「愛していると言ったっけ」は映画「さまよう青春/Loving You」のアルバムに収録されていたエルヴィスならではのロカバラードで、最初は「打ち明けるのが遅かったかい」というタイトルでした。
告った喜びを胸に、足は彼女のハートをつかんで、龍が天に向かって昇るようにカッコいいですね。
ヒーカップ&マンブリン唱法が泣かせる。
『スパイダーマン』が映画化されて本国でも日本でも大人気だ。テレビ番組だった『ナースのお仕事』も映画化されて好評のようだ。
有名なマンガやドラマの映画化は昔からあることだが、最近の映画化の理由は昔とは随分違うような気がする。
『月光仮面』がマンガとして登場したのが1958年。
それがTV化されて日本中を席巻した記憶のある方は多い。
映画化された『月光仮面』によってはじめて映像化された月光仮面に出会えた記憶を持つ人も多いだろう。
東京オリンピックが1964年だから、まだまだテレビが家庭に浸透していなかった時代、。
世界にエルヴィスを見せるには映画しかなかった時代のことだ。
銀ピカに赤が施されたシャツ、ギターを抱えながらもギターを弾かずに歌う<テディ・ベア>を大ヒットさせたエルヴィスが登場する『さまよう青春』は、そのまだ前の1957年の公開だ。
6月に<テディ・ベア><ラヴィング・ユー>をカップリングしたシングルと併せて、同名サントラ・アルバムに先攻する形でコンパクト・アルバムが2枚リリース。
次いで7月に残る4曲を加えたアルバム『さまよう青春/LOVING YOU』が1957年7月22日に発売されるやアルバム・チャート11位で初登場、以後連続11週トップになり、アメリカの夏を独占した。
この間の8月10日、エルヴィスはフロリダでコンサートを行った。
これがエルヴィスが68年のシッドダウン・ショーでも語っている有名なコンサートだ。
身体をくねらすことは青少年に対して好ましくないとの理由から、少年裁判所の判事が立ち合いのもとに行われた。
警官たちは逮捕状を準備していたが、エルヴィスは指を動かすことで、挑発しながら乗り切った。
雑誌「スクリーン」だったか、「映画の友」だったか、エルヴィス増刊号があった。
いきなりエルヴィスの世界に入り込んだ身としては、エルヴィスの世界にカルチャー・ショックを受けているばかりだった。
日本でのエルヴィス・プレスリー
エルヴィスがアメリカでチャートを独占していた1956年当時、日本でエルヴィス・プレスリーを知る方法は映画しかなかった。
しかし劇場にわざわざ映画を見るには、認知度が必要だ。この当時、日劇ウェスタンカーニバルで人気を集めていたのは、エルヴィスをコピーしたミュージシャンばかりではなかったのか。
肝心のエルヴィスは劇場で上映されているニュース映画で知るしかなく、話としてのエルヴィスだ。
なので『監獄ロック』が公開されたのは『ブルーハワイ』より後だ。これで当時のエルヴィスの認知度がわかる。日本ではロックンロールのキングではなく、歌う映画スター、エルヴィス・プレスリーだったのだ。
しかもアメリカのような人種差別問題は、関知しない状態なので、パッシング騒ぎになっていたエルヴィスの音楽のインパクトもチンプンカンプンの状態だったはず。『監獄ロック』が『ブルーハワイ』より後になるのも当然だっただろう。
パッシングを受けたエルヴィス像より、「たいていの人はいい人ばかりだ。本来の大人は自分なりに楽しんでいる子供を意味もなく攻撃しないものだ」と語る紳士なエルヴィス像にフォーカスしたもので、本の中身は2000年の『太陽』の増刊号のような作りで、かなり『アカプルコの海』に集中していたと思う。
「歌う映画スター、エルビス・プレスリー」
いま思うと、あの時代、つまり『アカプルコの海』が封切されようとしていた時期、なぜエルヴィスの増刊号が出版されていたのかと、ふと思う。
おそらく『ブルー・ハワイ』からの数年来の人気が持続、映画もテンポよく上映され、日本では支持がさらに増幅中にあったのだろう。この時期、本国とは少し違った日本ならではのエルヴィス像が強くあったではないかと思う。
いずれにしろ、『ガール!ガール!ガール!』はロードショウ館の中でも一流の劇場でパリッとロードショウされていたのは鮮明だ。
ヤングをターゲットにした春休みのロードショウ作品『アカプルコの海』はテレビでもよく紹介されていて、ロードショウ前にテレビ局が「名画試写会」という企画を開催していて、参加者を募っていた。
『ラスベガス万才』がGW公開だったが、一般への事前の露出は『アカプルコの海』が断然高かったと記憶する。
穴のあく程、よく見た増刊号に掲載されたエルヴィスのアルバム紹介ページのジャケット。
『エルヴィス・プレスリー登場!』『エルヴィス』『さまよう青春』『ゴールデンレコード第1集』『闇に響く声』『ザッツ・オール・ライト(FOR LP FANS ONLY』『エルヴィス・クリスマス・アルバム』『デイト・ウィズ・エルヴィス』『ゴールデンレコード第2集』『キッスにしびれた(エルヴィス・イズ・バック)』『G.I.ブルース』『心のふるさと』『歌の贈り物』『ブルー・ハワイ』『ポットラック』『ガールズ!ガールズ!ガールズ!』『ワールド・フェアの出来事(ヤング・ヤング・パレード)』『ゴールデンレコード第3集』そして新作の『アカプルコの海』
増刊号にはいつ見ても、いくら勘定してもエルヴィスのアルバムはこれだけしかなかった。
そしてそこに記載されている楽曲の中で、一番印象的だった「打ち明けるのが遅かったかい」というタイトルだった。
それがエルヴィスのイメージを決定づけた側面があったことは否めない。
カッコいいタイトルという印象は日本のB級アクション映画とオーバーラップして、多分『さまよう青春』という映画は『ガール!ガール!ガール!』と少し違う、ちょっと不良のおニイちゃんが、なんだかんだもめごと起こす映画なんだろうなと、それはやはりカッコいいタイトルの<破れたハートを売り物に><心のとどかぬラブ・レター>とは別物なんだという想像を楽しんでいた。
当時、一番聴いてみたかった楽曲だった。
愛していると言ったっけ/Have I Told You Lately That I Love You
Have I told you lately that I Iove you?
Could I tell you once again somehow?
Have I told with all my heart and soul how I adore you?
Well darling, I’m telling you now
Have I told you lately when I’m sleeping
Every dream I dream is you somehow?
Have I told you why the nights are long
When you’re not with me?
Well darling, l’m telling you now
*My heart would break in two if I should lose you
l’m no good without you anyhow
And have I told you lately that I Iove you?
Well darling, l’m telling you now
*REPEAT
Well darling, I’m telling you now
「打ち明けるのが遅かったかい」つまり「愛しているって言ったけ」は、1944年にスコット・ワイズマンの作詞・作曲。1946年ジーン・オートリーの録音したものがカントリー・チャート3位にランキングされた。
エルヴィスが子供の頃から親しんだ楽曲。
51年にはビング・クロスビーでヒット。
57年にエルヴィスは映画主演第2作、初のカラー映画『さまよう青春/LOVING YOU』のサントラとして57年1月19日、ラジオレコーダーズ・スタジオで録音。
リッキー・ネルソンはエルヴィス・バージョンをエルヴィスそっくりにカヴァーしてシングル・ヒットを放つ。
カントリーの大御所、マーティ・ロビンス、ウィリー・ネルソンも歌っている。
近ごろ愛していると言ったっけ?
もう一度言ってもいいかい??
心の底からどれほど好きか言ったっけ?
言ってなければダーリン、いま伝えたい
近ごろ寝ている間に見る夢は
どれも君の夢だと言ったっけ?
君のいない夜がなぜ
長く感じるか言ったっけ?
言ってなければダーリン、いま伝えたい
*もしも君を失ったら心は二つに割れるだろう
君がいなけりゃダメなんだ
近ごろ愛していると言ったっけ?
言ってなければダーリン、いま伝えたい
*くり返し
言ってなければダーリン、いま伝えたい
こちらが月光仮面やエイトマンに思いを馳せるガキっ子だったとしたら、エルヴィスはこんなカントリーに思いを馳せるおませな子だったのか、さすがキングと唸る。
好みというものがあるから、勝手な言い種に聞こえる方もいるだろう。
それにしてもこの時代、歌う曲が次から次へと、あきらかに情報が少ない時代に、エルヴィスならではのオリジナリティなスタイリッシュさで登場するのには、アメリカ人もきっと驚きの連続だっただろう。
カッコよく歌えるというのはすごいことだ。
「ブルー・スエード・シューズ」のように、そしてアルバム以外では聴けなかった「愛しているって言ったけ」のように。「愛しているって言ったけ」では、エディ・コクランのそれとは全く別物に仕上がっていて、楽しい。
「愛しているって言ったけ」を聴くための女性に生まれたかった。
エルヴィス・プレスリーの「愛しているって言ったけ」の魅力はとにかくカッコいいに尽きる。
Have I told you latelyのlyでぶちまけるくやしさの地団駄。Could I tell you once again somehow?youとonceの間のながい沈黙に宿った誠実。
Have I told with all my heart and soul how I adore you?の I adore you?が一瞬どこに行ったのか、
ウロウロさせるかと思えば、急に出て来てホッとさせることで表現される熱情の確かさ、
Have I told you why the nights are longで声が微妙にかすれるところに見えかくれする男ごころの切なさ。クラクラするほどのラブソング。リピートされる力強いMy heart would break in two if I should lose you.こんな風に歌われると、うっとりしてしまうのも無理ないことと納得。この曲を聴くために女性になりたい気分だ。
少なからず不安になったり、傷ついた恋人のために、マンブリンとヒーカップ唱法の両方を巧みに交互に使い分けながら、こんなに素敵に歌ってくれるなんて、歌ってくれてるという事実だけで、もう泣けちゃいますよ。ええ、ティシューにぎりしめて聴いてます。
一体、こいつはなんてヤツなんだって思いながらですね。
ジョーダネアーズも魅力的なコーラスでしっかりサポート、疲れた時には心にしみる逸品。
このカッコよさを、ひとりで追随するようなことは、誰も真似できなかったし、今後もあり得ないように思う。
エルヴィスのすごさがいかなるものか、もしエルヴィスを本当に聴くなら歌詞を見ながら聴いてほしい。
アンチ・エルヴィスなら少しはわかるはずだし、ファンはさらにのめりこむだろう。ーーー一見なんでもなさそうなカントリーっぽいこの曲はそれを語っている。
そして思うだろう、「エルヴィスは、とってもいいヤツだった。」と。
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