ジョン・F・ケネディ大統領が健在で、アメリカが元気だった1963年4月10日、全米で公開された、エルヴィス・プレスリー主演 12本目の映画「ヤング・ヤング・パレード」(原題:ワールドフェアの出来事)は、前年1962年、シアトルで開催された万博を舞台にしたラブ・コメディ。
エルヴィスは全10曲の新曲を「ヤング・ヤング・パレード」のために録音。なかでもコミカルな失恋ソング<破れたハートを売り物に>を大ヒットさせている。また大瀧詠一さんは<ハッピー・エンディング>がお気に入りな様子だった。ナイスな選択ですね。
「ヤング・ヤング・パレード」からは<綿菓子の国>が最新作『エルヴィス』にも使用されている。
あなたにそっくり/They Remind Me Too Much Of You
都会的なアレンジで、大人っぽいエルヴィスが上手に表現されている楽曲が目立つ。
なかでもひときわきれいなラブソングが「あなたにそっくり」。
この「そっくり」の意味は、「そっくりさん」のそっくりではなく、「ぞっこん」の意味だ。
夜のモノレールの中、印象的な美しい画面が素敵です。
エルヴィスの真髄が脈々と流れます。
エルヴィス映画ベスト5に入るおススめのシーンだ。
花の香りを遠ざけて
青空を隠しておくれ
甘い愛の歌も聞きたくない
あまりに君を思い出させるから
若い恋人たちの抱擁や星や月も
見えないように隠して
そんなことはすべて忘れたいんだ
あまりに君を思い出させるから
永遠に苦しむのだろうか
毎日、一生続くのか
君と過ごした一つ一つの
思い出を振り返りながら
それでも君の心が痛まないのなら
二人の愛は実らない運命なのだろう
でもどうか戻ってきておくれ
もしもこれらの事が僕を思い出させるなら
コミカルで軽快なヒット曲「破れたハートを売物に」のB面としてシングル・リリースされたピアノとコーラスだけのしっとりとした曲。A面を追ってこちらも、チャート・インしている。
アメリカ、日本でも大人気だったテレビシリーズ『ボナンザ』のローン・グリーンが歌って大ヒットした「Ringo」の作者ドン・ロバートソンの曲。録音でも本人がピアノを弾いている。コーラスはザ・メローメン。
後年、日本企画のアルバム『バラード』に収録する計画だったそうだが、音質の問題から断念されたらしい。
『バラード』に収録された「Angel」などと同じくベスト盤には収録されたこともないので、音質を超えて収録され、あまり知られていないエルヴィスの多面な素晴らしさを広く知って欲しかったと思う。
エルヴィス・プレスリーとは何者だったのか
エルヴィスの魅力に「少年性」を挙げる人が多い。多くのファンは「誠実さ」を挙げる。
微妙に違うが、同じことを言ってると思う。
女性には「清純さ」という表現で「乙女性」を重視する人は多い。
だからエルヴィスファンは映画でのエルヴィスの相手役にうるさかった。
シェリー・フェブレーがもっとも多く共演したのも頷ける。彼女はもっとも乙女チックな相手役だった。
たとえ売春婦をしていても「乙女性」を失くさない女性もいれば、お嬢様でも「乙女性」のない女性もいるだろう。
少年性についても同じことは言える。
エルヴィスがあのポジションにいて、清廉潔白だとは誰も思っていないだろう。
それでも「誠実さ」「少年性」を否定しないのは、歌声ににじみ出るフィーリングに隠しきれないものを直観する。
世界中の多くのファンはそれに癒される。
彼らにとって「エルヴィス・プレスリー」とは置換不可能なジャンル・カテゴリーなのだ。
文化勲章を授与された高倉健さんは、「映画ではほとんどが犯罪者ややくざだったのに」と回想しながら、実生活では「母親が法律だった」とコメントされています。多くの人から愛された理由に「少年性」があったのではないだろうか。彼もまた置換不可能な俳優だった。
少年性にしても乙女性にしても、親との関係がひっかかる。そこには生きる悲しみが潜んでいる。
悪く言えば、親の期待に応えようと無理をしてきた顔が隠れている気がする。
エルヴィスの場合には、存命中から「天使性」と「悪魔性」の両極端が指摘されてきた。
映画「ヤング・ヤング・パレード」でも女性の親から銃で追われるかと思えば、少女を守って懸命に働く役柄を演じている。
愛した女性には、不良性を感じて引かれるが、少女の対する誠実さに惹かれる。
『ヤング・ヤング・パレード』には「今宵恋して」「おいらの世界」「ハッピー・エンディング」「綿菓子の国」など、物語にふさわしいハート・ウォーミングな曲がエルヴィスの柔らかな感情をたっぷり浴びて幸せそうに並んでいる。
現在アルバムは「ボサノヴァ・ベビー」が収録されている『アカプルコの海』とのカップリングでリリースされている。
シアトルで開催された万博を舞台にした映画『ヤング・ヤング・パレード』が公開された好調なエルヴィスは相次いで『アカプルコの海』も公開したが、この年、1963年11月22日、ケネディ大統領暗殺。マリリン・モンローの死から1年を過ぎての事件だった。エルヴィスも急速に元気に元気がなくなる。エルヴィスはすでにカンターカルチャーからアメリカに欠かせないメインカルチャーそのものだった。大瀧詠一さんのお気に入り<ハッピー・エンディング>は暗転した。
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