進の列を故意に乱す。
行進を乱すような行為はやめてくださいと懇願したにもかかわらず警官は無視して妨害をした。
それは人間であることを認めようとしない行為であった。
遂にメンフィス史上最も過激な人種対立が起こり、町は白人と黒人に2分される。
1948年11月6日13才の時からメンフィスに暮らすエルヴィスも白人という理由で苦しい立場に立たされ、黒人たちから批判的な言葉が投げ付けられた。
メンフィスは戦場になった
労働争議解決のためにメンフィスにノーベル平和賞受賞のキング牧師が呼ばれた。
「もう踏みにじられるのはたくさんだ。人間になろう」と集会所に集まった人々があたたかい気持ちと友情を支えに肩をよせあい立っている姿を見たキング牧師はメンフィスが公民権運動も含めて要になる場所と判断した。
「清掃作業員を支援してストライキを行おう、私も支援する」と全力を注ぐことを声明。
その夜にはカールしたままの女性が加わった聖歌隊がキング牧師の宿を訪問し歌った。
彼等にとって歌とは、感情の露出を伴った最大の言語なのだ。
5000人が「私は人間だ」のプラカードを持った。
事態はメンフィスの問題ではなく、全米の問題と化していた。
68年4月3日、嵐の夜にもかかわらず2000人が集会に参加した。
キング牧師の演説が人々の心を揺さぶり奮いたたせる。
「私は神の御心に従いたい、神は私に山頂に昇ることをお許しになられた。山頂から約束の地を見て来た。あなた方に伝えたい、わたしたちはみな約束の地に辿り着く。たとえ一緒に行けなくても、なにも恐れない。私はこの目で神の再臨を見た。」
希望を持つことへの興奮と死を予感した演説に2000人の参加者は立ったまま泣いていたという。
キング牧師暗殺前夜であった。
翌日、1968年4月4日マーチン・ルーサー・キング牧師は銃弾に倒れた。
頭には穴があいていたという。悲劇と引き換えるように黒人たちはやっと小さな勝利を手に入れた。
キング牧師の痛ましい死によって、よくやく白人たちは黒人たちに歩み寄ったのだ。
無理矢理、祖国から引き離されたアフリカ黒人が初めてアメリカの地ヴァージニアを踏んでから実に350年が過ぎていた。
5000人の唱和である「私は人間である」という言葉だけでは受け入れられず、スローガンに”平和を願う人間の死”と深い悲しみを添えることで、やっと言葉として受け入れられたのだ。
黒いエルヴィス「一体何が起こっているんだ」
ゴスペルの世界からロックンロールの世界に登場、”黒いエルヴィス”と呼ばれもしたマービン・ゲイが1971年に発表した美しく緊張感が漲った<WHAT’S GOING ON>。
ヒッピー・カルチャーとブラック・カルチャーが融合されたロックンロールの名曲として語り継がれるのも、黒人の叫びを白人が黒人のハートで受け入れ本当の意味で初めて共有したサウンドだからである。
海の底よりより暗い歳月を飛んでアフリカの大いなる母へ届ける血のような歌だ。
キング牧師の有名な演説「私には夢がある。いつの日か、私の幼い四人のこどもたちが、皮膚の色によってではなく、どんな資質の人間かで評価される国に住める夢が—–」が踏みにじられて、果てしない屈辱の淵から怒りと悲しみを抑えた柔らかな声で歌われた楽曲は語る。——–
”よく見てごらんよ、
世の中で一体何が起こっているのか。”
それはひとりひとりに投げかけられた暗黒の母からの声だ。
南北戦争、公民権運動、暴動が連続して起こった暑く長い夏、数々の暗殺事件を経て、<WHAT’S GOING ON>が話題になった時—–1863年の奴隷解放宣言が行われて108年、まだまだ彼等の人間としての尊厳は否定されたままであった。
ミルキー・ホワイト・ウェイを上っていく
言葉にならない悲しみや怒り、希望を語るために歌う。
ゴスペルとはあらゆる言葉を集めても話せない魂を語る人間の言葉。
言葉にならない悲しみや怒り、希望を語るために歌う。
ゴスペルとはあらゆる言葉を集めても話せない魂を語る人間の言葉。
エルヴィスはこころと身体で、正に適役だった『燃える平原児』のペイサーのように、その意味を知っている。そしてペイサーは、母である先住民カイオワ族出身のネディに会いに<ミルキー・ホワイト・ウエイ>を上っていくでしょう。
そう、私はあのミルキー・ホワイト・ウエイを上っていくのです
おお主よいつの日かきっと
私はあのミルキー・ホワイト・ウエイを
上ってい<のです
私はその天のきざはしを上りつめ
そこにしっかり立って
あのキリストを主とする群に加わります
私はあのミルキー・ホワイト・ウエイを
ずっと上っていくのです
おお主よいつの日かきっと
天国に着いたら私はまず
母に挨拶します(こんにちは、こんにちは、こんにちは)
そう天国に着いたらまず
私は母にこんにちはと挨拶します
その日私は母と握手をするつもりです
母の手をしっかりと握るのです
それはいつか私があのミルキー・ホワイト・ウエイを上っていく日のことです
おお主よやがて来たるべき日のことです
私は父なる神にお会いします
御子キリストにお会いします
私は父なる神にお会いします
御子キリストにお会いします
私は坐って私の苦しみを神様にお話します
私があとにしてきた地上のことをお話しするのです
それはいつか私があのミルキー・ホワイト・ウエイを
上っていく日のことです
おお主よやがて来たるべき日のことです
Yes, l’m gonna walk all that Milky White Way
O Lord, some of these days
Well, l’m gonna walk all hat Milky White Way
Some of these days, weli, well, well well
l’m gonna walk up and take my stand
Gonna join that Christian Band
l’m gonna walk all that Milky White Way
O Lord, some of these days
l’m gonna tell my mother howdy, howdy, howdy
When I get home
Yes, I’m gonna tell my mother howdy
When I get home, well, well, well, well
l’m gonna shake my mother’s hand
l will shake her hands that day
That’s when we walk all that Milky White Way
O Lord, one of these days (oh, some ot these days)
I’m gcnna meet (I’m gonna meet) God the Father (I’m gonna meet)
And God the Son (and God the Son)
Yes, l’m gonna meet (I’m gonna meet) God the Father (I’m gonna meet)
And God the Son, well, well, well, well (and God the Son)
l’m gonna sit down and tell Him my troubles
About the world I just came from
That’s when we walk all that Mllky White Way
O Lord one of these days
(oh, some of these days)
ミルキー・ホワイト・ウェイ
ミルキー・ホワイト・ウェイ(白い天のきざはし)は、1960年の録音。
エルヴィスの甘く優しい声が人気の曲。
トランペティアーズでR&Bチャート8位にもなった。
エルヴィスはゴスペルの世界で自分を探し、自分に語り、自分触れる。上質な人間でありたいと願う気持ちがこもっている。
自分を信じることのできる声だ。この声は何を達成できるのか?
人の心を安心の方向へ揺り動かす力の強さでアーティストの力が決められるなら、間違いなく20世紀を代表するアーティストである声だ。
エルヴィスは、同じ上質で他にも<天の主を信じて><ウィ・コール・ヒム>など透き通るような声で聴かせてくれる。
聴く者は信じることができる者の率直に共鳴し、自分が信じられる喜びに出会う。未来に希望することができる声だ。
しかし20世紀を代表するアーティストはそれで終わりだと言っていない。
ゴスペルを録音する同じ時に一方で<メリークリスマス・ベイビー><横町を下って>などを録音している。ゴスペルと併せて同じエルヴィスから生み出されたものだが、それらでは悪魔がダンスしている。
そこでは神への裏切りがある。しかし率直だ。告白がある。
私は坐って私の苦しみを神様にお話します
私があとにしてきた地上のことをお話しするのです
それはいつか私があのミルキー・ホワイト・ウエイを
上っていく日のことです
おお主よやがて来たるべき日のことです。
<ミルキー・ホワイト・ウェイ>のメッセージはとてもシンプルだ。
大半の人が自分の告白の機会を忘れるために、自分の川に捨ててしまった一枚のメモのようだ。
この曲は大事なことは告白することだと教えてくれる。
もう一度自分のメモを拾い上げて読めと言っている。
自分はいったい誰だ。
何をしようとしているのか。あるいは何がしたいのか。
何をしてきて、何をしていないのか。
告白の時間を探す勇気を持つために、感情を高める時間が必要だ。
その時に聴くレコードがこれだ。
それはミルキー・ホワイト・ウエイを上っていく時に告白に対して許してくれる声である。
神の前で親友として一緒に謝ってくれる声だ。
たとえ一緒に上がっていけなくても、どこからか聴こえてくる声だ。
それにしてもエルヴィス1971年録音の<素晴らしいクリスマス>の孤独感はいかがなものか。
目に素晴らしいクリスマスが映って、尚—-エルヴィスの孤独が痛い。
素敵な鈴の音に耳を傾ければ
その意味が分かるはず。
今年のクリスマスにはすべてのものに、心を開こう。
人の尊厳を誰も卑しめる権利はない。
誰も公道を安全に走る権利を持っている。
駐車違反のクルマがその安全を脅かす。
誰も安全を脅かす権利を持っていないはずだ。
ひとりの人間が買い物をするために、遊ぶために、数多くの他者が安全を脅かされるのは、助け合いなのか?
そうとは考えられない。
他人が創造したもの、他人が得たものを無断で持って行く権利はない。
ルールではなく自分の生き方で物事を判断し、決めていく。
それが自分を生きること、人だと思う。
ELVIS 30#1 HITS
2002年9月25日全世界同時発売
1. Heartbreak Hotel/ハートブレイク・ホテル
2. Don’t Be Cruel/冷たくしないで
3. Hound Dog/ハウンド・ドッグ
4. Love Me Tender/ラヴ・ミー・テンダー
5. Too Much/トゥー・マッチ
6. All Shook Up/恋にしびれて
7. Teddy Bear/テディ・ベア
8. Jailhouse Rock/監獄ロック
9. Don’t/ドント
10. Hard Headed Woman/冷たい女
11. One Night/ワン・ナイト
12. A Fool Such As I/ア・フール・サッチ・アズ・アイ
13. A Big Hunk O’ Love/恋の大穴
14. Stuck On You/本命はお前だ
15. It’s Now Or Never/イッツ・ナウ・オア・ネヴァー
16. Are You Lonesome Tonight/今夜はひとりかい?
17. Wooden Heart/さらばふるさと
18. Surrender/サレンダー
19. His Latest Flam! e/マリーは恋人
20. Can’t Help Falling In Love/好きにならずにいられない
21. Good Luck Charm/グッド・ラック・チャーム
22. She’s Not You/あの娘が君なら
23. Return To Sender/心のとどかぬラヴ・レター
24. Devil In Disguise/悲しき悪魔
25. Crying In The Chapel/クライング・イン・ザ・チャペル
26. In The Ghetto/イン・ザ・ゲットー
27. Suspicious Minds/サスピシャス・マインド
28. The Wonder Of You/ワンダー・オヴ・ユー
29. Burning Love/バーニング・ラヴ
30. Way Down/ウェイ・ダウン
Bonus Song: A Little Less Conversation (Radio edit)/
ア・リトル・レス・カンヴァセーション(ラジオ・エディット)
ボーナス・エンハンストCD 収録ビデオ
1. A Little Less Conversation (Original) ア・リトル・レス・カンヴァセーション(オリジナル)
2. A Little Less Conversation (Extended Remix) ア・リトル・レス・カンヴァセーション(JXLリミックス)
3. A Little Less Conversati! on (Music Video) ア・リトル・レス・カンヴァセーションMTVビデオ・クリップ
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