メス・オブ・ブルース/A Mess Of Blues:1960

メス・オブ・ブルース エルヴィスがいた。

カナダのシンガー・ソングライター、ポール・アンカの美しい<マイ・ホームタウン/My Home Town>は1960年のヒット曲。
アメリカより10〜15年遅いようですが、日本も1955年(昭和30年)以降、高度成長期に加速度的に団地を核にレヴィットタウン(ホームタウン)作りにチカラ入ります。

メス・オブ・ブルース/A Mess Of Blues

ある自己啓発本に、エルヴィスの<ハートブレイク・ホテル>をかけたらコーヒーカップが割れたとありました。まるで悪魔の音楽とでも言いたいのか、意味がわかりません。

エルヴィスは、人種差別の壁をぶち壊した人ですよ。

1945年9月の第二次世界大戦終結を期に、アメリカは、未曾有の繁栄を迎えます。
1949年になると、郊外に住宅建設ラッシュが起こり、サバービア(郊外生活)を楽しむホームタウンができていきます。併せて車の普及がさらに進み、ラジオからテレビの時代を迎えます。
テレビを中心に家族がお茶の間にまとまった時代は、社会が一つになった時代でした。

物欲をテーマにした映画で人気のあったマリリン・モンローの有名な「(寝る時は)シャネル・ナンバーファイブ。(シャネルの5番よ。)」は当時の物質社会を反映した言葉です。

レヴィットタウン(ホームタウン)にある家の裏にはヤードと呼ばれる裏庭があり,そこにはバーベキュ用の炉、さらにはプ ールがある家もある。さらに日本人が憧憬のまなざしで注目したのが台所です。その大きさと明るさ, 巨大な冷蔵庫やオーブン,ミキサー,トースターなど最新の電化製品と眩いばかりのシステム キッチンなどは,日本の当時の暗い台所と比べてそれはまるで夢の世界でした。

日本でテレビが普及し始めた昭和30年代に,TVで放映されたアメリカのテレビドラマ「パパはなんでも知っている」「うちのママは世界一」「アイ・ラブ・ルーシー」など、家族はハンサムで包容力のある父親と美人でやさしい母親,オシャレでかわいい長女,明るくてスポーツ好きな長男,そして犬が一匹の豊かさと幸せを絵にかいたような風景であった。そこに使われる音楽は60年代の白人のアメリカンポップスです。典型的なホワイト・アメリカンでないエルヴィスが聴こえてくることはありませんでした。日本のJポップスは、この時代の曲をベースに作られました。

日本人は、それが増加するアメリカのサバービア(郊外生活者)向けの番組であることも知らず,この情景の背後にアメリカ南部 の貧困や黒人たちの公民権運動の存在も知らずに,この典型的なアメリカに憧れ、努力目標として見ていた。

サバービア

どこの家にも車があり、ひとり一台所有していると思いこまされました。

実は60年代初頭には、アメリカ国内には未曾有の繁栄に取り残された人々が地方から逃避して都会へ向かう人が増加していたのです。

それを歌ったのが、エルヴィスが70年にラスベガスのステージでカヴァーしたデル・シャノンの<ランナウェイ(悲しき街角)>であり、『ティファニーで朝食を』だったのです。

エルヴィス・プレスリーの悲しき街角/Runaway:1970
「キング・オブ・ロックンロール」と呼ばれることをエルヴィスは好まずとも、この名曲が印象を深めます。孤独な男の心中を語る神の声のようにスイートインスピレーションのコーラスが響きます。エルヴィスの解釈と力のある声が、抗っても抗っても堕ちていく無力感を強調、舞台劇を見るようなダイナミックさを称賛するオーディエンスの拍手喝采が共感を生みます。

エルヴィスはブランコでどんな夢を見たのか

エルヴィスの生家のブランコ

エルヴィス・プレスリーは、大恐慌の2年後、1935年1月8日午前4時35分、ミシシッピ州イースト・テュペロの小さな家で生まれた。つまり終戦の時は、10歳と8ヶ月。12歳の時にメンフィスに夜逃げ同然で引っ越ししています。思春期の頃にアメリカの主要な都市で、住宅ラッシュが起こっています。

その住宅には黒人が入居できませんでした。
もしひとりでも入居したら、95%の白人に家は売れなくなるというのが当時の考えです。

テュペロの黒人が多く住むエリアに育ったエルヴィスには、自然に白人も黒人もみんな人間だという思いが根付いていました。メンフィスに移っても同じです。

エルヴィス少年が12歳まで過ごした、ショットガンハウスと呼ばれる自宅の玄関の前のブランコで、どんな夢を見ていたのでしょう。

ポジティブな同調行動が働いていたのか、ファッションも黒人ぽいものを好みました。
レヴィットタウンもサバービア(郊外生活)も、エルヴィスには無縁の世界でした。

そのサバービアに、衝撃を与えたのが<ハートブレイク・ホテル>であり、<ハウンドドッグ>でした。エルヴィスは「黒人は昔からこんなふうに歌っていたんですよ」と紹介しましたが、実際にはエルヴィスの歌い方でした。でも心は黒人そのものだったのでしょう。エルヴィスには肌の色などどうでも良かったのです。たった一人で黒人の集会に出向くことも珍しいことではありませんでした。

「エルヴィス・プレスリーなんて嫌いよ」とソッポ向くウーマン、「名前は知ってるけれど聴いたことがない」というギャルも、「エルヴィスが何者だったのか」考えて聴いてもらいたいものです。日本のロック、ビートルズのいうロックとも、本質的に違うのです。
ロックはゴスペルとブルースから

メス・オブ・ブルース

思わず聴き惚れる<メス・オブ・ブルース>は、セクシーにしてノリノリの泣き節ロック。

ブルースの名門 チェス・レコードで録音経験を持つドク・ポーマスとモート・シューマンが、エルヴィスのために書き下ろした快作だ。

<ラスベガス万才><ひとりぼっちのバラード><リトル・シスター><マリーは恋人><サスピション><キス・ミー・クイック>など、どれをとっても、電撃おたまコンビは快作揃い。

これだけ並ぶとエルヴィスの魅力を引き出す腕前はさすがと唸るのも当たり前、あのドリフターズの名曲<ラストダンスは私と>もこの二人の作品。

ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーと並ぶ強力コンビによるおいしすぎるピリ辛ナンバーはエルヴィス・マジックでどん底から頂点でクラクラ。

ブルージーなロックンロール<メス・オブ・ブルース>

お前の手紙が届いたよ
もう戻って来ないとか
一人ぼっちでいると
どうにかなっちまいそうだ
お前がいなくなってから
まったくドン底の気分だよ

日曜から一睡もしていない
一日中なにも食べられない
あの娘が出てって以来
毎日がブルー・マンデーさ
お前がいなくなってから
まったくドン底の気分だよ

★おっと、また涙がひとすじ
俺の頬をつたって落ちた
人間、恋をしていれは
泣くのは恥ずかしいことじゃない

☆何とか立ち直らなければ
頭までイかれちまう前に
悲しみをここに残して
夜の汽草にとび乗るさ
お前がいなくなってから
まったくドン底の気分だよ

くり返し★

くり返し☆

お前がいなくなってからまったくドン底の気分だよ
お前がいなくなってからまったくドン底の気分だよ

A Mess Of Blues

エルヴィス・プレスリーとは何者だったのか

I just got your letter, baby
Too bad you can’t come home
I swear I’m goin’ crazy
Sittin’ here all alone
Since you’re gone
I got a mess of blues

I ain’t slept a wink since
Sunday I can’t eat a thing all day
Every day is just blue Monday
Since you’ve been away
Since you’re gone
I got a mess of blues

★Whoops, there goes a teardrop
Rollin’ down my face
If You cry when you’re in love
It sure ain’t no disgrace

☆ I gotta’ get myself together
Before I Iose mv mind
I’m gonna’ catch the next train goin’
And leave my blues behind
Since you’re gone l got a mess of blues

Repeat★

Repeat ☆

Since you’re gone l got a mess of blues
Since you’re gone I got a mess of blues

Whoops !にサレンダー

メス・オブ・ブルース

Whoops !

泣きっ面を転がるteardropが思い切りの艶っぽさではじけて踊る。
水もしたたる声が、ブルースを蹴飛ばす瞬間だ。

♪ Whoops, there goes a teardrop
RoIIin’ down my face ♪

涙の中身は、ひと時、ひと時の記憶。
冷たい仕打ちに下がる沸点、ヒートは止まらず、ビートは脈打つ。
さよならを伝える手紙を送る女のやさしさと卑怯に打ちひしがれながら
いいところばかりが浮かんで浮かんで、消したい気持の邪魔をする。
悶々とする絶望的な情況を、エルヴィスの切ない声がズバッと伝えます。

♪ おっと、また涙がひとすじ
 俺の頬をつたって落ちた  ♪

消えるどころか、酔いどれ胸騒ぎも宴会並みの手拍子に、全身全霊が大揺れのスイング。
どん底までダイレクトに伝わる伸縮自在の声にナマズも躍る。

♪ 何とか立ち直らなければ
  頭までイかれちまう前に ♪

男はブルースに敬意をはらった後に、出直しを決意する。
ロックンロールだ!

♪ 人間、恋をしていれば
  泣くのは恥ずかしいことじゃない ♪

時は過ぎる。誰もが、同じままに、じっとしていることはできない。
一緒になるか、別れるか、
見捨てるか、見捨てられるか?
拒絶には耐えられても、見捨てられ感は心をえぐって魂まで傷つける。
人は無意識に、生きながらに死んだように暮らす者をたくさん 作ってきた。
女が幸福なら人は幸福になる。
男の選択は「女は絶対に見捨てない」。
泣くことは恥ずかしくないが、女を泣かせば生涯の恥。
恋の戦場で、自分が泣くなら名誉の戦死だ。

メス・オブ・ブルース!
エルヴィス、やってくれ!
ロックンロールだ!
揺れが止まらない!地球が大揺れだ!

2系統でエルヴィス節を発揮

<ラスベガス万才><ひとりぼっちのバラード><リトル・シスター><マリーは恋人><サスピション><キス・ミー・クイック>などの快作のコンビ、ドグ・ポーマス&モート・シューマンがエルヴィスのために書き下ろしたエルヴィス好みのブルージーなロックンロール。

歌詞も典型的なブルースで、新味に欠ける面もあるが、それを吹き飛ばして快調なのは、エルヴィス自身がツボにはまったパフォーマンスを見せていること、定番のような内容がかえって聴く方にも妙な安心があって、感情移入しやすい点が3重丸。

エルヴィスらしさが溢れる声がI got aをはじめ全編に爆裂して快感。随所に弾けるフィンガースナップが快調に拍車をかけて、おたまじゃくしが突撃。

どうしょうもなくブルーな状態にも、どこか楽観的な陽気が漂う、エルヴィスの素敵。癒し力につながる天性なのか。不思議。

70年代の光と音の祭典、キング・エルヴィスのスケールと比べたら、シングル盤の顔をしっかり見せている。

”レコード売ってます”の堅調の風が来てるのもうれしい。”エルヴィスはナマこそ最高!”に異論を唱えはしないけど、基本はやっぱりレコードでしょう。

<オーソレミオ>を下敷きにした大ヒット曲<イッツ・ナウ・オア・ネヴァー>のB面に収録だが、両面A面扱いの傑作で、きっちりイタリア民謡→アメリカンポップスとブルース→ロックンロールの2系統使い分けで健在ぶりを発揮。

ドーナツ盤をグルグル回しながら、しっかり感情移入、歌に救いを求めた男たちをサポートしたのも、素敵な仕事。

この歌にコメントは無用。ドン底気分の男の心情を察して、黙って聴くことこそ、礼儀だ。

では、ありませんか、ねえキング?

エルヴィスは生き方,2歳から学ぶ200年ライフのあそび方

 

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