クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel:1960

エルヴィスがいた。

<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel>は賛美歌と誤解されるケースも多いが、賛美歌でもゴスペエルでもない美しいラブバラード。
<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel >は、エルヴィスが67年にリリースした<青い涙>の作者グレン・グレンの親であるアーティ・グレンが1953年に息子のために書き下ろしたナンバーで、同年のカントリーチャートで4位にまでランクアップした曲。
すでに多くのミュージシャンによる多数のカヴァーあったので<涙のチャペル>のタイトルで国内でも知られる。

エルヴィス・プレスリーのバージョンは、60年10月に<帰れソレント>をアレンジした<サレンダー/Surrender>と共にナッシュビルRCAスタジオで収録。エルヴィスもバックグラウンドボーカルを担当したジョーダネアーズも満足しなかったため、棚上げになり、65年シングルカットされるまでお蔵入りしていた。

クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel

ダレル・グレンのヒットで大変な人気になり、ジューン・バリやエラフィッツ・ジェラルドなどがカヴァーした名曲です。オリオールズという黒人グループがR&Bチャートで1位にランキングさせた。日本でも話題になり雪村いずみ、ペギー葉山がカヴァー。1957年にはエルヴィスのガールフレンドだったアニタ・ウッド、リトル・リチャードがカヴァーしている。

エルヴィス・プレスリーは、60年10月に<帰れソレント>をアレンジした<サレンダー/Surrender>と共にナッシュビルRCAスタジオで収録。エルヴィスもバックグラウンドボーカルを担当したジョーダネアーズも満足しなかったため、棚上げになり、お蔵入りしていた。

65年にRCAが「ゴールドスタンダードシリーズ」として、シングルカットし、イギリスでナンバーワン・ヒット(全米3位)させた他、世界中でヒット、ミリオンセラーを記録。

「ゴールドスタンダードシリーズ」は日本でもリリースされていたが、なぜか<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel >は通常盤としてリリースされた。

アルバム『ゴールデンヒム』のボーナスソングとして収録されている、

エルヴィスの魂が聴こえる

チャペルで祈る私の姿をあなたは見ましたね
そこで流した私の涙は喜びの涙だったので
私は満足の意味を知っています
今私は主にあって幸せです

そこは素朴で簡素なチャペルです
謙虚な人々がお祈りにやってきます
私は日々をしっかり生きぬくために
主がもっと私を強めて下さるよう祈ります

私はひたすら探し求めつづけました
けれどもここのほかには心の平和を得られる場所は
世界のどこにもなかったのです
今私はこのチャペルで幸福です

ここでは人々の心は一つです
私たちはこのチャペルに集い
ただ主の誉め歌を歌い主を讃えるのです
あなたはひたすら探し求めつづけるでしょう

けれども、ここのほかには心の平和を得られる場所は
世界のどこにも見つからないはずです
あなたの悩みをチャペルに持ってきてください

そしてひざまづいて祈って下さい
するとあなたの重荷は軽くなり
きっと新しい道が見つかるでしょう

 

リバプールサウンドが全盛の1965年。
ビートルズ<涙の乗車券>、
ローリング・ストーンズ<サティスファクション>
スプリームス<ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラブ>
ボブ・ディラン<ライク・ア・ローリングストーンズ>
等、エルヴィス以前には聞こえなかった永遠の名曲がエルヴィスが開拓した新天地に登場した1965年。

風のように静かな<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel>
サントラを除くと<悲しき悪魔>以来の勢いでヒットチャートを駆けのぼった。

<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel>の聴き方

<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel>を聴くとき、
自分の場合、キャンドルに火をつける
そして自分が冒した不本意な過ちに耳を傾ける

油断から生じた行き違いで、別れたヒトの無事を毎日を祈っています。
及ばずながらシンクロニシティの力を借りるしかない。
シンクロニシティ、つまり集合的無意識
ヒトはひとりではない、見えないけれど繋がっている。
見えているものが、すべてではない。

真夜中のグレイスランド。頭の中にはエルヴィスしかなかった。
グレイスランドの音符があしらわれた門の前で、車に轢かれそうになった。
だが、寸前で助かった。
エルヴィスが助けてくれた。
「気をつけて帰れよ。ビールストリートには行ったのかい
」と言った気がした。

聴こえた者には聴こえた。

エルヴィスが開拓した新天地

リリースはビートルズ旋風の真つ只中だった、
1965年4月だが、レコーディングは60年10月30日、31日にかけて行われた。
さすがにRCAビクターも、サントラ盤ばかりでは、エルヴィスの沽券に係わると考えたのか、
シングルになっていない録音を引っ張り出して対抗した。そのひとつでチャートを駆け上った。

61年2月の大ヒット曲「サレンダー」を収録するためのセッションのはずだったが、
エルヴィス・プレスリーは
<主の御手を我が胸に/HIS HAND IN MINE>など大好きなゴスペルを歌いまくって
ゴスペル・セッションと化した。

除隊後、新たな局面への不安と野心がみなぎった緊張の再活動へ自分を投げ込んだ様子が伺える。
この時のゴスペルは主に『心のふるさと/HIS HAND IN MINE』に収録された。

シングル<クライング・イン・ザ・チャペル/Crying in the Chapel>
裏面の<天の主を信じて>は
入隊前のアルバム『心のふるさと』からのカットだ。
両面が天の主のもとに整えられた。
こちらでもうっとりするほど柔らかなエルヴィスが聴ける。

『心のふるさと』を収録した時代。
ロックが市民権を得た時代ではなかった。
エルヴィス・プレスリーは白眉のスーパースターであったが、同時に非難の対象でもあった。
ロックンロールが一過性のものであるという印象が巷にも業界にもあった。
エルヴィスもそれに留まる気持ちはなく、野心的だった。

エルヴィスはあらゆるカテゴリーをロックンロールで洗い直した、
エルヴィス以前のミュージシャンにとって、神をも恐れぬ行為に映っただろう。
そこにビートルズが活躍できる場が誕生した、ゴスペルもブルースもカントリーもない、
あるのはエルヴィスが開拓した新天地だ、

カンツォーネ<イッツ・ナウ・オア・ネヴァー>での驚くようなパフォーマンスに続いて、
<クライング・イン・ザ・チャペル>はエルヴィス・プレスリーがどんなアーティストであるのか、
<クライング・イン・ザ・チャペル>は、ロックンローラーとしての
激しいパフォーマンスの向こうにある等身大の心情をさらけだしたセッションから生まれた。

エルヴィス得意のイントロなしのスタート、
ピアノとコーラスが追いかけるような展開は歌一本、
歌だけで音楽の頂点にたったエルヴィスならではの音楽への心意気が伺える。

しかしエルヴィスは、もっと深遠なものを求めていた。
身体の一部のようなジョーダネアーズも同じだった。

未完だった<クライング・イン・ザ・チャペル>

You saw me crying in the chapel
The tears I shed were tears of ‘oy
l know the meaning of contentment
Now l’m happy with the load

Just a plain and simple chapel
Where humble people go to pray
l pray the Lord that l’ll grow stronger
As I Iive from day to day

l’ve searched (I’ve searched)
And l’ve searched (I’ve searched)
But couldn’tfind No way on earth to gain peace of mind

Now I’m happy in the chapel
Where people are of one accord (one accord)
Yes, we gather in the chapel
Just to sing and praise the Load

You’ll search (You’ll search)
And you’ll search (You’ll search)
But you’ll never find
No way an earth to gain peace of mind

Take your troubles to the chapel
Get down on your knees and pray (knees and pray)
Then your burdens will be lighter
And you’ll surely find the way (And you’ll surely find the way)

ひとりの人間の人生の一場面を歌ったものだが、
イントロなしのスタートによって、
そこに至るまでのドラマが匂いたつ短編小説の香りのするような曲。
孤独な青年をそれ以上に孤独な表現者が描いた世界を呼吸とともに聴かせる。

”Get down on your knees and pray”
神の前にはちっぽけな存在でしかなく、
” l’ll grow stronger ”
神なしでは強くなれないことを心こめて歌っている。

ナマなエルヴィスが敬虔な気持ちをより一層身を正して立っている。
信仰心のない自分でも思わず教会の窓からのぞき見してしまう。
慈悲・慈愛に一歩近付く楽曲だ。

後発ながらエルヴィス盤はその最高峰となった。
”You saw me ””Get down “の声が離れない。
エルヴィス・バラード数あれど屈指の名作だ。
だが、自分はエルヴィスが求めていた愛は、もっと別の愛だと思い続けている。

 

 

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