横町を下って/Down In The Alley:1966

エルヴィスがいた。

横町を下って」はボブ・ディランに「僕の宝物」と言わせたカヴァー曲「明日は遠く」と同じく『カリフォルニア万才』サントラ盤にボーナスソングとして収録、のちにコンピレーションアルバム『Tomorrow Is A Long Time』に収録されてリリースされたエルヴィス・ブルースだ。「明日は遠く」が味わい深いシンプルなフォークソングだったのに対して「横町を下って」は骨まで砕けそうな白眉のエルヴィス・ブルースだ。

エルヴィス・ブルースって、黒人ぽくないエルヴィス特有の誰にも真似のできないブルースだ。
黒人みたいにやるブルースは山ほどあるが、白人らしくやるブルースって聴いたことがないよね。
さあ、いくぜ!All Time Rock’n’ Roll,The King Of Rock’n’ Roll

横町を下って/Down In The Alley

ニュー・アルバム『リズム&ブルース』『カントリー・ロック』『グレイテスト・ヒッツ・ライヴ』がリリースされた。
一方では、ポスターが品切れになるほどの話題の人、小泉首相が「エルヴィスが好き」と発言したことで、エルヴィス・ファンの間でも湧いている。

『聴かずに死ねるか、エルヴィス特選ソング』は「それが出来る状況にあってもしないのがモラルというものよ」がコア、つまり真似ではなく自分流を貫くエルヴィススタイルが超絶な「横町下って」です。
で、曲はニュー・アルバム『リズム&ブルース』から1966.5月ナッシュビルRCA・Bスタジオで録音された「横町を下って」——-そのココロは——–聴けば一発解答。

1966年5月25日から28日の間、ナッシュヴィル・RCA・Bスタジオでアルバム『ゴールデン・ヒム/HOW GREAT THOU ART』のためのゴスペル・セッションが行われた。
ナッシュヴィル録音ではずっとプロデューサーを務めたチェット・アトキンスに代わってフェルトン・ジャーヴィスが就任。
翌年グラミー受賞となるアルバム作りにエルヴィスとともに参加したミュージシャンは以下の通りだ。

ギター/スコティ・ムーア、ハロルド・ブラッドリー、チップ・ヤング
ピアノ・オルガン/フロイド・クレーマー、ヘンリー・スローター、デヴィッド・ブリッグス
ベース/ヘンリー・ストレズレッキー、ボブ・ムーア、チャーリー・マッコイ
ドラムス/バディ・ハーマン、D.J.フォンタナ
ハーモニカ/チャーリー・マッコイ
サックス/ブーツ・ランドルフ、ルーファス・ロング
スティール・ギター/ビート・ドレイク
トランペット/レイ・スティーヴンス
コーラス/ザ・ジョーダネアーズ、リッキー・ペイジ、デロレス・エドジン、ミリー・カークハム、ジ・インペリアルズ

66年5月25日に「偉大なるかな神」「高きところに」を収録したのを皮切りに28日までの間、集中的にゴスペル・セッションを行っているが、5月26日には「明日は遠く」と共に、本曲「横町を下って」を録音している。(27日には「ラヴ・レター」も録音)
本曲は当初『カリフォルニア万才』のボーナス・ソングとしてリリース。その後『明日は遠く』に収録されたが目立った扱いがされたことがなかった。
にもかかわらず数多い有名な曲を抑えて3枚組アルバム『アーティスト・オブ・ザ・センチュリー』に収録されている。その選択が納得のいくものであることは、横町を下れば分かる。

 

ドラムが静けさを切り裂き、”ジェニー、ジェニー、ジェニー”のコーラスとともにエルヴィスが歌い、ハーモニカが後を追う。「さあ、やるぜ」と言わんばかりの出だしで始まる、この魅惑的なブルース———-チップ・ヤングのビートなギターとブーツ・ランドルフのサックスをロックさせ、エルヴィスは桃源郷へ進んで行くーーーーまるでチンピラ・グループが自分の好みの相手を探しながら、色街を練り歩くように、それぞれのパーソネルのどれもが伴奏ではなく、それぞれが自分を解放し、自分をプレイしているのだ。ーーーーでありながら、まとまっている様は完璧で凄まじいまでの魅力だ。

ジェニー!ジェニー!ジェニー!

ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー・ジェンキンズ
ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー・ジェンキンズ
横町でお前と二人っきり
三時半まで踊りに行くぜ
ロックして、リールして、楽しむさ
横町を下った所でな
今はお前を埋めといて、後で掘りおこすのさ
だってお前ときたら見事なサツマイモ
思いっきり騒ぐけどそれだけじゃないぜ
横町でお前と二人っきり
時計が呻くように時を刻む
この時間にゃ俺の愛も弱くなり
お前のキスが恋しいよ
そうさ、横町を下りゃ俺がいる
横町を下れば楽しめる
一時半から盛り上がる
近くにいるなら寄ってきな
横町を下ればわかるから
ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー、ジェニー、
ジェニー・ジェンキンズ、ジェニー・ジェンキンズ

(訳詞:アルバム『明日は遠く』より引用)

エルヴィスは、この極めて世俗的で猥褻な匂いが強く漂うブルースをゴスペルとともに意欲的にノリに乗って、録音している。白い教会を抜け出してネオン街を練り歩き、いつの間にか、教会に戻って神妙な顔つきでゴスペルを歌っているかのように。

しかしこれぞ、エルヴィス!天使と悪魔の申し子の真骨頂が伺える。ゴスペルとエルヴィスの問題は以前も書いたが複雑だ。エルヴィスは、その境遇から長きに渡って抑圧することを課して来た。抑圧から自分自身をロック(揺さぶり)し解放したのが、サンでの画期的な録音であり、そこから始まるロカビリー旋風と前代未聞のパッシング。

いまではパッシングされるのがステイタスのようになっているが、エルヴィスの前にエルヴィスなしの当時、この先どうなるのか予測もつかないままに疾走していたエルヴィスがエド・サリバン・ショーでのゴスペル「谷間の静けさ」に辿り着く。アメリカ中に「エルヴィスは好青年です」と紹介された瞬間、母グラディスの喜ぶ顔も脳裡にくっきり浮かんだはずだ。待ち望んだ評価を受けて、自身への揺さぶりをスローダウンさせた。

Elvis - Down In the Alley (Live 1974)
Elvis Live August 1974 Las VegasWonderful performance from one of my favorite Elvis' concerts. And one of my favorite Elvis jumpsuits.My other Youtube channe...

時は流れてメジャー・デビューから10年が過ぎた1966年。自分をありったけの力でロックさせ、生命の躍動をあれだけ確かに表現したエルヴィスがその後、映画に封じ込めていた力量の真価を「自由と尊厳」をコアにしたゴスペルで発揮すればするほどに、自身の生命の解放をしたくなるのも無理がないのではと察する。まさしく天使の心も、悪魔の心も、その両方がエルヴィス自身はもちろん誰にとっても命の源であると語り、それを歌で表現する瞬間、生きるエクスタシーが身も心も疾走したのではないだろうか。悪魔を受け入れる心の広さが、後年地響きがするような雄大さに発展して行った原動力であるように思えるし、「フール」「心の痛手」などそこでは悪魔すらも、許されなだめられているようである。

NBCライヴの宝物、シットダウンショーで仲間から「もっとダーティにやれ!」と声が飛ぶのも、そこにエルヴィスの真髄があるからだ。エルヴィスはロックンロールによってブルース(悪魔)に勝った男だ。悪魔的にやればやるほどに自分の中での葛藤が起こり凄まじいエネルギーが噴出するのがエルヴィスなのだ。

陰のある反抗的なキャラクターを主人公にした映画「トラブル」を歌った「闇に響く声」「監獄ロック」などに代表されるように入隊以前の映画用の楽曲とくらべ、除隊後のそれらが平坦に聴こえがちなのは曲そのもの出来栄もさることながら、好青年たる主人公のキャラクターを表現する多くの楽曲には、悪魔の心を宿らせる術がなかったからではないだろうか?

サントラ用の楽曲ではどちらかというと、微妙な感情の綾を表現したしっとりとしたバラードやコミカルな味わいのあるポップな曲が冴えているのも、そういうことではないのかと思うのだ。

超絶!エルヴィスのリズム&ブルース

「横町を下って」がM-G-M映画『カリフォルニア万才』のサントラ・アルバムのボーナスソングとして収録されたことは興味深い。

『フロリダ万才』のシェリー・フェブレーと再度コンビを組んだ、映画『カリフォルニア万才』はその出来は別にして、社会情勢の激変もあってエルヴィス映画が興行的についにトンネルに入った頃の作品だ。
エルヴィスは、歌では好調、ゴスペルへの意欲と共に、「横町を下って」では楽しんでいる様子が活き活きと伝わるパフォーマンスを残している。

チェット・アトキンスに代わってフェルトン・ジャーヴィスが熱意をもってこのセッションに取り組み、エルヴィスも本来の力量で応えた。
「恋の特効薬」の黒人R&Bグループ、クローヴァーズがヒットさせたこの曲が取り上げられるにあたって、どのような経緯があったのか分からないが、最終的にエルヴィスが選択したことは、エルヴィス自身は、本能的に自分が進むべき道がどこにあるのか、はっきりと感じていたのではないだろうか。
エルヴィスは「横町を下って」やディランの「明日は遠く」をあっさり自分流に料理、キングらしい仕事をしながら、このセッションで1960年『Elvis Is Back!』のインスピレーションを取り戻し、『68年TV スペシャル』へ向かった。———-それにしてもこの曲のドライブ感は半端なく魅力が溢れている!神を見た!

「横町を下って」を収録したニュー・アルバム『リズム&ブルース』は『ロックンロール』『バラード』『バラード2』に続く一連のシリーズものだが、特に『リズム&ブルース』はエルヴィスの魂に迫った魅力的なアルバムだ。

  1. ミステリー・トレイン
  2. アイ・ガット・ア・ウーマン
  3. マイ・ベイビー・レフト・ミー
  4. ハウンド・ドッグ (ライヴ)
  5. ワン・ナイト・オブ・シン
  6. 恋は激しく
  7. サンタが町に来る
  8. トラブル
  9. ライク・ア・ベイビー
  10. リコンシダー・ベイビー
  11. アイ・フィール・ソー・バッド
  12. リトル・シスター
  13. 横町を下って
  14. ビッグ・ボス・マン
  15. ハイ・ヒール・スニーカーズ
  16. ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ (ライヴ)
  17. ホーム・タウンのストレンジャー
  18. わが愛の力
  19. ホワッド・アイ・セイ (ライヴ)
  20. シー・シー・ライダー (ライヴ)
  21. メリー・クリスマス・ベイビー
  22. フィーリン・イン・マイ・ボディ
  23. スティームローラー・ブルース (ライヴ)
  24. シェイク・ア・ハンド

Down In The Alley

Jenny, Jenny, Jenny, Jenny Jenkins
Jenny, Jenny, Jenny, Jenny Jenkins

Down in the alley just you snd me
We’re going balling till helf pest three
Just rocking end reeling, we’ll get that feeling
Down in the alley, oh baby, gee
I’ll plant you now end dig you later
‘Cos you’re a tine sweet potato
We’ll have a bell end thet ain’t alI
Down in the alley just you end we
The clock is striking a moanful sound
This time of evening my love cowes down
That’s when l’m missing your kind of kissing
Down in the alley that’s where I’ll be
Down in the alley we sure have tun
We just get started ‘bout halt pest one
So it you’re ‘round just drop on down
Down in the alley end you will see

Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny,
Jenny Jenkins
Jenny Jenkins
Jenny Jenkins
Jenny Jenkins

Down In The Alley:1966

エルヴィスは、まだ31歳だった。
映画『カリフォルニア万才』では、取り巻く環境のせいで老けた感じがする。
エルヴィスよりも、『サブカルチャー』全体がもっと若かった若いというより粗々しく、ケネディが死んで、アメリカは、エルヴィスのロックンロールよりも粗々しく揺れていたのだ。
そこから聞こえてくるもの、見えてくるモノはまるごと粗々しく叫んでいた。エルヴィス旋風が起こった1956年はエルヴィスが粗々しく若者は目覚める前で、エルヴィスによって目覚めようとしていた。1966年、アメリカは目覚めた若者で揺れていた。
その頃、日本はテレビを通してアメリカを眺めていた。
雑誌ポパイが創刊されたのは、映画『カリフォルニア万才』公開から10年後だった。

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