トラブル/Trouble:1958

エルヴィスがいた。

映画『トラブル(ELVIS)』で指一本でも動かしたら逮捕するという脅しのなかで、屈することなく、これが俺だと対決姿勢を見せる場面で歌われるのが<トラブル/Trouble>です。
結局監獄か軍隊かと二者択一で、入隊ドイツに追いやられます。象徴的に描かれていますが、そして誰もいなくなったのは事実です。王者エルヴィスは兵役を終え帰還しますが、ソフトなロックでお茶を濁し活動の場をハリウッドに移します。結局ビートルズらイギリス勢が上陸してくるまで、ロックはアメリカから消えますが、イギリス勢はアメリカ政府からすればロカビリーのパロディに過ぎなかったのです。アメリカが恐れたのは人種の融合でした。

<トラブル/Trouble>は、入隊ギリギリのタイミング製作され、1958年全米で公開された「闇に響く声(原題:KingCreole)」全10曲の1曲。製作・ハル・ウォリス、監督・マイケル・カーティス 共演・ドロレス・ハート、ウォルター・マッソー モノクロ・ワイド。日本公開1959年。

トラブル/Trouble

ジェリー・リーバイス、マイク・ストーラー共作の快作。1958年1月15日、16日、23日にハリウッド・ランチレコーダーズ・スタジオ、28日にパラマウントのサウンド・スタジオ。4回に分けて録音。

「闇に響く声」のもっとも注目すべき<トラブル>は15日に、シングルリリースされる強烈なロックンロール<冷たい女>に続いて録音されている。<トラブル>は<ざりがに>などとEP4曲入りでリリースでされた。こちらのEPの方が映画の舞台であるニューオーリンズの雰囲気が濃厚で楽しめる。

<トラブル>には、一般のミュージシャンと明らかに違うエルヴィスの特別な才能が光っている非常に凝った歌い方を自然体でパフォーマンスしている。”I’m Evil”ただのロックンローラーでないことを証明している。途中からアップテンポになるが、変調するときのエルヴィスは死ぬまでに聴いておきたい。エルヴィスには商業的な作品も多いが、エルヴィスに委ねることで禁断の領域に突入できるのだ。教科書なんかクソくらえと言わんばかりの手法が甘くワイルドな声によって手品のような鮮やかさだ。それによってエルヴィスの評価を下げようとする試みが行われるが、「ビートルズは面白くない」と言われるポイントにもなっている。

死ぬまでに聴きたいエルヴィス・プレスリー

エルヴィスは、「プロでは通用しない」と忠告されても、内心では「やりたいことが何かが見えていからいいよ」と耳を貸さなかった。エルヴィスはヒトと違うことをしたかったのだ。それはすでに素人として4ドルを払って録音した<マイハッピネス>で行われていた。自分の好きにやって、どう聴こえるのか試していたかも知れない。そのアセテート盤を受け取った友人も「プロでは通用しない」と思ったのかも知れない。エルヴィスには「やりたいことが見えていた」

メンフィスのビールストリートにはバーやレストランが建ち並び、夕方になると、そのステージでは仕事を終えたブルースマンが希望の底にある慍りを悪魔になりたいかのように歌っていた。エルヴィスのアセテート盤に録音した<マイハッピネス>と<心のうずくとき>はブルースマンたちのアメリカから抜け出す試みだった。

そして

トラブルを探してるなら
ちょうどいいとこに来たぜ
トラブルに巻き込まれたいなら
オレの顔を見てみなよ
生まれた時から歩き、口答えしてた
オヤジは緑色の目をした山賊さ
オレは凶悪、ミドルネームは「災い」
オレは凶悪、だからちょっかい出すんじゃねえ

自分からトラブルを探したことも
トラブルから逃げたこともない
命令なんて受けないぜ
たとえどこの誰からも
オレは肉と血と骨でできてるだけ
でもオレにケンカを売る気なら
一人で売るのはやめときな
オレは凶悪、ミドルネームは「災い」
オレは凶悪、だからちょっかい出すんじゃねえ

オレは凶悪、ものすごく凶悪な男
オレは凶悪、ものすごく凶悪な男
だからやめときな、やめときな
オレにちょっかい出すのはやめときな
オレは凶悪、オレは凶悪だからやめときな
オレにちょっかい出すのはやめときな
オレは凶悪、そうさ、オレは凶悪
だからオレにちょっかい出すのはやめときな

エルヴィス・プレスリーとは、何者だったのか?

エルヴィス・プレスリーは、大人しく真面目な人柄だった。ファンをはじめ多くのヒトはそう信じていたし事実そうだった。

傷ついたヒトにいつの間にか寄り添い、肩を抱く代わりに、歌を残していく。エルヴィス自身が、幼い頃から体験してきたことだった。エルヴィスは成人してその通りにしてきた。それがプロになる道になり、プロになってもずっと続けてきた。

その音楽が白人から伝わったものであれ、黒人から伝わったもので関係なかった。良いものは良い。シンプルで正しい自分流の基準、マイ・スタダードだった。

エルヴィスは何者だったのか?終生マイ・スタンダードに殉じたヒトだった。

怒涛のような人気に熱くなっていた時期に、エルヴィスは、判断ミスで燕尾服を来た犬に歌ったことがあった。そのことをファンから責められ、スコティ・ムーアら仲間からも責められ、悔しい思いもした。そのときさえ、マイスタンダードを裏切ったわけではない。激しい批判に立たされて、明日が見えない中で、ひとりになれず、揺れていただけだ。スコティ・ムーアは責めながらも「いいか、お前は音楽家なんだ。二度とするなよ」と激励した。エルヴィスは嬉しかった。

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